Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

試用期間が終わりました。

11月15日をもって僕の試用期間が終わった。期間内での実績を評価されて3営業日前倒しで終了。3日。微妙な評価である。3ヵ月間の試用期間は石橋をハンマーで叩いてから渡るような慎重な日々だった。胃薬を手放せない緊張の連続でもあった。家族や親族一同から「失業系男子」「43才フリーター(笑)」「ノーワーク,ノーライフ」と蔑まれ、世間から疎まれた屈辱の日々。もう、あの頃に戻るのは、絶対に嫌だ。そんな強い思いが、就職し、新たに得た居場所を絶対死守するように僕を衝き動かした。居場所を守るために僕が注力したのは、与えられた仕事でトップが期待する以上の成果を出すこと、それから同僚たちと友好的な関係を築くこと。前者は3日前倒しの試用期間終了という形で結実したが、苦労したのは後者である。週40時間労働厳守残業絶対禁止、好待遇、会社愛にあふれ、同僚同士がリスペクトし合う素晴らしいホワイト環境の副作用なのだろうね、どうも同僚各位の意識が高めなのである。気付き。学び。キャリアアップ。自己啓発本。雑誌『LEON』愛読。普段『週刊大衆』しか読んでいない僕とは馬が合うはずのない人たち。だが合わせなければならない。苦労して得た居場所を守るために。アフターファイブの誘いは、原則、断らないようにした。意識高いアフターファイブは飲み会に終始しない。アフターファイブはビジネスという戦場で戦う武器を磨く時間。おかげで僕は今までの人生で経験したことのないことにチャレンジするハメになった。トレーニングジム、ボルダリング、料理教室。ホットヨガ、瞑想教室、歌声喫茶。オペラDVD鑑賞、バルでの仕事トークからのTTポーズ共演撮影。彼らが文化的健康的と考えている活動に付き合った。ボルダリングで高さ1メートルからブタのように落下した瞬間はさすがに「こんなのやりたくねえ」と本音が口をついて出てしまったが、その瞬間をのぞけば、僕は、自分の意志で喜んで参加しているような表情を崩さなかった。すべては試用期間を生き抜くため、《僕は皆さんと同じ種族です》とアッピールするためである。骨の髄まで染みついた社畜スピリットである。だが試用期間は終わり。本・採・用。これで「我が社に見合う人材ではない」とバッサリ切られることはない。ありがとう労基法。おめでとう僕。もう、歌声喫茶でアホのように大口を開けて知らない唱歌を歌ったり、猿のように壁を登ったり、お気に入りのスヌーピーのエプロンをパクチーまみれにしなくていいのだ。「定時きっちり仕事を終えたあとは、明日以降の仕事とキャリアアップに備えて、心身を鍛え、就寝前は自己啓発本を読まなければならない」という宗教を否定できる。試用期間は終わったから、だけではない。実績と成果を評価されて、来月からイチ営業部門の責任者になるからだ。20年の営業経験を活かし費用対効果を示して自分という商品を高く売り込み、営業リーダー(課長待遇)として採用されたはずの僕。要職者の急な退職という事情もあるが、仕事面ではブラックな環境を生き抜いたバイタリティとモーレツな働きぶりが功を奏して、来月からリーダーよりもうひとつ上の部長として働くことになる。つまり僕は彼らの上司。もう、彼らに媚びて猿のように壁にしがみついたり、奇声をあげて踊る必要はないのだ。今日から僕は、少しずつ本来の自分を出していこうと思っている。当面の目標は、俺たち仕事してる感に浸っているだけのマスターベーションにすぎない、クソの役にも立ってないランチミーティング、いわゆるウンチミーティングを廃止することである。43才の失業期間と試用期間は想像以上にしんどいものだった。この経験を活かしてこれからの職業生活を充実したものにしていきたい。一方、喜ぶべき僕の試用期間終了の報に際して妻はほぼ無反応であった。反応という反応といえば「試用期間が終わったくらいで喜んでいたら先が思いやられます」というメモが冷蔵庫にマグネットで貼られていただけであった。なんて御無体な。就職したらニンテンドースイッチを買ってもいいという約束も反故にされた。国際法を知らないのだろうか。就職すれば、すべてが好転する。そう考えていた時期が僕にもありました。甘かった。そして本当の幸せを教えてくれる壊れかけのレディオを僕は持っていない。(所要時間19分)