Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

この病気の名前を教えてくれ。

日本シリーズで東京ヤクルトスワローズが負けたのが悲しくてやりきれなくてテレビ部屋でヤケ酒をガブガブ飲んでいたはずなのに目が覚めたらマンションの駐車場で体育座りしているのだから人生はワンダー。親切な人が「迷惑だから、迷惑だから」といって肩を揺らして僕を正気に戻してくれたのだ。静かに寝ていたのが何が迷惑なのかはわからない。意識高い人ってヤダね。着ていたはずの長袖Tシャツはなく、上半身裸、ステテコ一丁。実にみっともないことだ。抱えていた三リットルの焼酎はカラ。気化したのだろう。実にもったいないことだ。

午前三時、そんな状態で自宅に戻り、トイレに入る。アルコールがまわっていたのだろうね、バランスを崩してしまう。体を支えようとして壁に手をつく、その衝撃で、次の瞬間、バラバラバラっと上部の棚から大量のトイレットペーパーが落下してきた。ある意味想定内の事故であった。我が家には通販で買った緊急備蓄用の 1ロール150メートルもあるトイレットペーパーのセット(五千円近くした!)とは別に、常時、36本以上のトイレットペーパーが備えてある。ダースで3セット以上だ。僕は便座に腰をかけて棚を見上げるたびに、その大量のトイレットペーパーの圧迫感に心を痛めていたのだ。

妻が高級なペーパーを使うことに文句はないが、僕には古紙交換でゲットしたカミヤスリのような粗末なペーパーがあてがわれるのは納得いかない。そもそも妻は結婚して四年になるが一度としてウンコをした形跡がないのだ。ウンコをしないのにペーパーは減っているのだから山羊のようにトイレに隠れて食べているのかもしれない。紙食。夫婦とはいえ元は他人だ。生活習慣や趣味が完全な一致をみることはないのは僕だって理解している。紙食の趣味を禁じるほど僕は小さな男ではないはずだが、はて。

妻が様子を見にきたので大量のトイレットペーパーペーパーについて詰問することにした。僕は絶対に今日こそこのような所業はやめさせてやると強く思っていた。スワローズ負けたしヤケクソだ。トイレットペーパーを殲滅してやる。朝三時のトイレットで強く思った。僕は言った。「夫婦二人の所帯なのに、なぜ、こんなに大量のトイレットペーパーを備蓄しているのか」その理由を教えてくれ。嫌がらせなのか?何なのか。突っ込んだ聞き方もした。「ウンコをしない君に訊くのはナンセンスだが、来客、間男、空き巣、名称はいろいろあるが僕が不在のときの来客のウンコ頻度は多いのか」と。

妻は答えた。「予備の予備の予備が揃っていないと不安なだけです。もしものときに備えるのは妻のつとめです。無駄にしているわけではありません。備えるのは消耗品だけです。痛んでしまう食品類は備蓄しませんし。無駄とはキミの飲むお酒のことをいうのです」「うっ」殲滅したのは僕のほうであった。

確かに妻はあらゆる消耗品について予備の予備の予備まで準備している。ファブリーズ。ファーファ。ブルーレット置くだけ。バスクリン。妻は予備がないと不安で仕方ないという。しかし常に予備の予備の予備まで欠かさずに置いておかねばならないというのは、脅迫観念っつーの?何らかの病なのではないのか。

お酒臭い。なんで裸なのですか。アルチュハイマーなんですか。僕はいわれなき誹謗中傷をぶつけられ続けた。そのうち、あらゆるものに予備という予防線をはっている妻に対してひとつの疑念が浮かんできた。もっとも大きな消耗品があるではないか。僕である。酒の勢いで尋ねる。「僕の予備もあるのか?」回答はなく妻はただピースサインをしただけだった。二人っきりだよという意味なのか、予備と予備の予備の二人いるよという意味なのか、今、僕はピースの意味をはかりかねている。余談であるが、結婚時に買った明るい家族計画は開封すらしていないし、もちろん予備はない。