Everything you've ever Dreamed

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元給食営業マンが話題の大学学食倒産を考察してみた。

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大学学食を受託していた給食業者が倒産した。最近は美味しい学食、個性的なキャンパスキッチンがメディアに登場することが増えたこともあって、「まさか、学食が潰れるなんて…」という声が多いみたいだが、元業界の営業をやっていた立場から言わせてもらうとちっとも「まさか」ではない。「だろうな」って感想しか出てこない。大学学食は一部を除けば、ウマ味のない案件なのが業界内の常識だからだ。何らかの対策を講じないと、今後、大学の学食の閉鎖は増えていくかもしれない。実際、僕が携わっていたときは学食を積極的に攻めるのを禁止されていた。上からの指示に反旗を翻して女子大の学食への入札、コンペだけは積極的に参加していたのは個人的な思いがあったからにすぎない。以前、拙ブログで取り上げた学校給食と学食ではまったく違う(元給食営業マンが話題の「マズい」学校給食を考察してみた。 - Everything you've ever Dreamed)この一連のエントリでは学校給食の条件の厳しさについて言及しているが、大学学食の契約条件は学校給食のそれよりもずっと厳しいものになっている。この文章の主旨から外れてしまうので詳細は避けるが、ひとことでいえば学校給食には業務委託費(業者への補助)があるが大学の学食は一般的に業務委託費がない(例外もある)。つまり大学学食の契約条件は大げさにいえば悲惨のひとことなのだ。

一般的な大学学食の契約条件を見ていこう。(例/電気通信大学の食堂業務業者の公募※電通大の食堂運営が悪いわけではなく一般的な学食コンペ仕様書のサンプルとして。http://www.uec.ac.jp/news/announcement/2014/20140718-1.html)《大学からの補助(委託費)はなし》《業者経費負担 厨房備品(鍋・包丁等)、食器・什器、高熱水費、各種消耗品費、食材費、労務費、ゴミ処理費、原状回復費等》となっている。大学によっては施設使用料(いわゆるテナント代 売上の数パーセント)を取るところもある。これを見ると街中にある「飲食店と一緒やん、企業努力が足りない」というご意見が湧いて出てきそうなものだが、街中の飲食店と大学学食では大きな違いがある。

(違いその1)販売価格/大学学食は事実上、価格を自由に決められない。事実上と書いたのはコンペの仕様である程度の価格帯を大学側に決められてしまっているからだ。当然、物価上昇や食材高騰に追従した価格設定ができない。(違いその2)営業日数が実質年間180日程度しかない(僕の知る限りで一番少ない稼働日数は年間140日)。また学生がフルにいる日になるともっと少なくなる。(違いその3)大学からの要望が多い 販売アイテム数等 (違いその4)客層が学内に限定されている 

利用者が学生であるという名目で物価上昇や食材高騰や最低賃金アップにあわせて価格を上げられない(上げようとしない)のが大きい。営業日数の少なさでは売上少に直結するが、最近は労務管理の困難さが大きくなっている。たとえば社員一人を学食に配置しても売上ゼロの月はその他の月の売上やその他の事業所の売上でその社員に係る労務費を負担せざるをえない(→不安定)。また、パートスタッフは昨今の売り手市場もあって数か月間の長期休暇間に離れてしまうことが多いので、営業再開にあわせて再募集をすることになる(→求人募集費の増大)。また、大学学食は基本的には学生のための食堂であるので一般客を呼び込めないという最大のデメリットがある。その反面、利用者の学生は学食ではなく駅前のコンビニやファストフードを選べてしまう。たとえば吉野家の牛丼並盛は380円である。学食が価格面で優位に立っていることはない。

つまり学食は一般客を見込めないうえ(見込むことも可能だが、それをベースに売上試算を立てるととんでもないことになるw)コンビニやファストフードと価格・サービスで競わなければならないのだ。巨大コンビニチェーンと大学学食では開発力・企画力では比較にならないから学食は苦しい戦いを強いられる。限られた売上(利益)。厳しい契約条件。競合との熾烈な争い。薄利多売という言葉があるが大学学食は薄利少売というべきビジネスモデルに陥っているのだ。

長々と書いてきたがここからが本題。なぜ大学学食がこんなビジネスモデルに陥ってしまったのか。業者の状況を顧みず利用者のニーズにだけ答えようとする大学側。物価上昇や食材高騰。雇用状況の変化(最低賃金の上昇等)。様々な要因があるが、僕はこういう厳しい条件の仕事を受けてしまう業者・給食業界にこそ問題があると思う。採算性がない案件は断って、コンペや入札自体を無効化するしか、状況は変わらない。受けてやってしまう業者があるから学食の条件は向上しないのだ。学食の将来を考えてみると、食堂の売上だけで運営するのは厳しいので大学から業者へ委託費を支払うことが特効薬だろう。労務費と諸経費と利益分を委託費でまかない、食材費=販売価格として利用者に負担するようなモデルにすれば、理論上食数がゼロになっても業者による学食運営は可能だ(今、凝ったことをやっているシャレオツ大学学食は大学から補助されているはず)。補助は一部経費だけでも運営状況改善につながるはずだ。学食を廃止してコンビニやファストフードを導入するのもアリだろう。実際そういう学食はあるし、チェーンの圧倒的な物流とスケールメリットがあれば、利用者に優しい価格設定も可能だ。喜ぶ学生もいるだろう。

記憶が正しければ給食営業マン時代、トップに置いた記事の営業担当とは数回コンペで見かけたことがあるが、まさか50店舗で売上が4億しかないとは。一店舗あたり売上800万、月売上67万。そこから労務費と経費と食材費と利益を捻出…無理だよね。キツイ言いかたをするならば仕事を選ばないからこんな事態になるのだ。業者に厳しい条件をぶつけ、採算が取れなくなり倒産、学食が閉鎖になって一番の被害をこうむるのは大学ではなく、利用者である学生である。大学には本当の意味での学生本位になってもらいたい。僕は条件の悪い仕事を断るのも営業の仕事だと考えて働いてきたし、チャンスがあればその条件の悪いことがクライアント側にとってもマイナスになりうることを説明して、コンペそのものの条件を向上するよう努めている。もちろんウザがられて忌避されることもあったがモノを売ったり、契約を取ったりするばかりが営業の仕事ではないと僕は思うのだ。(所要時間40分)