Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

やりきった仕事だけが奇跡を起こす。

自分なりにベストを尽くし、納得した仕事や研究が出来たと思っていても、期待通りの結果が出ないときがある。そんなとき、いったいどうやって己を納得させて、やり過ごせばいいのだろうか。 僕は、営業職なので、「いい仕事が出来た」と胸を張れるような企画を立てたり、相手のニーズに応えられるような提案しても、競合相手に負けてしまったり、予算をこえてしまったり、担当者と合わなかったり、その他の要因で成約に至らないときがある。酷いものになると、「トップの友人が競合他社にいるから」という理由でほぼ勝ち取っていた案件をひっくり返されたこともある。あのときは地獄だった。「ほぼ内定と言っていたのにひっくり返されるとは何事だ。つーか内定自体が嘘だろう。お釈迦様は騙せても俺の目はごまかせねえ。相手のトップの名前が免罪符になるとでも思っているのか、馬鹿者!」と上司から言われ、その夜、中ジョッキを15杯ほど自棄飲みしたものである。

厳しい言い方をすれば、仕事は結果がすべてである。だが、期待どおりの結果ばかりが出ないときは、忘れて次へ向かうことも肝心だ。結果の出なかった仕事を通じて学んだこと経験したことをこれからも活かせばいい。そう自分に言い聞かせることで、僕はやり過ごしてきた。だが、本音をいえば、勝利から学びたい、勝利の経験を積み重ねたい。負けはただひたすらどこまでも負けだからだ。僕はいいかげんな仕事をしたことはない。自分なりにベストを尽くしてきたつもりでいる。残念ながらものにならなかった仕事たちを葬ってきた。いい経験をした、と自分に嘘をつきながら。ときどき、「あのとき負けてよかった。あの負けが今の自分を形成している。むしろあのとき勝っていたら…」などとインタビューで答える成功者がいるけれども、負けからの成功というストーリーに寄せすぎなんじゃね?と思ってしまう。だいたい、「あのとき」勝っていたらもっといい経験が出来たかもしれないではないか。
「部長、〇〇社のサトウさんから電話です」と言われても、ピンとこなかった。会社名も聞いたことがない。日本に何百万人もいるサトウさんから一人のサトウを特定するのは不可能。さいわい、借金を抱えていないので取り立て電話の可能性はない。直感で詐欺だと思った。社名も洋風でいかにもだった。「いないと言ってくれ」僕は命じた。命じながら、これでおしまいだと思った。だが僕の予想に反して毎日のようにサトウから電話はかかってきた。電話をとった同僚も困り果てている。同僚たちからの「あの人、もしかしてサラ金地獄なんじゃね?」という疑惑の視線も痛い。「もしもし」僕が電話を替わると「ああ、お久しぶりです。やっと見つけましたよ」とサトウは言った。
結論からいえば、サトウ氏とは以前に何回か会ったことがあった。サトウ氏が勤務する会社の食堂リニューアルでコンペをやる際にお世話になったのだ。サトウ氏は、当時の会社の系列の会社にうつったそうだ。会社名を知らないわけである。ちなみにサトウ氏は姓も変わっていた。「お察しください」だそうである。なるへそ。会社名も名前も変わっていたらサラ金と誤解しても無理はない。僕はそのコンペでは並々ならぬ力の入れようであった。あれも出来ます。これもやります。足しげくサトウ氏のもとへ通い、要望を拾い集め、企画に盛り込んだ。熱血仕事バカだったのではない。仕事を溜まりに溜まっていた性欲のはけ口にしていたのだ。もしかしたら、性欲を仕事にぶつけていたことがキャプテンEDになってしまった要因のひとつかもしれない。残念ながら成約には至らなかった。僕とは違うアプローチをした競合相手が契約を勝ち取ったのだ。納得のいく仕事をした自信はあったが結果は納得のいかないものになった。僕はその仕事を中ジョッキを飲んで葬った。
「仕事をお願いしたいのだけど」とサトウ氏は言った。当時の僕の仕事ぶりを評価してくれていて、機会があったら頼みたいと考えていたらしい。当時勤めていた会社を僕は辞めていたので、「見つけるのに苦労した」とサトウ氏は笑った。これほど嬉しいことはない。自分がやりきったと思える仕事が、一度死んだはずの仕事が、不死鳥のごとく蘇ってきてくれたのだから。それこそ仕事の方から。
任された仕事はやりきることが大事なのだ。やりきること自体に意味があるのであって、結果がともなってくればサイコー、ともなわければザンネーン。次に繋がる経験や教訓はあってもなくても実はどうでもいいのかもしれない。そう考えると、どんな仕事でもやり切れるような気がする。奇跡なんて言葉は使いたくないけど、これは奇跡といってもいいのではないか。誰にでも起こりうるライト級の奇跡。だってサトウ氏と僕が仕事をしたのは12年前のたった一度きり。12年前だよ。ただ、当時と同じような熱をもってサトウ氏との仕事に当たれるかどうか心配ではある。あの頃、仕事に叩きつけたほとばしるような性欲は、もう僕には残されていないから。(所要時間28分)