Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ランニングで僕のクララが大変に。

ランニングをしたらいきなりチンクロ率が急上昇して勃った。自然に勃ったのは7年ぶりだ。ランニングによって血行が良くなったのか。それとも下着無しでランニング・タイツを直に着て擦れたのが気持ち良かったのか。はたまた、公園でダンスの練習をするミニスカ女子高生たちを目撃したからなのか。理由はわからない。

妊活を進めている僕ら夫婦にとって大きな障害であり続けるEDが解決するかもしれない…そんな、希望の光が射したのは間違いない。ハレルヤ!クララが勃った!クララが勃った!一刻も早く妻にこの勇姿を見せたい。そう考えるのは自然だろう?

とはいえ、いくつかの問題があった。病み上がりのクララの勃ち姿は生まれたての子鹿のように弱々しく、今にも消えてしまいそうなものであったこと、勃った場所が自宅から3キロほど離れた地点であること。僕らの、真昼の月のような淡く儚い希望は今にも消えてなくなりそうだった。

 自宅から遠く離れた場所で、スマホや携帯、財布も持たずにタイツを履いて街中で股間を膨らませて勃ち尽くす中年男、しかもすっかり忘れていたのだけど右打者のアウトコースからボールゾーンへ逃げていくダルビッシュのスライダーの如く曲がっている僕自身の情けない姿、それをいつまでも無駄に晒し、油を売っているわけにもいかない。真面目な話になるが、あなたの今その瞬間の勃起があなたの人生最後の勃起になりうるのを忘れないでいて欲しい。

自宅に引き返すことにした。妻に見せるために。そして己の人間を証明するために。弱々しいとはいえ、下着を履いていないせいかタイツの上からでも、モノの形はハッキリとわかった。僕は後悔した。なぜ僕ぁこんなときにかぎって、子供のときから時折やってきたクララを股の下に挟む《女の子のマネ》をやっておかなかったのか、と。後悔先に立たずってホントだな、勃ちながら思った。

軽く駆け出した。前傾姿勢は速度を上げるためではなく隠すためだった。自宅まで、この勇姿を世界に知らしめるように遠回りに帰りたい気持ちをぐっと抑え、最短コースを選んだ。クララはさらに弱々しくなっていた。一刻の猶予もない。交番の前を通るコースだった。お巡りさんは、近くの歩道や駅のロータリーを監視するように交番の外に立っていた。その目前を勃起タイツで通過する。早足で駆け抜ける。不自然な前傾姿勢はかえって目立つのでやめ、威風堂々と普通に通過することにした。イメージ的には《ト》の字の姿勢。

 こうやってテキストにしているのは無事に生還出来たからだけれども、悲しい生還だった。僕はお巡りさんの前を威風堂々と通過した。した直後に歩道に落ちている革製の小銭入れを見つけてしまう。条件反射的に拾ってしまう。交番に届けるしかない。僕は勃起したまま踵を返し交番に小銭入れを届けた。簡単なやり取りを経て僕が交番を去る間際、お巡りさんは僕の股間あたりを見た。チンポジを直すだけで捕まる時代だ。変質者としてしょっ引かれるのも仕方なしと思いきや、お巡りさんは笑顔で僕を送り出してくれた。

僕はふたたび妻の待つ自宅へ向かった。もう不自然な前傾姿勢を取ることもなかった。すれ違う人たち、車、自転車は僕に不審な点を捉え、立ち止まったり、速度を緩めたりはしなかった。誰も。僕は気づいてしまう。僕にとっては大きな勃起でも、人類にとっては取るに足りないものなのだと。サイズ的に。

帰宅すると勃起はすっかりおさまっていて、僕は何の抵抗や引っかかりを感じることなくタイツを脱ぐことが出来たのだった。でも僕は嬉しかった。まだ、生きている、まだだ、まだ、終わらんよ。そんな生を感じられたから。真昼の薄く白い月のように微かなものだけど、僕ら夫婦に希望はまだあると確認出来たのだから。今は使い古しのランニング・タイツを僕にくださった社長に感謝するばかりだ。