Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

仕事はじめました。

仕事が見つからないので仕事をはじめた。現在従事している駐車場バイトは、時給930円、8台という収容台数の少なさ、天候に左右されてしまう等々、男子一生の仕事にするには不安要素が多すぎた。金を出しているので起業になる。実をいうとちょっと前からはじめていた。昼スナックの氷川きよしズンドコで意気投合した70オーバーのオバハン3人組と、シニア向けファッションを売りはじめたのだ。婦人向けに限定したのは、女性の方が長生きでリピートが見込めるという極めて現実的な理由からだ。3人とも伴侶に先立たれていることが影響しているかもしれない。《未亡人》は大きな共通点であるはずだが思い出したように、主人はクサかった、ケチだった、キタなかった、と言うくらいのもので、その汚物扱いは僕をひどく悲しくさせた。業績は2回ほど貸しスペースで販売して即日完売し次はネットで…と画策しているのでおおむね好調といっていい。オバハンたちが作ったオリジナル洋服を売り切るスタイル。メンバー全員70オーバーだが元気に働いている。そう。元気なのだ。あの昼下がりのスナック。生ビールにとろけた耳で聞いた言霊たち。「働きたくても働くところがない」「面接で《求人に年齢制限は記載していないけど自重してくださいよ》と笑われた」「生きている実感がない」「私たちは使い捨てか!」使い捨てという言葉に僕は揺さぶられた。同情ではなく、その言葉と会社勤め時代の自分の姿と自分の近未来の姿とを二重に重ねてしまったのだ。年齢こそ違えど、僕らはそれほど変わらない。自分の引き際くらい自分で決めたいという願いは皆同じだろう。《一億総活躍社会》《シニアも働ける元気な社会》建前は立派だが現実はどうだろう。シニアの仕事に現役世代と同レベルのスピードとボリュームを求めるのは酷だ。それなりに会社勤めをしてきて現場でシニアを使うこともあったが現役世代に比べると体調不良による《恐怖!急なシフト穴空け!」も多かった。労災の可能性も高くなるだろう。なので建前ではシニア雇用を掲げていても出来ることならシニアを雇用したくないというのが多くの企業の本音なのではないか。一方でシニアはシニアで譲れないプライドを持っている。《俺が若い頃はそれくらい》《昔は普通にやっていた》そのプライドが悪い方向に働くのを何度も見てきた。シニアが主導権を持ったうえで皆が気持ちよく働ける環境が理想だけれどそれをバックアップする体制を構築するのは余裕がないとはなかなか難しい。このたびはじめた仕事がうまくいっているのはちょっとした奇跡かもしれない。僕にやる気がないからだ。僕がやっていることは商品を運んで陳列するくらいで完全にサポート役。企画。発注。仕入。販売。すべてお任せ。現場に出てバリバリ仕事をやりたいシニアと、働くことに疲れ、しばらくは人目のつかない陰でそこそこの収入が得られればいいなあという僕の利害が一致しただけだ。それでもオバハンたちからは「昨今珍しいすばらしい中年男性だ。親の顔を見てみたい」「どんな高等教育を受けてきたのだろう!」「何を食べたらあなたのようになれるのかしら」と誉められている。もちろんビジネスの常としてうまくいっていることばかりではない。僕が「シニアの皆様には長生きすることは素晴らしいと日々感じながら若い頃と同じように歌いながら生きて欲しい」という願いを込めて提案したブランド名「結言(YUI‐GON)」「シニゾン(シニア+ユニゾン)」が、不吉すぎるという感情的な理由でメンバーが納得せず、いまだに無名で商売をやっているし、僕のギャラの支払いが滞ってもいる。待遇について話し合いの場を求めると、たくましいよね、「体毛?」などと都合よくボケたふり。ギャランドゥではなくギャランティの話がしたいのだと言うと、驚いたね、オバハン3名は練習なしでコンマ0.0001の誤差もなく「善意で」と口を揃えて言ってのけたのである。善意って自分の意志からではなく他人から言われてポン!とガチャガチャみたいに出てくるものだったとは。たかだか43年しか生きていない僕にはわからなかった。その後「イイ人ヅラをしている役人と同じか」「気持ちでやってくれていると思っていた!」「新型のオレオレ詐欺かい!」等々、筆舌に尽くしがたい人権侵害を受けた。何を食べたらそれほど都合のいい考えが出来るのか、性格が悪くなれるのか。親の顔を見てみたいものだと言いかけて、無駄な闘争に身を投じるのを僕はやめてしまう。70オーバーの老人の親なら鬼籍に入っていて当然、そんな常識的判断からではなく、僕が最も性格のよろしくないリーダー格のオバハンから生まれたからだ。この仕事がうまくいくかどうかわからないが、今のところ似たような性格の親子が一緒に仕事をするデメリットばかりが出てしまっているので、僕ならうまくいかない方に有り金全部賭ける。(所要時間22分)