Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

最近はダイエットもポリティカル・コレクトネスに配慮する必要があるらしい。

ここ最近で、いちばん驚いたのは、妻が、膣締めダイエットをやっていたことである。そういえば昨年の秋くらいからペットボトルに水を入れたり、鏡の前で妙なポーズを取ったりしていたような記憶がある。あのとき妻は、おぼこい顔をして、リビングで締めたり緩めたりしていたのか。なんて破廉恥なのだろう。残念ながらチンしかない僕には、チツを締めることによってどれだけの負荷がかかるのか想像もつかないので、当該ダイエットについてもどれだけの効果があるかも知らなかったけど、調べてみると書籍なども出版されたりしており、それなりに人気があるらしい。 

くびれと健康がとまらない!  膣締めるだけダイエット (美人開花シリーズ)

くびれと健康がとまらない! 膣締めるだけダイエット (美人開花シリーズ)

 

 寝正月でぽっこりした僕の腹部を見た妻が、一緒に膣締めダイエットをしましょう、と言ってきたとき僕は彼女が錯乱したのかと思った。残念ながら妻は正気でした。妻は、私は効果があらわれてきているような気がする、二人で競うようにダイエットをすればより大きな効果が出る、と付け加えた。おかしい。「いやいやいや。ダイエットの必要性は感じてはいるけれども、締めるべきツーチーを持たない僕に、そのダイエットだけは無理だよ」と僕は答えた。我ながら正論だと思った。正しいはずだ。論理的にも、生物学的にも。すると妻は、ああ、優柔不断な阿呆がまたバカなことを言っている、といっているような小馬鹿にした表情を浮かべ、「そうやって理屈をこねて、もっともらしいやらない理由をこしらえているのですね」「今はポリティカル・コレクトネスというのがあって男女は平等なんですよ…」と文末まで日本語にするのも面倒だけどあえて口にしてみたというような感じで僕に言った。そこまで言われたら僕だって膣締めダイエットをやってやろうではないか、という気分になるものである。チツがなくても僕にはチンがある。チンは力なり。新年1月3日の夕刻、茜色の夕日差すリビングで僕と妻は対峙していた。ジャージ姿で。妻は、私と同じポーズをしてください、といい、水の入ったペットボトルを太ももに挟むと、尻を突きだし、両の手の平を前面に押し出すような格好をして、「ハーイ!」と声をあげた。「締まってるの?」と僕は訊いた。彼女は「ハイ!」と答えた。正直、ダサいポーズなので真似したくなかったし、伴侶の目の前で締めるのも人としてどうかと思ったけれど、ハイ!ハイ!ハイ!と手を叩きながら声をあげる妻に気圧されて、やらざるをえない状況に追い込まれた。締めている妻にはなんというか人の域を超えた凄みみたいなものが感ぜられたのだ。僕は妻をコピーするように水の入ったペットボトルを太ももに挟み、尻を突きだし、両の掌を前に突き出し、占締めるべきチツがないので代わりにケツを締めた。ハイッ!という上ずった声が他人の声に聞こえた。これがポリティカル・コレクトネスなのか…、そんな疑問も全力で尻を締めているうちにどうでも良くなった。その瞬間は、確かにそれが、それこそが、僕らのポリティカル・コレクトネスだった…。夕暮れが二人を包んでいた。チツとケツを締めあげて向かい合う妙齢の男女の影。妻に合わせて前傾姿勢を深めた。ちょうど力士が向かい合うような恰好。尻の突き出しが極限を迎えると、肉体の構造的に、どうしても尻が緩んでしまう。僕のメタボを想って、チツを締めている妻だけに恥をかかせられない。僕は、肛門括約筋に喝をいれるべく、ハイ!と声を出した。妻は、余裕の表情を見せていたので、どうやらチツを締めるという行為は、ケツを締める行為よりも体勢に影響を受けないのだと、僕は知った。45年ただ生きてきてケツを締めているだけの僕にでも新たな学びと気付きはあるらしい。そして僕は気づいた。ケツを締めながら残酷な事実に気づいてしまった。それは妻が僕を男性だと見なしていないという事実だった。そうだろう?異性を前にした女性は普通、「私は今、チーツを締めていまーす!ピース!」なんて宣言するわけがない。一般的にチツを締めるのは誰もいない部屋だろう。つまり僕は誰もいない部屋の空気や観葉植物と同レベルということになる。その悲しい事実に気づいた瞬間、ケツに入っていた力が抜け、屁が漏れてしまった。音も、臭いもない屁。誰にも気づかれない屁。そんな屁と自分とを重ねてしまう。妻がご学友との新年会に向かうために身支度を済ませてから、鏡の前に立ち、尻を突きだしてチーツを締めながら「うん!今日もかわいい!」と鏡の前のもうひとりの自分に声をかけてから出かけていく姿を僕はただ眺めていた。眺めることしかできなかった。もう、僕には尻にいれる力は残されていなかった。(所要時間25分)