Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

デスノートに自分の名前を書きました。

 シルバーウィークがシルバーを名乗っているのは、ゴールデンウィークの劣化版をアッピールする自虐心からなのか、ウィーク内に敬老の日があるように超高齢化社会への警鐘なのか、よくわからないが、その連休のど真ん中、9月21日に社長主催のバーベキュー大会が開かれる。ちなみに仏滅、飲み放題別6千円。サイコー。鬱になりそー。

 

 イベント自体もサイコーにイヤなのだが、もっとイヤなのは、出欠を取るために社内を回覧されてきた、欠席者だけが赤字で氏名と理由を書く「欠席簿」。「そこに名前を書いたら社内的に死ぬ」ともっぱらの噂から「デスノート」と揶揄されている。死因は過労死一択。会社に散々あやつられたあとでの過労死。ワーキング・ポア。やつらはグルである。

 

 既に社内的にゾンビ扱いされている僕は、これ以上死ぬことはないので何の躊躇もなくデスノートに自分の名前を書いた。《フミコフミオ》《欠席理由=休日だから》。ゾンビ社員の僕にはわからないけれども、人間社員が欠席簿に自分の名前を書くのは相当の勇気と覚悟が求められるらしく、たとえば勤続40年、プライベートにかかわるので名前は匿名とさせていただくが、半年前から奥様と約束していた京都旅行を理由にデスノートに自分の名前を記すはめになった内山幹夫さん(仮)58才は、赤ペンを走らせる手は震え、異常な発汗を観測するなど、そのまま卒倒してしまいそうだった。定年間近の社内的な死。悲惨だ。内山幹夫さん(仮)の姿を見たのは、それが最期でした。

 

 《欠席簿=デスノート》の嫌なところは、社内的な死を迎える他にもあって、名前を書くと社長の側近が飛んできて、対象者を取り囲んで会議室に押し込み、ぐるぐるとまわりながら「本当にいいのか?」「家族が泣くぞ」「将来を棒に振るな」「これはねーレクリエーションの皮をかぶった仕事なんだよ!」などと追い込みをかけて洗脳し、デスノートから名前を削除するように持ち込むことだ。取り囲む側も必死。社長から一人でも多くの社員を動員するよう命じられているからね。うわわわわ。あいーん。どきゅーん。僕に出来るのは、奇声をあげながらデスノートから己の名前を削除削除削除削除削除していく同僚たちを見守ることだけだった。

 

 不幸にも社長の側近と目が合ってしまう。脳裏をよぎるぐるぐる洗脳。僕も削除削除削除削除するのか、さよなら休日、ハローバーベキュー、総務部長の頭はオバQ。側近たちの対応は僕の予想を超えていた。路肩の石ころを見つめるような目で「君は…別にいいや」。こうして僕はバーベキューを欠席出来たのである…。

 

 逃げられた、というより見逃してくれたのか、違う、洗脳の対象にすらされなかったのだ。欠席できるのは嬉しいが、相手にされないのは悔しい。何この好きな子に嫌な顔をされたときみたいな嬉しいような悲しいようなキモチ。僕の名前はデスノートに燦然と輝き続けている。

 

 結局、連休中も仕事になった。納得いかないのは、連休中に仕事をしている僕が社内的に死んで、社長主催のバーベキューに参加した方が、評価が高くなるという事実。裏切り者。仕事を隠れ蓑にしやがって。そんな恨み節が周囲から聞こえてくる。休日に仕事をして同僚から恨まれるサイコーの職場環境に僕はいる。ストレスでそろそろ心臓が止まりそうだ。これがデスノートの力なのかもしれない。