Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

部下を庇った。

 僕は小さな食品会社の営業課長。先月、ある朝突然に、隣の部署の人間が三人退職した。弊社は沈没船から逃げる鼠よろしく、人材の流出が止まらない状況。人手不足。おかげで彼らの仕事が引き継ぎもなく僕に回ってきた。事業所の管理。マネージメント。それ以来、本業の営業に加えて、慣れない業務に追われる日々だ。


 すぐにある事業所の数字がおかしいことに気づいた。小さな飲食店。前々月末の数字と前月頭の在庫があわない。追っていくと半年ほど前から数字がおかしい。売上はほぼ横ばいなのに労務費や光熱費が上がっているのも不自然だ。前任者の怠慢。それから横領。不正のにおいを感じた。監査部に報告するか迷ったが、先ずは現状を把握しようと当該事業所に赴いた。


 営業の僕はその事業所のスタッフに顔を知られていないのを利用し、客として店に入りチェックした。食材を過度に使用していないか、オペレーションの無駄はないか、云々。適正だった。客席から見た限りではおかしいところはなかった。


 そこで営業時間外に抜き打ちで厨房を直撃することにした。深夜。営業時間を終えて2時間ほど経っているのに厨房がフル稼働していた。中に入ると普通に調理や盛付作業が行われていた。店長を呼び出して事情を聞いた。言い訳は出来ない状況だ。彼は「新商品の試作です」と言った。それから商品開発のノルマがきつくて、と付け加えた。


 半年前、僕が営業専任だった頃、《現場第一主義》を掲げた改革が行われた。『現場の声を拾う』という名目で、本社で行われていた商品開発が現場で行われることになった。僕は知らなかったのだが、その内実は商品開発費の削減だったようだ。もちろん商品開発をしなければ競争に勝てない。その中で『現場収支のなかで商品開発を』という方針が出された。各現場には、商品開発のための予算は与えられず、ノルマだけが付せられた。大型店舗であれば、食材費や経費の余裕があるため商品開発に割けるものもあるだろうが、小型店舗にはそんな余裕がない。同じ商品開発ノルマというのははっきりいって酷だ。


 店長は厳しい現場収支と商品開発ノルマに悩んだ挙句、数字をいじったという。重大な違反で、裏切り行為だ。彼の不正は許されるものではないが、システム的に無理なものは無理だ。現場を預かるようになって日は浅いが、部下を守りたい気持ちもあったし、何より、この無茶な現場第一主義を改めなければ、第二、第三の彼を生み出しかねないと思った。幸い、まだ監査の目は届いていなかった。横領であったら即座に報告するつもりだった。けれど僕は、自分の裁量で処理することにした。


 「今月分は営業部の予算で通すから稟議をあげろ。今までの分の理由書は俺宛てに報告書をあげてくれ」。僕は営業部の予算で処理することにしたのだ。営業開発部の企画作成のための試作という名目にすれば何とかなる。当月分だけ。一度だけ彼を庇うつもりだった。報告書をまって改革案を練って、上にあげればいい。彼への処罰はその際に下されればいい。もちろんそのときも僕は彼を守るつもりだ。彼は「ありがとうございます。助かりました。今後は気を付けます」といった。これにて一件落着。


 と思ったら、件の店長が、自己保身からか、監査部に対して「本社の担当から隠蔽を指示された」「今月も隠蔽のために営業の経費で落とすよう指示された」とゲロって、僕は3年ぶりに査問委員会に引っ張り出されることになった(前回→http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20100805)。なるほど。「助かりました」とはこのことね。僕はしてやられたのだ。件の店長とは査問委員会で対面する。不利な証拠しかないが、会いたくて会いたくて震える。怒りで。


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