Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

キャバ嬢に「僕と契約して愛人になってよ!」と言ってみたら

 正月三が日からキャバクラへ行ったのは、妻への報復である。断じてキャバ嬢の優ちゃんから新春サービスのお知らせをもらって浮かれたからではない。少し遡るが妻は、北九州地方在住のヤリ友(槍の作成を趣味とする友人)の家へ泊まりにいっている。新婚早々正月不在。それだけでも許しがたいのだが、久しぶりに会った友人と、北九州一の繁華街中州にあるゲイバーへ行きたいなどという。


なるほど、出立前の嬉々とした様子はこの謀略のためか。「ゲイの為なら女房は中洲」とはよく言ったものだ。夫としての威厳と器の大きさを示し、僕は許しを出し、報復としてキャバクラへ走ったわけだ。もっとも、実際は僕が妻へキャバクラ行きを打診し、それに応じて妻が中洲ゲイバー行きを交換条件で出してきたのだが、結果として夫婦共々繁華街にでかけることになったのであるから、前後関係、因果関係はこの際どうでもいいはず。時が未来へすすむと誰が決めたんだ?


 歯間ブラシによる入念なブラッシング。鼻毛全抜き。おろしたてのブリーフ。最低限の準備をして店へ向かう。妻の繁華街通いが頭から離れず、どうしても今後の夫婦生活を案じてしまう。気が重いせいか、足取りが軽い。何かに追われるようにして僕は、知らず知らずのうちに駆け出していた。店の前で優ちゃんが某宗教団体に入っていることを思い出し憂鬱になる。まあ、そのときはチェンジすればいいだけのこと。大丈夫だ、問題ない。


 「カンパーイ!」。男性スタッフから1時間5,000円のところを新年サービスで30分3,000円でご利用になれますといわれ「ワリー。じゃあそれで」。そのような阿吽の呼吸で通されたVIP席でのカンパイ。ドリンクをもってくるバニーガールの目が潤んでいる。「潤んでいるのは瞳だけかいベイビー」。声に出さずにちょっかいを出す。最高だ。これだよこれ。鼻毛、抜いてきて良かった。


 胸のあいたドレスを着た優ちゃんは多少ふっくらとしたが中身は相変わらずだった。最近の僕の調子を訊いて、仕事も身体も芳しくないよ、と答えると「法に背いているから生命力が衰退しているんだよ」「ご本尊様を拝まないでいると滅びるよ」「土曜日暇なら正しいおこないができるようにしてあげるよ」という調子。からかうように「クリスマスに教会、年末に墓参りとナンジャタウンに行ったから、神仏の加護ちゃんは十分だと思うぽよー」というと、真顔で「課長、即死しちゃうよ」とほとんど泣き声だ。やばし。


 「いやいや人それぞれ神がいるからさ」「間違った神は神じゃないよ。○○○○(※自主規制)のご本尊様以外は悪で邪だから」「他の神様はどうして正しくないの、理由は?」「ご本尊様だけが正しいから他は全部悪なんだよー。土曜日青年部に行けば、正しい行いができて、悩みがなくなるよ、立派な人間になれるよ」「土曜日はゲ、ゲ、ゲゲ、ゲームやらなきゃ。スカイリム面白いよ」「他の曜日は空いているんだよね、都合のいい時間教えてよ、仲間を連れていくからさ。ねえいつ?。いつう〜?」やべー。結婚を機に専制君主制からお小遣い制へ移行して懐は苦しいが、背に腹は変えられぬ、僕は男性スタッフを呼んで「チェンジ」と言った。席をたつ優ちゃんが、携帯に電話するね、会社にもかけるね、出なかったら罰が当たるよと言っていたような気がする。幻聴であることを邪神に祈った。


 指名ナンバー1の楓ちゃんが来た。楓ちゃんは優ちゃんがいないときに僕についたことがある。胸のあいたドレスで「あげぽよ〜」。これだ、これがキャバクラよ。「いやーあんま調子よくないよ。上半身も下半身も」「えーマジでー。あ、お酒もらっていいですかぁ」。場内指名料で著しく懐が厳しいので、「内装かえたってことはないそうねー」などとアホなことを言い、適当に誤魔化していると「ドリンクお願いしまーす」と楓ちゃんが絶叫して目の潤んだバニーが酒を持ってきてスタッフが伝票を置いていくチームワーク凄い。ええー?という僕の不平不満は「かんぱーい」の声にかき消された。


 「下も悪いのー?あと名刺いただいていいですかー。あ、課長さんなんだスゴーイ」と楓ちゃん。「悪い。駄目。本当に全然駄目。楓ちゃんみたいなセクシーガールがお相手してくれたら治るかもなあ。ねえ、僕と契約して愛人になってよ!」。ドレスのあいた部分から胸の谷間を見下ろし、深夜アニメの名台詞を流用し、若者に媚びつつ嫌われない程度に本音を垂れ流す。反応は僕の予想をこえていた。「そんなに身体が悪いんだー。解決できる方法あるよ。土曜日会えるかな?」。…。土曜日と仰いましたか?楓ちゃん、君も、まさか。先の優ちゃんもそうだが、宗教的な方々は、なぜ、そのような発言を声のトーンを落とさずにできるの?「土曜日はもしかしてもしかすると正しい法を学ぶ的な何かですか?」「きゃー話はやーい。あたしも優ちゃんに誘われて通うようになったんだー。ご本尊様のおかげでお店でナンバーワンになれたしー」「チェンジ」。


 刹菜ちゃん登場。「飲み物いいですか?」カンパーイ、「名刺いただいていいですかぁ?」「最近調子悪いんだよね」「土曜日話できる?」「チェンジ」。愛ちゃん登場。カンパーイ。名刺。土曜日。チェンジ。樹里亜ちゃん登場。土曜。チェンジ。こいつら腐ってやがる…。

 「チェックだ!」


 僕は床を蹴るように立ち上がり、男性スタッフからクレジットカードを受け取る。1時間弱で3万円強。キャバ嬢軍団にエントランスまでお見送りされる。重厚な扉をあけた黒スーツの男性スタッフが僕に「土曜日、青年部でお待ちしております」と囁いた…。


 爾来、<悩みをわけあえる楽しい仲間が待っているから><ご本尊様を拝めばあげぽよ〜><天罰が下らないといいね>キャバ嬢の皮を被った女性信者たちからの勧誘が携帯と会社につづいており、名刺をわたしてしまった自分の迂闊さを反省している。苛々しながら携帯をいじる僕の姿を、商売女の誘いを固辞しているのだと勘違いしている妻だけがハッピー。


参考/「私はこれでキャバクラをやめました」http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20100211#1265883798

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