Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

「なんとなく」離職率90パーセント

 年中同僚を見送ってきた。休み明けに3人辞めて、うち1人は今年入ってきたばかりの新人だ。新人が辞めるのは毎月のことで、ヴァンガード君、テルリン、アブラーノ、モンハン等々計7名。いずれも急の話であった。今年入社した若者8人のうち7人が退職した。一年以内離職率87.5%。嘘みたいな数字だ。


給料が安い、仕事がつまらない、残業が多いと本音をぶつけて辞めればいいものを、なぜか意識の高い僕私をアピールして、「会社のビジョンが見えない」「空気が汚い」「飲ミニケーションがストレス」「呼び捨てにされるのが原始的」とええかっこしぃの上層部に言い残すものだから、「また若者が辞めるやんけ。お前らのせいや」と上層部から当たり散らされる会社の下層で残る者はたまったものではない。


1ヶ月しか在籍しなかった若者の遺言で、喫煙スペースの利用時間は減ぜられ、飲み会は原則前日朝までにオファーしなければならず、呼び捨ては禁じられた。「うまくやっていたのに大変迷惑なことだ」「言った本人はいないくせに!」という声が、なあなあを是とするバブル期入社組から上がり、僕らロスジェネ三十代が若者たちのケアをすることになった。


何人か話を聞いて、若者たちが辞めていく理由がわかってきた。会社に期待する者は皆無であった。入った時点でいつ辞めるかカウントダウンを始めていた者も多かった。そんな会社を僕はみっともないとも思った。失望されるほうがマシだとも。若者たちが辞める理由は「なんとなく嫌だから」であった。彼らに言わせると、ウチの会社のウリである自由な社風も「なんとなく嫌」なのであった。「なんとなくって何なんだよ」と訊いても「だからなんとなくなんですよ」と返されるだけで埒が明かない。なんとなくは曖昧であるがゆえ何に対しても適用されていた。社風。交遊関係。待遇。エトセトラ。


「自分のことでなくてもその場にいない人の悪口を聞かされるのはなんとなく嫌なんです」「会社のダメな部分を聞くのはなんとなく嫌なんです」なんとなく、なんとなくと伝染病にでもかかったように新人たちは異口同音に言った。若者はデリケートだ。他人事をいちいち気にしていては会社勤めなどは務まらないと思うのだが、彼らは違うらしい。なんとなく、嫌。


会社の命に背くかもしれないが、彼らを留めようとしたことはない。「なんとなく嫌」の強固さは想定外でもあったが、去る者をわざわざ追わなくてもいいじゃないか。転職先があるのならそれでいいではないか。一緒に会社を良くしていかないかと言いたい気持ちはある。けれどその理想に達するまで我慢を強いるのは、忍びない。何より、出来ることなら僕も別のところに行きたい、そんな気持ちが日に日に増してきているのだ。


 僕はまもなく四十歳になる。この年齢だと転職先もままならないので辞められる羨ましさが先に立つ。そんな人間に若者を留める権利は、ない。人手不足のおかげで営業課長としての仕事以外の業務もまかされるようになってきた。休日も少ないが今のところ大きなトラブルも起きていない。上層部は労務費が圧縮できたと喜んでおり、「業務に支障なし」とし、欠員を補充する予定もない。


 今年入社した若者8人のうち7人が退職した。一年以内離職率87.5%。嘘みたいな数字だ。だが昨年は採用12人で退職11人。91.6%。若年層の離職率の改善に上層部は喜んでいる。末期すぎて光が見えない。なんとなく嫌だ。

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