Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ブラック企業こじらせ型で働いてます。

 僕は食品会社の営業二課長。一課はまだない。弊社のホウレンソウは「放任」「連帯」「総括」。字面からだけだと日本赤軍を連想させる不穏なものだが、実際は、たとえば新たな仕事を与えられた人は指示や目標も支援もなく放置され、うまくいってあたりまえ、うまくいかなければ連帯した上層部から総括を迫られるのだから日本赤軍よりたちが悪い。

 緊急会議が召集された。集められた会議室には社長直筆の社是「四面楚歌」が掲げられている。内容は5月からスタートした新規店舗の不振とテコ入れについてだ。その店舗は社長からのトップダウン案件。この話を社長が持ち出したとき、周りの全員が反対意見と暗い展望を示した。「売上が社長の予想ほどには…」「立地の条件が…」「私にはとても…」。それらは社長の「おもしろそうだから」鶴の一声でこの世に存在しないものとされた。はっきりと覚えている。社長が、「この店舗の全責任はオレがもつ」と力強く仰ったお姿を。


 嘘であった。開業一ヶ月。売上、客数は当初の予想を大幅に下回った。資料に目を落とした常務が声を荒げた。「売上が予想の10%?確かなのか」絶望的な数値に会議室の空気が重くなる。現場責任者の弱々しい声が答えた。「そんな数字のはずは…」間違えであってほしい。「点が抜けてます。1.0%です」間違えでした。社長が、これくらいはいくだろうと示した売上は1日三十万円。実際の売上は三千円。ここにはスタッフの昼食代を含む。惨敗であった。


 全責任は社長にあるはず。四面楚歌の文字の下、誰も発言しない。トップ案件だけに不用意な発言は命取りだ。あのさあ〜。重苦しい沈黙を社長が破った。「この責任はどうするのよ。下に示しがつかないじゃん。」今なんと?「あのさ〜確かに俺が持ってきた仕事だよ?でもさ〜誰か死ぬ気で止めたか?」「いえ」誰かが言った。「社長からの…案件でしたので…」社長が声を荒げた。


 「俺からの話ならなんでもやるの?死ねと言ったら死ぬの?死なないでしょ。言うこときかないわけでしょ。自分可愛さに。言ってるよね。会社はあなたたち自身だと。だったら!会社可愛さに!止めないとダメでしょ!反対しなきゃダメでしょ!死んでもかまわないくらいのつもりで俺に反対しなよ。反対するのが仕事でしょ。某政党みたいにさー。俺の自己責任で終えたらあなたたち、成長しないよ!」めちゃくちゃだ。結局、この案件に対して最後まで反対した人物が責任をとることになった。反抗したために社長の怒りに触れたからだ。


 「あのさーこんなことやってたらいつになってもブラック企業になれないぞ」上層部はブラック=黒字だと思い込んでいる。ことあるごとにブラック企業を目指すと言っている。ブラック企業の正しい意味を教えても、ユニクロやワタミを成長優良黒字企業としか見ようとしない老害たち。何をいっても「伸びる企業はそんなもん」で片付けてしまう。話はどう立て直すか、テコ入れの話に。社長は、いろいろ意見はあるだろうが、これしかないだろうといって、案を出した。商品見直し、労務費圧縮など通常のテコ入れ案に加えて、社長はデータ分析の必要性を訴えiPadの導入を推し進めた。


 現在。社員スタッフは撤収。開業当初のパートスタッフは不振を理由の閉店で全員退職。一週間の休業のちにリニューアルオープンした店舗では暇を持て余した学生バイトがiPadでパズドラに興じている。社長直轄地なので誰も文句はいえない。社長も飽きてしまったらしい。売上は二千円に落ちた。最悪だ。ブラック化(黒字化)の見通しは立ってない。


 社長は会社は「社員ひとりひとりが夢を探して実現する場所」だという。「若い人材に開かれた会社にしたい」という。胡散臭すぎる。僕は飲んでるときに社長にその意味を聞いたことがある。酔った社長はこう答えた。「一人一人が夢を実現して会社に一定の利潤をもたらしたら給与が上がる前にいなくなって欲しい。知恵がつくとうるさいから」最悪だ。


 会議は数字の出ていない責任者たちの総括が続いていた。「生まれかわったつもりで頑張ります」「生まれかわったつもりで…」「生まれかわった…」この反省に何の意味があるのだろう。話題のブラック企業はまだマシかもしれない。僕の会社のように、特に目的やポリシーもなく無意識に社員を苦しめている会社は、社会的に批判もされずにグダグダとこのまま行くのだろう。ブラック企業にすらなりきれず、中途半端に。


 話は戻るが最後まで頑強に抵抗して責任を取らされた人物。それは僕だ。まだ一度も当該店舗を訪れたことはないけれども。本当、ウチはこじらせてる。



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