Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

投稿写真のあの人は優しい目をしてる。

家のリフォームをするので父の机を整理していると本や雑誌と共に父が生前使っていた手帳が出てきた。故人とはいえプライベートだ。僕のように抱いた女リストとか書いてあったらどうしよう…つって中身を覗くのに少し躊躇したけれど、そんなためらいより、突然何も言わずに自殺してしまった父のことを少しでも知りたいと思った。僕は父の理由を探し続けている。
 
 
手帳を開いた。まず目に止まったのは僕によく似た丸っこい字体と、あの日に近づくにつれカレンダーを埋めていた予定が歯が抜け落ちるようにして少なくなっていくことだ。フリーランスで働く苦悩、職人気質といえば聞こえがいいが悪くいえば融通のきかない父の性格が垣間見えるようで、僕は胸が苦しくなってしまう。
 
 
また思い出す。ずっと僕の心に残り続けているあの日の前夜、僕と父だけの記憶。題名は忘れたけれどもバラエティー番組にせんだみつおが出ていた。ディティールは忘れてしまったけれど(もしかするとせんだみつおでないかもしれない)、せんだみつおは手帳をひらいて「スケジュールは今年いっぱい白紙!」という笑えない話を披露していた。当時、世間どころか自分のこと知らずの僕はそれを見て、一緒に見ていた父に「負け犬じゃん」と言った。僕が見つけた父とせんだみつおのまっさらなスケジュール。父が僕の心無い言葉を聞いてどう思ったのか想像に難くない。父は直前までバカなことばかり言って悩みや困難を表に出さなかった。それは父の優しさだったのに、僕は…と考えるとその取り返しのつかなさに押し潰されそうになる。僕には想像力と思いやりが欠落していて、父にはタフネスが不足していた。お互いに悩みを共有する努力も欠けていた。そう、頭ではわかっているつもりだけれども、父を殺めたのは自分という罪の意識とは死ぬまで戦わなければならないだろう。
 
 
手帳と一緒に僕が内緒で買ったはずのエロ本「投稿写真」が出てきた。まさか父が持っていたとは。ご丁寧にいくつかのエキサイティングな頁には付箋まで。父は残していく家族の辛さを笑いで和らげようとして投稿写真を僕からパクったのだろう。きっとそうだ。でも、ちっとも、全然、まったく笑えないよオヤジ。それどころか付箋紙からは父の生とバカさと優しさが、生々しく感じられてしまった。息子に負け犬と言われる一方で何も言い遺すことなくエロ本に付箋紙を遺した父。僕はバカで優しい父のような人間になりたい。近づきたい。近づくよ。誓うよ。父に謝るのは十分に生きて、それからだ。僕は手帳とエロ本を引き出しに戻した。色褪せた表紙の中で笑うスクール水着を着たモデルの目だけが優しかった。