Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

インフル予防接種を受けたら人事から職務怠慢といわれたワンダーな話

僕の勤めている会社でインフルエンザが流行し、同僚がドミノのように倒れて休んでいる。見たくもない、幸薄い、うだつのあがらない顔顔顔を見ないで済むのでラッキー!といいたいがそうもいかない。過度のリストラで、ただでさえ所定の人員が足りていないからだ。実際、僕の属する営業部も、事務処理が滞り気味で、中途でピンクのチョッキを着た事務職員を採用するなどしているが、それでも所定休日の土曜日に出勤しないと回らない状態なのだ。一方、職業意識が高く、自己管理が出来てしまう僕は、自主的にインフルエンザの予防接種を受けておいたので、健康そのものだったりする。インフルエンザが蔓延して同僚が死滅しても僕だけが生き残ればいい、そんなゲスい個人主義が僕を予防接種に走らせたのだ。


体調がおかしいことに気付いたのは、突然現れなくなった大学生バイトの穴を埋めるために朝4時からレストランでマッシュポテトをつくるなどしてヘロヘロになった休憩時間、香りのないコーヒーを飲んだときである。香らないのではなく、鼻が詰まっていたのだ。ハロー!インフルエンザ!これでしばらく休むことになるだろう。仕事が出来ない。残念。無念。痛恨の極み。


診察の結果はただの風邪でした。しかし熱はある。頭痛生理痛吐き気はないがダルいし鼻水はズルズル。体温37.5度。平熱が低い僕にとって37度オーバーは微熱というには高すぎる。おそらく朝から晩まで働いた疲れが出たのだろう。休ませてもらおう。


翌朝。休みを取ろうと人事部に連絡したら、ダメだ、と言われた。ホワイ。「インフルエンザで自宅待機者が続出している。これ以上の欠員は業務がまわらなくなるから」という。反論をしたが、にべもなく、ダメだという。人事の人は、風邪をひいたのは自己管理がなされていないから、もし、出勤しなかったら職務放棄とみなすと言い切った。自己管理もなにも朝4時から夜9時まで働かせたのは会社でしょう。労務管理はどうなってんすか。こんな状況になったのはシーズン前に予防接種を受けずにインフルエンザに感染したアホが多すぎるからでしょ。と反論すると人事の人は、「勝手に出勤、勝手に予防接種」とスローガンめいたことを鼻歌のような口調で呟いたあと「忙しさから逃げようとしているのバレバレだよ」と言い捨てた。


結局、僕の反論はまったく受け入れられず、渋々、出勤することになった。出勤したのは直接人事に駆け込んで文句と風邪をぶつけてやるためでもあった。実際に人事の人の顔面に咳を浴びせながら文句を言ったが「インフルは病気。風邪は怠慢」という姿勢を崩さない人事の人。表情がまったく変わらない。人として何か欠落しているのだろう。このような人物とこれ以上関わるのはデンジャラスなのでやめた。僕が得たのは予防接種するのはやめようという教訓だけであった。そうだ。僕にはピンクのチョッキを着ているのがタマにキズだけど部下がいる。まだまだ一人前になれない定年間近の部下がいる。彼のためにも僕はやらなければ。


悪いことは続くものでございまして、猫の手も借りたい、この、クソ忙しいときに、たったひとりの部下であるピンクチョッキまでもインフルエンザにかかったと言ってきた。数日間休ませねばならない。ピンクチョッキお前もかと絶望している僕は、彼に対して、なんで予防接種受けてないの、職業意識が足りないんじゃないの、職務怠慢ですよそれ、ピンクチョッキ着てる意味ないじゃん、と詰った。彼は、僕の言葉の連打を受け止めたあとで、好意的にいえば年長らしい余裕、悪くいえば呑気な口調でこう言い返した。「置かれた場所で咲きなさい」 ムッカー。


その日、僕はスカスカな事務所でゲホゲホ咳の花を咲かせながら仕事をこなしたのである。人事からは職務放棄、職務怠慢の疑いをかけられるし何もいいことがない。ああ、予防接種さえ受けていなければ会社を休めたのに!予防接種は、自分だけが助かればいいという思想で受けるとしっぺ返しを喰らうので注意が必要だ。そして会社に神はいない。

(この文章はJR在来線車両内で27分かけて書かれたものである)