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ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ルートポート著『会計が動かす世界の歴史 なぜ「文字」より先に「簿記」が生まれたのか』は、先行きの見えない近未来と人間に希望が持てるようになる現代の「プロジェクトX」なのでみんな読んでくれ。

会計が動かす世界の歴史 なぜ「文字」より先に「簿記」が生まれたのか

会計が動かす世界の歴史 なぜ「文字」より先に「簿記」が生まれたのか

 

 会計ブロガー/ルートポートさん (id:Rootport)が執筆した『会計が動かす世界の歴史(以下略)』を読んだ。世界史や会計の知識のない僕が読んでもすごく面白かったので、気になった方は今すぐポチっとして読んでもらいたい。

最初に告白すると、僕は会計や簿記にはまったく興味がない。歴史もそれほど好きではない。ついでにいうなら僕の歴史知識は、KOEIの歴史シミュレーションゲームで身についた武将パラメータと、小学生の学級文庫にあった「まんが日本の歴史」くらいしかない。お金に関する歴史となると、巨大石をコインがわりにしていた「はじめ人間ギャートルズ」程度である。世界史についてはいわずもがな。そんな事情から、本書も、会計をキーワードに世界史を紐解いていくような内容を想像し、「ついていけるだろうか…」と四半世紀前のセンター試験「世界史」で壊滅して進路を変更せざるをえなかった暗い過去がフラッシュバックしてしまったが、全部、杞憂に終わった。本書は、歴史とか会計とかというキーワード以前に、ひとつの読み物として面白かったからだ。

少々乱暴に本書をまとめると、会計や簿記といった道具をつかって人間がどう生きてきたか、という「人と道具の物語」である。著者は、メソポタミア文明の「トークン」やインカ帝国の「キープ」(どちらも僕は知らなかった)を広義の簿記とするなら、13世紀の北イタリアで狭義の簿記「複式簿記」がほぼ現代と同じ姿になっているとしている。現在と同じ道具を使っていると。著者は、スペイン王国の没落、株式会社の登場、バブル、産業革命といった現代にも通じる経済的なトピックを取り上げ、まるで小説のようにドラマティックな歴史を、会計や簿記を武器にどう人類が生き抜いてきたか、会計や簿記がどれだけ社会の発達と共にあったのかを、平易な文章で書いている。まるで懐かしの「プロジェクトX」のようである。

僕は、そこから《人間はメソポタミアの頃からたいして変わっていないんだよ》という著者の人間に対する冷めた視点を読み取ることができた。だが、この僕の分析は大きな間違いであった。「第5章/これからのおカネの話をしよう」で著者が語る、人間と道具の物語は一転して希望に満ちたものになる。本書は道具の物語である。現代は、仮想通貨、AI、といった新たな道具に、人間は仕事を奪われるのではないかという漠然とした不安に僕らは直面している。だが、著者は、自身で「楽観」としながら、「技術革新は、人々が利益を得られる水準でしか進みません」「次の100年で最も経済的に成功できるのは(中略)新しい技術を身につけた人間」(328ページ)と結論づけている。

この楽観的な結論が、説得力を持つのは、「人間が道具をつかっていかに戦い、生きてきたか」という物語を丁寧に語ってきたからだ。そして「知的好奇心を失わないこと」を次の時代を生きる鍵になると述べている。言い換えれば、これまで人間が滅びないでいるのは、知的好奇心を失わなかったからである。そんな当たり前の希望を気付かせてくれる一冊であった。歴史を知らない僕でも楽しく読めた。もしかしたら歴史を知らない人の方が楽しめるかもしれない。おすすめ(所要時間23分)