Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

「当社はフラットな人間関係をウリにしています」に垣間見た責任感地獄。

ちょうど2年前の今頃、再就職を目指していた僕は、地元の、とある小さな会社の面接を受けた。その席で、人事担当者から「ウチのウリはね、会社自体は小さいけれど、ちょっと堅苦しい言い方だと『社風』っていえばいいのかなー、人間関係に上下なくフラット(平坦)なところ。本当に働きやすいですよ」といわれて、一瞬、フラッと魅かれてしまった。カースト制の会社で働いた経験しかない僕には、職場において上下のない人間関係が想像できなかったのだ。耐性がなかったのだ。上下関係がなくても、政治信条によって左右に分けられる危険性はあるのではないか、血液型別に派閥があるのではないか、と反論したかったが面接即終了の恐怖で口に出来なかった。その会社は園芸業を家族親族で営んでいた。人間関係にとどまらず業績までもフラット状態が続いていたので、ここらで一発、営業部門を強化して事業拡大を図りたいと考えているのです、と営業職募集の理由を担当者は説明してくれた。僕は営業マンだ。営業職の悪い癖で、初訪の会社だとことさら細かいところまで観察してしまう。駐車場の台数、事務所の広さ、机の数、ホワイトボードの行動予定表。社員は5名~6名の戦隊規模。フラットをウリにしているが、そりゃそうだろう。アカレンジャー(リーダー)、アオレンジャー(サブリーダー)以外のメンバーまできっちりと上下関係の決められたゴレンジャーは戦いにくいだけだ。キレンジャーを悪者にするわけではないが、モモレンジャーがキレンジャーよりも下の序列であったら女性差別になってしまうし、若いミドレンジャーの話をキレンジャーが聞かなかったらゾルダー戦闘員とのバトルに勝てない。「フラットな人間関係をウリにしてるのはわかりました、具体的にはどういう施策を取っているのか教えてください」と尋ねた。僕は人事担当は、よくぞ聞いてくれた、という表情を浮かべ、「社員全員が重要な役職について、社長と同じような大きな責任をもって仕事に臨むのです!」といった。瞬間、絶望、直後に前職末期の暗黒時代へ意識が飛んだ。あの頃。「てめえらは上の言うことに従って黙って働いていればいいんだよ!」といっていた強気な上層部が、業績急降下、ぽつぽつ離脱者が出始めた途端、薄気味悪い笑顔で「これからは社員ひとりひとりが経営者感覚を持つことが大切です。今、この瞬間から、ひとりひとりが経営者!一丸となって頑張りましょう」と主張したのだった。その結果、上層部が責任を下に押し付ける地獄。僕は上層部がやりたがらないリストラ役を押し付けられ、そのせいで、今でも一部のリストラ対象者からは憎まれている…。「どう思います?」と人事担当者がピュアな目で尋ねてきたので、給与や待遇はフラットじゃないんですよね、それなら給与のいい人がそれなりの大きな責任を持つのがフェアってものじゃないでしょうか、と率直な意見を述べさせていただいた。ちょっとドン引きしてますよ感を声に滲ませたつもりだった。すると僕の話が聞こえていないのだろうね、担当者は極めて事務的に「では、採用の合否については明日までにご連絡を差し上げます。前向きにとらえてもらっていいですよ」と言った。前向き、だ、と?社員全員役職+社長と同じ責任+末端まで経営者感覚=フラット。僕は致死量のヤバ感を覚えて、その日のうちに速攻でお断りの電話を入れた。「なぜです?理由は?」と担当の人は言っていた。正気だろうか。先日、仕事中に、その会社の事務所の前をフラッと通りかかったら、建物が消滅して更地になっていた。ガチでフラットだった。更地を前にした僕の気持ちはフラットだった。音楽記号の方のフラット(♭半音下げ)だった。(所要時間19分)