Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

同僚が解雇されちまった(続き)

 続きです。
 僕とモンスターハンター仲間であった経理部の新人君が解雇された。「9月いっぱいらしいです」他人事のように言う新人君に、理由を尋ねると仕事が出来ないからと言われたという。不当解雇の文字が頭に浮かんだ。許せん。心当たりを尋ねると勤務中二回ほど居眠りがあるという。不当解雇の文字が若干薄くなった。


 上席から退職届を書くよう言われているのも発覚。何もわからない若者に対して酷すぎる。「何かの縁だ。力になるよ」言ってやる。こうして、新人君から「どうしていいのかよくわからないのでお願いします」と請われ、僕は力を貸すことにした。先ずは現状把握だ。「おい、タバコとライター貸せよ」


 休憩室で新人君の上席、経理課長をつかまえる。彼は僕より先輩で年齢は四十代後半。業務以外での会話はゼロ。数年ぶりのタバコにむせながら「経理の新人君、解雇なんですって?挨拶にきましたよ」。


 経理課長は営業課長である僕と新人君の思わぬ繋がりに驚いたらしい。新人君は解雇を口外するなと命じられていた。僕にだけ打ち明けてくれていた。「彼とどういう関係?」探りを入れてくる。「共通の趣味で<狩り>を…」モンスターハンターとは言えませんでした。


 僕は解雇の理由をきいた。驚いた。不当解雇ではなかった。あった。新人君の名誉のために明かせないが、新人君には居眠り以外に確かに解雇されても仕方のない理由があった。


 解雇は不可避だった。しかし相手は新人だ。簡単に納得は出来ない。「新人でしょ。他の社員と同じ基準では厳しすぎるんじゃないですか?」「新人の特別規定がないからね。でも確かに解雇にあたる行為をしてるから。仕方ない。営業課長もわかるでしょ。課長のとこにも何年か前に新卒いたよね」必要悪君。かつて僕の下に所属し自らを「必要悪」と呼んだ新人の名前が。蘇る忌まわしい記憶。


 「新卒めんどくさいっすからね」と僕がいうと「正直、いなくなってくれて助かるよ」などと言う。「ちょっと待ってください。めんどくさいはありましたけど、いなくなって欲しいと思ったことはないですよ僕は。新卒の仕事が最初、かったるいのは承知の上でしょう…」と言いかかったところで僕は気づいた。我が社も他社と同様に団塊世代の定年退職がはじまっている。先日、人事課長が辞めていた…そういうことか。


 「彼を庇うつもりは毛頭ないすけど、新人が解雇される状況を教育する立場の人間が反省していないならよろしくないですよね。上からの評価もよろしくない」「彼に原因があるのだから仕方ないだろ」「仕方ない仕方ないって新人を解雇しなければならない状況をつくるなっつってるの。それ教育担当のあなたの評価としてはマイナスになりかねない。良かったですね。タイミングよく人事課長を兼務されていて」小さな会社だ。後任がいなかったおかげで彼が人事課長も兼務していた。人事スルー。「仕方ないだろう。何をいってるんだ」腐ってる。


 「それならもうひとつ」「何?」「彼、解雇なんですよね」「解雇だよ」「じゃあなんで退職届書かせてるのですか?」「書かせてない」「嘘つけ。アイツは無知だ!」と援護しているのか貶しているのかわからない言葉を僕は吐き「辞めるつもりがないあいつが何で自分から書くんですか。解雇と退職の違いすらわかってないアッパッパーなあいつが」。言いながら新人君を貶しているようにしか聞こえない。


 それでも、書かせてない、言った覚えない、としつこいので、「いいかげん認めなさいよ。さもないとこの足であいつを連れて労働基準監督署にいくぞ。いいの?それで」と軽く脅し、追い討ちするように「なんとなくわかりましたよ。人事課長の立場もつかって解雇をちらつかせてアイツの無知をいいことに、自己都合退職にしようとしただろ?あなたのマイナス評価は消える」。うまくいけば、この解雇は表に出ず、部下を育てられない、管理監督不足というマイナス評価も消える。言い返してこない。図星。こんな会社、将来ある若者がいてはいけない。


 「いい?解雇するなら正しく解雇しろ」僕は言うと「営業が会社の不利益に貢献してどうするんだよ」と返してくる。バカかこいつ…と言いたいところをこらえて「あんた、女にモテないだろ?」。どうも僕は不用意に敵を作りすぎる。


 解雇は覆せなかった。僕は半沢直樹のようなヒーローじゃなかった。自己都合退職に追い込まれずに済むこと。解雇予告手当。この二つだけ勝ち取ったことを伝えると新人君は頭を下げ「クエスト達成ですね」と極めて呑気に言ってきた。案外、彼のこの呑気さは武器になるかもしれない。巨大モンスターと戦うとき、必ずしも味方がいるわけではないから自分の武器を研いでおけと教えておいた。今、僕が狩り友に出来ることはこれくらいしかない。


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