Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

\(^o^)/ヤター楽しい会社できたよー


 最初からおかしいと思ったんだと思ったときにはたいてい手遅れなんだと思ったのは目的地に向かう車でハンドルを握りアクセルを踏み込んでいるときだったりするから人生ってやり切れないと思う。数日前。「金曜の仕事がはやく終わったら林檎狩りへ行くぞ」と部長が言った。金曜は出張。部長の旧知の取引先と打ち合わせだ。同行する理由を尋ねると、部長は「本物の営業って奴を見せてやる。お前は何もせず見ているだけでいい…」と言った。僕行く必要ないじゃん。カタカナだけでなく他人の顔色も読めない部長は「それよりも交通費がかかりすぎている。無駄はビシビシ、カットしていくぞ俺は現代のケイロオス・ゴーンだ…」と続けた。いや。だからさ。僕の出張、完璧に無駄なんだけど…という感じで五里霧中な出張が決まった。


 「うおおお!」関越道を時速100キロで走る助手席で部長が叫んだ。「どうしたんですか?」「見ろ俺のケータイの電池がないぞ」「運転中なので見れませんよ」こいつとだけは死にたくない。「見ろ!」「僕は見れませ〜ん」。三日前から充電をしていないらしい。電池なくなるわな。仕方なくケータイを貸した。あとで次亜塩素酸ナトリウムで消毒しよ。がんばれNaOCl←化学式覚えててビックリ。急用っつーから貸したのに「楽天vsソフトバンク録画しておいて〜」「おじいちゃんは元気でちゅよ〜」ってくだらない話をされて可哀そうな僕のドコモ。


 しばらく車を走らせた後で「うおお!着信だーマナーモードだから音は出ないぞおお!」と叫んだ部長が電話の向こうの誰かと話を始めた。あれ電池ないはずなのに?「急に用事があ入って〜?ああ、そうですか〜」ええ?部長は電池の切れたケータイで話を続けた。「いえいえ、仕方ないですよ〜いやご丁寧にありがとうございます。ところで…」。車は長いトンネルに入った。部長のケータイは地底1000メートルまで電波が届くらしい。「わかりました〜。では日を改めまして…」。通話は終わった。「…ということで先方の都合が悪くなったので今日はキャンセルだ…」。「というわけで」って略されても意味わかるわけない。サービスエリアで部長はケータイを残してトイレに向かった。部長のケータイの電源ボタンを押してみた。電源は入らなかった。初めてみたよ、エア電話。大便を済ませてすっきりした顔で部長は言った。「よし林檎狩りだ」「帰らないんですか?」「あーかーいーりんゴーにーくちびーるよーせーてー」。帰りたい、帰れない、二度と出られぬ蟻地獄。


 林檎園なう。夕方。山の空気は冷たい。僕らのほかに人はいない。受付のオッサンは休憩モードだった。カラスの鳴き声。カラスは山へ帰っていくのカー。僕はいつ帰れるのカー。誰もいない薄暗い林檎の木の下でスーツ姿の中年が二人ハサミを持って立ち尽くしている光景は異様だ。黒いスーツは薄闇に溶けている。部長の頭のバーコードだけが夕陽をはね返していた。「顧客の首を狩るように林檎を狩る。ビジネスと林檎狩りは同じだ…」と呟きながら部長が林檎バチン。僕無言で林檎バチン。「林檎狩りは楽しいなあー」と部長バチン。「そろそろ帰りませんか?」と僕バチン。「見ろーいろいろな種類の林檎があるぞおー」、部長は山の中へ進んでいく。ケータイが鳴った。会社からだった。会うはずだった顧客からの問い合わせが会社にあったらしい。


『約束の時間をすぎているのですが、何時に来られるのですか?っていうかオタクの会社は馬鹿にしているのですか?』


 僕は薄暗闇のなかで立ち尽くした。林檎をかじってみた。酸っぱかった。こっちの林檎は甘いぞおおおー。部長の声が山に響いていた。カラスが鳴いていた。カーカー。僕はカラスになって飛んでいきたかった。カーカー。部長、殺るカー。んで今日になって件の顧客から契約打ち切りの連絡があった。ってこれがネタでも夢でもなく実話だから洒落になってないというか僕の会社はホントにダメ。ゼッタイ