Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

「ゆるい就職」はなぜありえないのか。

「ゆるい就職」なんてマジありえない。ノンポリの僕がそう考えるようになったのは今朝「ゆるい就職」について社長が僕に感想を求めてきたのがきっかけ。僕は「週休4日で月15万ほど稼ぐ、仕事だけが人生じゃない、夢にも恋愛にも全力投球したいというテラスハウスな若者にフォーカスした働き方の提案ですが、一言でいえば綺麗にデコレーションされた非正規雇用です」と個人的な感想を述べた。


すると社長は、危険ドラッグで呆けているような表情を浮かべ「勝ち負けの問題じゃないが…」と前置きしてから「それは負けだ。負け犬だ。そもそも使い勝手が悪すぎる」と切り捨てた。「ゆるい就職」がウチの会社に未来永劫導入されないことが決定した瞬間である。その事実は僕を安心させた。エネルギッシュな若者は僕の居場所を略奪しかねないからだ。僕は四十才。ポイントオブノーリターン。


実のところ「ゆるい就職」については賛成だったりする。超マゾでないかぎり仕事というのは出来る限り楽をしたい。キツイのツライのイヤんイヤん。当たり前だ。マゾでない人類のほとんどがそう思っているはず。だのに「ゆるい就職」は世間からの風当たりが強いようである。不思議だ。その批判のほとんどは「ゆるい」という言葉の持つ《楽してる》《怠けてる》イメージへの拒否反応だと僕は思う。これを提唱した人たちはネーミングセンスの悪さを自覚した方がいい。


一方、「ゆるい就職」に対する反論も「15万円きっつー」「20代棒に振るのwww」「要は非正規でしょ」「全然ゆるくねえし」というこれまたアレルギー反応のような浅いものばかりで何だか実体がないなあという感想しかない。ゆるい、ゆるくないの二元論にすぎない。


僕も「ゆるい就職」はゆるくない、むしろリスクの高いハードな働き方だと考える。アレルギー反応で口先を動かしているのではなく、経験から導き出した意見である。なぜなら僕はもっとゆるい、超ゆるい就職、真・ゆるい就職を知っている。中途半端なゆるさでゆるいを自称するな!井の中の蛙どもが!そんな憤りが今僕を突き動かしている。


超ゆるい就職。超ゆるい働き方。何を隠そう僕の仕事がそれ。僕は営業職/週休2日/正規雇用。なぜ超ゆるいのか。営業は数字であり、年間のノルマを達成してしまえばあとは自由だから。極論いえば何もしなくてもいい(怠けていると次の期が苦しくなるけど)。


以前、一足早くノルマを達成した僕は、つまらない職業精神を発揮して営業活動を活発化、結果としてノルマの数倍の数字を獲得したことがある。そのときの上席たちの僕への評価は驚くことなかれマイナスもマイナス、ノルマ未達成の者よりも低いものであった。予算とはその数字を守ることという評価基準から、ノルマ超過はマイナス評価とされたのである。


そのとき僕は真実を知った。数字さえ達成すれば何もしない方がいいという真実を。つまりノルマ達成さえすれば週休7日制の正規雇用。それが僕。これが本当のゆるい働き方。時間も金もある。夢も追える買える。教えてください。十五万円ぽっちで夢は買えますか?海は死にますか?山は死にますか?そのうえ勤続七年で漏れなく課長になれて、役職手当一万八千円がつく。年額だけどね。超ゆるーい。


僕は毎年だいたい4ヶ月でノルマ達成している。ノルマ達成までがキツいと言われそうだけど月十五万円で毎日牛丼を食べる生活よりははるかに楽。超ゆるい。ただし、ゆるく働いていることを上席に見透かされると夏休み返上のウォーターフロントで水着ギャルを眺める業務(海の家店長業務)に回されたりするので、働いているふりをする技術は求められる。


このように世の中には「ゆるい就職」よりも遥かにゆるい働き方があることも知っておいて欲しい。これを知ってしまったら「ゆるい就職」なんかキツすぎてありえないよ。正規雇用万歳。


そもそも週休4日で何が出来るのだろうか。週休7日制でゆるい働き方をしている僕のボンクラぶりを見ていただければ、ある程度の負荷をかけないと人間はダメになってしまうとわかるはずだ。それに本物の才能や真剣に夢を追う気概があれば、たとえ週休がゼロであろうと関係ないはずである。


いずれにせよ、前途ある若者たちには是非とも「ゆるい就職」を選び才能や可能性を腐らせていただき、超ゆるく働いている僕の居場所を侵すことのないようにしていただければ甚だ幸いなのである。僕はもう「ゆるい就職」すら無理なカラダに調教されてしまっているのだから。

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・「かみぷろ」さんでエッセイ連載中。
「人間だもの。」
 
・ぐるなびさんの「みんなのごはん」にてエッセイ連載中。
「フミコフミオの夫婦前菜 」