Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ヒモになりたいと言ってみたら妻が。

  私はヒモになりたい。雨にも負けず、風邪にも負けず、皆にデクノボーと呼ばれ、褒められもせず、会社で働いてきた。毎日ヘロヘロ。一方、専業主婦の妻は家事をこなしてくれているものの、仕事をやめてから毎日ルンルンで毎日若返っているみたいだ。もう無理だ。君が働いてくれ。僕はヒモになる。攻守交替を宣言すると妻は「ノーサイド」と話を打ち切った。僕は、妻に出ていかれ寒い部屋に取り残された年老いた自分の姿を想像し、凍えそうなやもめ見つめ泣いていました。

働かなければならないのなら、せめて、生活に潤いを。ヒモになれないのなら、せめて、例の紐を。アニメ「ダンまち」で超話題、ヘスティア様の胸を押し上げる紐を、妻に試してもらいたい。胸を強調するとかそういうエロからではなく、胸の下、二の腕、背中を環状に結ぶ紐が見たいとピュアに思ったのだ。

「ひもで胸をもちあげてくれ」そんな生きるための僕の純粋な申し出を、決死の哀願を、妻は、その紐とはどういう意味ですか、と欧米の女性歌手のような抑揚のない日本語で答えるのでご説明差し上げると言葉を繋いだ。その気高い表情を僕は生涯忘れないだろう。

「わかりました。こういってはなんですが」「お、おぅ…」「その、紐で胸が持ち上がるかで男性は盛り上がっているのでしょうが」「お、おぅ…」「多くの民は持ち上がる上がらないは胸の大きさの問題と捉えているとは推測されますが、私の場合は違います」「お、おぅ…」「胸の重さの問題なんです…紐では無理です。せめて縄なら。残念!」それから妻は、私のブラには太いワイヤーが入っていますときっつい現実を僕に突きつけた。きっつー。

「そーですかー」と例の紐を断られた僕だが、仕事では感じたことのない充足感でスッキリしていた。そのスッキリした気分は妻の言葉で木っ端微塵にされてしまう。「キミの元気のないものくらいなら紐で引っ掛けて持ち上がるのですが」「あ、あぅぅ」思わず嗚咽。紐で持ち上げられクレーンのようにアップダウンしている己のムスコを想って嗚咽。クレーン6回上げ下げすればイ・ン・ポ・テ・ン・ツのサイン。

悔しいので執拗に「紐、試してみてよ」「なんなら僕が紐になるよ」と妻に懇願したが頑なに拒まれた。悔しさのあまり捨て台詞的に「垂れてるから?」と言ってしまうバカな僕。次の瞬間、妻から尋常でない殺気を感じたので、「たれパンダ、たれパンダ、たれパンダ見当たらないなー」と言って誤魔化したけど、へんじがない、ただのしかばねのようであった。そのまま妻は恒例の、実家に帰らせていただきます、となった。

今、部屋に一人。やることもないので自分のものを紐で持ち上げてみようか思案しているところだ。「紐だ」「例の紐だ」と想像の世界で無邪気に騒げるのは実に幸せなことなんだよ。ヒモになりたい。