Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ブラック上司が身をもって教えてくれた「時間を生み出す方法」が魔法レベルで役に立っているので全部話す。

「責任を取るためにお前たち部下がいるんだろう?」「俺はチャンスをピンチに変える男だ…」「腹を切って話合おうや…」「価格は安いぶん内容もそれなりのロストパフォーマンスに優れた商品です」「刺身が生なんだが」「女房の配偶者が死んだ…」数々の暴言とハラスメントで僕を休職に追い込んだブチョーが孤独死してから早4年。認めたくないが、もう、この世にはいないクソ上司ブチョーから教えられたことが今の僕を救ってくれている。

管理職になってから新規面談をする機会が増えた。そのすべてが商売に繋がっているのならいいのだが、残念ながら、実際には商売にならない無駄な面談も多い。もっとも困るのが時間の価値がわかっていない人との面談。時間は一番貴重な資源である。だが、世の中には「ちょっとだけ時間をもらえますか」つってどういう内容の話になるのか説明もせずに他人様の時間をかすめ取ろうとする人間が結構いる。本来、そういった時間の大切さがわかっていない人間とはいい仕事が出来るとは思えないので、僕は会わないようにしている。だが、ここ数が月間にかぎっていえば、新規部署の責任者になったばかりという事情もあって、ハードルを下げてコンタクトを取ってくる人とは基本的には会うようにしてきた。予想通り、具体性のない話をする人がそれなりにいた。雑談マンである。バカなビジネス書に雑談ができる営業マンがホンモノの営業マンとでも説いているのだろうか。

暑いですねからの子供あるいはスポーツネタからの業界裏話。雑談マンは無駄に話を伸ばす技術だけは長けているので困る。いちおう話を受けて容赦なく「そろそろ本題に…」と切り出すのだが、それくらいでめげる雑談マンではない。営業苦労話。最近体調良くない話。会社業績イマイチ話。こちらの話が聞えていないように話を続けるのだ。そらそうだ。雑談マンは商談が目的ではなく、長話をして親密な関係を築けば有利な条件を引き出せると信じて、出来るだけ長く話をすることを目的にしているのだから。アホか。

死んだブチョーもその手の人物だった。「雑談王」を自称し、意味不明の、ただ、謎の自信と勢いだけはある自慢話を相手に投げつけ続けた。その結果、出入り禁止になることも多かったが、「わかった、ハンコ押すから勘弁してくれ」と根をあげて契約に至ったレアケースもあった。そんな自称雑談王のブチョーが返り打ちにあったことがある。僕はその現場にいて、馬鹿雑談を打ち切るにはこれしかないと感銘を受けたものだ。その人は新規見込顧客の担当者で、「実は…我が社のおにぎりは軍事転用が可能です…」とブチョーがくだらない話をはじめるや否や、手をパーにして遮り、「最初に要点をお願いします」といった。やべえと思った僕がフォローして面談を進めると、ブチョーの繰り出すくだらない雑談に対しその担当者は、ほう、ほう、はーん、とさも小馬鹿にするような相槌を打っていた。誰もがみてもバカにしているとわかったような露骨な小馬鹿。だが、悲しいね、己に対するマイナスな感情の存在を信じないクレイジーなブチョーには通じなかった。ブチョーはほう、ほう、はーんに心から気を良くしているようだった。こやつ俺の話に感動しているな…というふうに。ブチョーは気持ちよくなったのだろうね、さらに話のトーンをあげていった。「ほう、ほう、はーん」小馬鹿相槌と「ホニャララピンチはあったけど全部自分の力で乗り切りました。なるへそなー」トークとの宇宙一無駄な戦争を僕は傍らで目撃した。人生でもっとも無駄な時間だった。

担当者が先に仕掛けた。「いやいや部長の面白い話で場もあったまってきたところで、そろそろ本題に行きましょうよ。今日は何ですか?」ブチョーは良くも悪くも、というか悪いところしかないけれど、バカ正直に「今日は雑談に参りました!」と絶叫した。担当者が呆れて硬直しているところに「雑談に参りました!」と追い絶叫。雑談に来た!わざわざ僕をつかってアポ取らせておいてこれかよ…。絶望しかなかった。ブチョーは本当に何も用事はなかったのだ。すると担当者氏は目の前に広げていた手帳を、雑談ならこれはいらなかったですな、と嫌味っぽく言いながらパタンと勢いよく閉じて、「雑談を続けるならご自由にどうぞ、こちらのミーティングルームはお貸しいたします。私は次の用事がありますので」といって出て行った。「奴は怖じ気づいたな…」と客のいなくなった部屋で自慢気に話す部長を横目にみながら、僕は恥ずかしさのなかでここには二度と来られないなと思っていた。

 雑談マンに対しては、一度話をさせてからこの手帳パタン作戦を実行するようにしている。雑談に一度乗ってからの手帳パタン「雑談を続けるならご自由にどうぞ」退室。これをやられた人は二度とやってこなくなるので、雑談マンを遠ざけ貴重な資源である時間を守るために最高の作戦だと思う。今のところ雑談マン退治に絶大な効果を発揮している。超おすすめ。あのブラックを体現していたかのようなブチョーから教えられたことが、ホワイト環境で働く僕を助けてくれている。ありがたいことだ。今、おかげさまで平穏な環境にいるけれど、あの過酷でハラスメントしかなかったブチョーとの時間を、僕はときどき懐かしく思い返す…ことはない。絶対にない。(所要時間23分)