Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

「聖域なきリストラ」という名の地獄

会社、女子大、PTA…あらゆる組織に『聖域』は普通にあるものらしい。それこそ空気のように。今、その聖域とやらが僕を悩ませている。2ヶ月前よりトップダウンで事業全体の責任者になり聖域なきリストラの断行を命じられている。ボスの言うことを信じるならば彼は社員を解雇したことがない。「社員は会社の財産」が口癖のボスは、目を付けた社員を間接的にいたぶり自分から辞めていくように仕向けていく心優しい人だ。ビバ自己都合退職!嫌われたくないから己の手で部下の首を切りたくない。されど会社はヤバい。ならば適当な外様に返り血を浴びる汚れ役を任せればよいではないか。そこで登用されたのが僕だ。おかげで僕は同族企業でリストラを行うことの難しさに直面し頭を抱える日々を送っている。よくよく考えてみれば「聖域なき」というフレーズは矛盾している。なぜなら、すでに聖域の存在を前提にしているからだ。聖域がないのなら「聖域なき」というフレーズが生まれる土壌はない。しかし、それでも僕はボスの言う「聖域なき」を信じた。わざわざ肉声で聖域なきリストラを掲げたのだ。信じるしかないだろう?ボスの言葉を信じた僕はボス親族をリストラ対象にリストアップ。ウチはガチガチの同族経営である。今思えばテロすぎる。他意はない。純粋に使えないボンクラ・トップテンを挙げたらボスの血が流れていただけだ。そのデスノートを見たボスの「彼らは対象外!」という一喝で僕は聖域の存在を知った。ボスは「『聖域なき』と言わないと暴動が起きて収拾がつかなくなるから経営者は仕方なく言ってるけどあるに決まってんじゃん聖域」と教えてくれたのだ。こうして表向き聖域のないリストラは始まった。通常、同族経営のリストラが難しいのは、ダメな同族が重要ポストを押さえているから、と考える人が多いのではないか。違う。本当に激ムズなのは使えない同族が本来なくてもいいポストに就いて遊んでいるからだ。何もしないから失点やミスがない。馬鹿×無駄イコール無敵。結局、真面目に事業を回している社員をリストラ対象にしなければならなくなる。仕事をしていればミスやしくじりもある。今、僕がやっていることは仕事をしない人を切ることではなく、やっている人のやっているが故に起きてしまうミスやしくじりの収集。きっつー。スタッフのほとんどはいい人達で、突然重責を負うことになった僕の心身を想って「いい性格してるなー」「会社の犬」「裏切り者」「見た目パッキャオのくせに」と声をかけてくれる。ありがたいことだ。こうした発言は今回のリストラ評価に影響しないけれども全てが終わったら、僻地や赤字壊滅事業所への異動という形で報いたいと思う。偉い同族は切れないし無駄な同族はミスをしない。仕事をやっている社員はよくやっている。僕は《人員削減はまったく進んでおりません》という中間報告をボスに上げた。「仕事をしていない人間は必ずいる。そいつが第一対象になる」「色々理由をつけて仕事を遂行しない人間がいるだろう?」ボスが笑う。うそーん。ボスがリストラしたいのは僕みたいだ。薄々気づいていたけれど、僕も聖域サイドではなかった。くっそー。立たないインポの分際で、という批判を承知の上で言うが、今の僕の心境は立つ鳥跡を濁しまくりん。(所要時間16分)