Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

部長はなぜ地球を殺さなかったのか


 昨日、商談が長引き、ウチの部長と絶対にしくじってはいけないクライアントの方と僕の三人で食事をすることになった。「なにか食べたいものはありますか?甘いものでも不味いものでも何でもいいですよHAHAHA!」炸裂する部長のトーク。クライアントの方が「せっかく湘南に来たのだから海の幸でも…」と言うので僕は「海」「魚」「刺身」「イカ」「タコ」という言葉を街に探し求めた。「なるほど…」部長が、イカにも、相手の意を汲んだようにヘッドバンキングをして「お連れしたい、うまいハンバーグ屋があるんですよ。そこの肉は他のと違って黒く、楕円形。そして、なんと…」と言って、一旦静止し、反応をうかがい、反応が皆無なのを無視するように、「チーズが入っているんです」と狂おしげに言った。「なんて店ですか?」「…ザ・ガスト…」。めまいがした。ザ。じゃないよ。

 でガスト。部長がクライアントの方に、「ガスト、注文をするときはボタンを押せばいいのですよ、こうやって人差し指でピンポーン、ほら、聞こえましたか?聞こえません?じゃ今度は親指でピンポーン」と説明しているのを横目で見ながらオーダーした。ハンバーグとドリンクバー。「ドリンクバー。技術は革新するものだ…アイスはわかるが…熱いものをどうやって棒状に」部長がつぶやいていた。クライアントの方は聞こえないふりをしていた。


 ハンバーグがやってくるときのアガル感はいくつになっても変わらないですよねと言うと「確かに。童心に戻りますよね」とクライアント。大人の、社会人の、営業トーク。僕の横に座っている部長が僕の耳もとで「これからお前に特別に俺の契約を取れる『人たらし』を見せてやる…」と囁いた。リステリンの香りがした。部長がスーツの上着のなかから長細い箱を取り出しテーブルの真ん中に置いた。紳士的なクライアントの方が、それは?と尋ねると「いやいやいや。見つかってしまいましたか。いやいやいやお恥ずかしい話ですが、いい子ぶるわけじゃないですがエコ。エコ。実は地球環境に配慮して、マイ箸を持参しているんですよ。」。森林伐採につながる割り箸の使用をやめるという例のアレである。


 「それはすばらしいですね。わが社も‥」とクライアントの方がいうと部長は例の遠くを見るような気色の悪い顔面になり「地球船宇宙号(?)。地球を殺すわけにはいかない。美しく青い地球を後々の世代に残してあげたいだけです‥あとの世代にツケを払わせたくないですから。ツケはためるとキツイですから」と言った。そのクライアントはエコ関係だったりする。露骨な、人たらし。


 いざ実食。という段階になり部長が箸箱から箸を取り出した瞬間、時間が止まった。紳士的なクライアントの方も、コンビニの前で和式便座にまたがるような格好で時間を浪費している若者のような口調で意味なくね?と言い出しそうな顔をしていた。「環境について考えながら生活するとキモチがいいですなあーHAHAHA!」と笑う部長。チーズインハンバーグが口のなかでミンチ肉に戻っていく汚いようすを眺めた。クライアントの方と僕は、チーズたくさん入っていますね、チーズがとろとろでおいしそうですね、というような乾いた会話を続けた。


 食後、ドリンクバーのコーヒーを飲みながら、どこがバーなんだ、と悪態をついたあと、部長は、人殺しのような顔で人たらしのようなことを言った。部長曰く、不意打ちの商談。「どうでしょう。今回の件、わが社をひいきにしてもらえませんかね。エコだけに、エコひいき。なんつって」。商談は不調に終わった。客人を見送ったあと、部長は僕に言った。「あの人よお、環境とかエコとかわかってねえんじゃねえか?今朝からよお、地球を殺さないようにしたのによ、全然、俺の話に乗ってこねえしよお」。「一回使うたびに捨てないと不衛生だ…」部長自慢のマイ箸は【割り箸】だった。箸にも棒にもかからないとはウチの部長のような人をいうのだろう。


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