Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

Hagex氏が亡くなって1年になる。

Hagex君(id:hagex)が凶刃に倒れてまもなく1年。「フミコさんもネットから出ましょうよ」という彼の言葉は、確実に腰の重い僕を変えてくれた。感謝している。僕が彼と実際にお会いしたのは亡くなる3ヶ月前で、そこから彼が亡くなるまで毎月会う関係だった。おそらく僕は、彼の最後のネット友達だろう。はてなブログを主戦場にする40代男性同士、意気投合して、イベントの構想やブログ運営について話をした。中年の男が毎月会ってアホな話をするのは、中学生にたとえると毎日遊んでいるような感覚だ。ビールをガブガブ飲んで盛り上がって株式会社はてなに赴いて改善プレゼンをしたのもいい思い出だ。他にもいろいろ構想はあったけれど彼の死で全部行き場を失ってしまった。本当に残念だ。

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ご遺族から、彼の最期の様子を聞かされたとき、自分なりに事件を追ったり振り返るたびに、怒りや悲しみを覚えたが、行き着く先はいつも彼の無念だった。僕は人生最期の3ヶ月の彼しか知らない。だからどうしても、彼がやりたかったこと、歩むはずだった未来について思いを馳せてしまう。僕にとって彼と彼の死はあまりにも近すぎた。彼のお別れ会で、在りし日の彼の微笑ましいエピソードを聞いても、若い頃のまだ頭髪がフサフサしている彼の姿を見ても、どこか別の人物のことのようにしか思えなかった。

初めて会ったときに彼が「僕、めちゃ社蓄っすよ!」と言ったのが強く印象に残っている。その頃の彼は会社を辞めて次のステップに移ろうとしていたはずなので、緊張気味の僕を気づかってくれたのだろう。彼はどうして僕に会いたがったのだろう?ネット上の立ち位置やキャラが違うので今でも不思議だ。「今年はいろいろな人に会って話をしたいと考えておりまして」などと説明になっていない説明をしてくれたけれど、永遠の謎になってしまった。
事件のあとネットを眺めていて「彼は慎重さを欠いていた」という意見を見かけた。それだけはないと断言できる。彼ほど慎重な男はいない。それでも強い殺意を持った相手には無力であっただけだ。慎重さは暴力に対して完璧な盾にはならないのだ。 もう時効だと思うから明かしてしまうけど、彼ほどネットを介してリアルで人と会う際に注意と敬意を払っている人間を僕は知らない。


彼のブログにネットウォッチ記事の他に「今日の一曲」という記事がある。

本日の1曲 - Hagex-day info

「今日の一曲」は彼の証明手段だった。彼は実際に会う前、メールを送信している男がブロガーhagexであると証明するために、「何月何日に何という曲をブログにアップする」と事前に教えていたのだ。このように彼は会う人に対する配慮と注意深さのある人物だった。もちろんそれは彼自身を守るものでもあったはずだ。だから僕は彼のブログに「今日の一曲」がアップされるたびに、彼の新たなスタートが快調に行っているのだと思っていた。そしてあの日までは、「今日の一曲」がこれからもアップされていくものだと信じていた。
彼が亡くなって一年になろうとしているが、まだ僕は受け入れることが出来ないでいる。なぜ、会ったこともない、ネット上で直接やり取りをしたこともない相手に強い殺意を持てるのか、理解できないのだ。想像力を駆使すればフィクションをこしらえることは出来るけど、それが真実かどうか判定できないなら意味がない。いや。そもそも僕からすれば加害者はただの人殺しで、それ以上でもそれ以下でもないのだ。僕は加害者に物語性を与えたくない。僕に出来ることは彼の死をきっかけに会うことが出来た人たちと彼が愛したインターネットの未来について考え、安全で楽しい場所にしていくこと。それが彼への弔いになると僕は信じている。それしか出来ないのが歯がゆいけれどね。

【告知】

Hagex君の一周忌にあわせて阿佐ヶ谷ロフトで追悼イベントがおこなわれます。こちらで彼のこと、彼が考えていたことを知ってもらえたら嬉しい。

www.loft-prj.co.jp