Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ブログが妻にバレました。

 「もしかしてあなたはフミコフミオですか?」

 突然の妻からのメールは僕を震撼させるに十分なものであった。妻は友人からの指摘で亭主の正体を知らされ、内容を確認したらしい。身の回りのことを書いている日記なので、身近な人が見れば、そりゃ、バレる。妻の画像も少しだけ掲載されているし。妻のメールは、絵文字やアラフォーには読解が厳しい表現が多用されていて眺めているだけで疲れるので電話。「フミコフミオという人のことを知っているかな?」いちど使ってみたかったZガンダムの名台詞。最近夫婦で観直しているのだよZガンダム。「プライベートや私の画像や裸ネクタイ画像をああいう形でインターネットに公開した馬鹿な人です…恥ずかしくないの?」と妻。正確な評論だな。恥ずかしくないと思っていた行為でも、あらためて他人から真顔で恥ずかしいと指摘されると恥ずかしく思えてくるから不思議だなあ。恥ずかしい。恥ずかしさのあまり顔が赤い彗星になる。


 しかし僕は悪いことをしたつもりはないから逃げも隠れもしない。僕は告白した。「私はかつてフミコフミオという名で呼ばれたこともある男だ!」。嵐のような妻からの詰問・叱責。僕は納得がいかなかった。おかしいのである。ブログで日記を書いていること、ブログの概要は教えたはずであるし、画像の使用許可もとったはずだ。妻は僕のインターネットの活動について、ただただ無関心だった。それをいまさら。なにをいまさら。嵐のあとに妻がいう。「面白くありませーん」。突き詰めるとそういうことであった。<もっと面白く書け><面白くないものに私の画像を添付するな><私を貶めるな><インポのくせに生意気だ>。妻はつづけた。「大変に傷ついたので慰謝料を請求しますー」。そんな決定権がお前にあるのか?とは、さもなければお母様に報告します、そんな言葉を前にして言えませんでした。


 慰謝料は法外なものであった。


 法外というかイリーガル。三日後、都内某所のアンダーグラウンド横丁に僕はいた。調査しておいた店。間口の狭い入り口を抜けて入る。細長い店内には男が数人。商品を見上げる複数の真剣な眼差しは、決して他者と交わらない。誰とも。男たちは上を向いたまま歩く者と床を這うように歩くものの二者にわかれた。空気が重い。妻から求められた法外なものは「母校の制服」。卒業イベント(何のだ?)にどうしても必要なのだという。どうしても本物でなければならないという。


 そう。ここはブルセラショップ。汚物が高値で売買される場所。僕の純潔バイバイ。


 壁を埋めるように陳列されたビニル詰めの物体には、<このは><せりな><うこん>と若い女性の名前を手書きで記した写真が貼られている。平成生まれは平仮名が多いらしい。ビニルのなかにある布状や綿棒状の、犯罪、のにおいのするものが何だったのか、確認する勇気はなかった。ブルセラショップの中心で、普通の街中にある制服ショップに行けばよかったのではないか、というナイスな考えが浮かんだが、38歳の男ひとりで街中の明るく人の往来の多い通りに面したショップに足を運ぶ暗い未来予想図がナイスな考えを打ち消した。無理だ。


 妻の母校の名前を青白い顔をした店員に告げる。目を合わせられない。結局のところ、こういう局面で人と目を合わせられるかどうかが大人物になれるかなれないかのボーダーなのだろう。青白店員は制服一式をテーブルに置くと、まるであらかじめそこにあった言葉をなぞるように、よくいえば棒読みで、悪くいえば感情を抑えた口調で言った。「セットでウン万円になります」「ウン万?!中古でしょ。ウッソー!」。声が裏返る。喉が渇く。私事ではあるが結婚によってお小遣い制になった僕の懐は大変に厳しく、そこからウン万円を捻出してしまうと、食事代を切り詰めることになり、ひぐらしのなく頃には栄養不足がたたって病気になるかもしれない。いや、しかし。この制服が未来を切り拓くのならば。意を決した僕は長財布をユニクロ製チノパンのポケットから火が出るような勢いで取り出し、ウン万円、具体的に申し上げますと七万円を店員に渡してロッキュッパーの小汚い制服と200円を手に入れたのである。


今、僕は制服を着た妻の写真を携帯の待ち受け画面にさせられている。ブルセラ愛好者だと誤解されるのが恐ろしく、往来で携帯を出すにも気をつかう。


ツイッターやってるよ!→http://twitter.com/Delete_All/



■お知らせ


電子書籍を書きました。「impress QuickBooks」(インプレス・クイックブックス)の第二弾です。役に立たないようで少しだけ役に立つ、そんな感じの文章です。真面目なソウルとライトな感覚で書きました。よろしく。

「恥のススメ〜「社会の窓」を広げよう〜」
フミコフミオ 著/インプレスコミュニケーションズ・デジカル 発行/希望小売価格 380円

(プレス)
http://www.ips.co.jp/news/2012/03/post_9.html

http://digitalharvest.biz/singlesbook/17_fumikofumio/