Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ありがとう消費増税!

「今日酷い話があったんだよ」夕方の食卓で僕は切り出した。無意識に「仕事の話を家庭に持ち込まない」というルールを破っていた。それほど、腹にしまっておけない、ときめかない話だった。そして誰よりも奥様に聞いてもらいたい話だった。


とある取引先の会社との交渉が難航している。一般にも解放されている社食案件で、来月予定されている消費増税にともなう値上げ交渉だ。「値上げは出来ない」が先方の回答だった。「では現行価格のままなら内容を落として増税分を確保しますね」と提案するとそれも拒否した。ホワイ?福利厚生を落とすことは社員からのクレームにつながるから。社食は全社をあげて推進している健康経営の要だから。そういう理由だった。


「ウチも税金を納めなければならないので困ります」と訴えた。すると担当者は「我々双方とも損をしない秘策があります。御社にはご迷惑をおかけしません」と言って笑った。夕方再放送している時代劇に出てくる悪代官のようなわかりやすい悪の笑顔。イヤな予感しかなかった。率直に言ってこの先を聞きたくなかったが、そんな僕の心の叫びが愚鈍な悪代官へ届くはずもなく「外部利用者の販売価格を上げてそれで全体の増税分をカバーしましょう」と担当者は言った。呆れて何も言えずにいるのをナイスアイデアすぎて声を失っていると勘違いしたのだろうか、彼は自信ありげに「これは私個人ではなく社の方針です」と続けた。


もうアホかと。控えめにいってクソかと。クソ1。値上げをする外部利用者の数を現状より微増を見込んでいること。値上げをすれば利用者は減りますと忠告すると「御社の企業努力でそこは!」などと言う。なぜアンタの消費税を払うのにウチに企業努力が求められなければならんのか。クソすぎる。クソ2はもっと酷い。彼のいう外部利用者は、その大半が一般利用者ではなくその会社で共に働いている派遣スタッフやパートスタッフそれから協力会社の人たち。つまり正社員様が納めるべき消費税をなぜか低賃金で働いている弱い立場の人間が負担するというクソ仕様。さらにクソなのは表向きは彼らのことを「パートナー」と呼んで尊重してる感を醸し出していること、さらに消費増税にともなう二重価格の改訂をバレないよう秘密裏に進めようとしていることだ。きっつー。


「何とかこの方針に沿って改めてうまい方法をご提案いただき」などと勝手なことをぬかしやがるのでいい加減頭にきて「二重価格の一方だけ値上げすれば、どれだけ巧妙にやっても導入初日で絶対にバレます。バレたらパートナーさんたちで騒動になりますよ。そのときウチは方針に従っただけだと説明するだけですが、その責任は取っていただけますよね?」と言い切って、現在、相手の出方待ちになっている。僕は契約解除してもいいと考えているが、大人の事情で無理っぽい。相手が方針撤回するのを祈願するばかりだ。今回の消費増税で「自分さえよければ弱い立場の者を犠牲にしてもいい」と考える人間の醜さを再確認することが出来て良かったと無理矢理前向きにとらえて胸糞悪い話を忘れることにする。


奥様にこの話をしたら「酷すぎ。血も涙もない人間ているのね。許せない」と憤慨していた。「だよね」と僕は相槌を打った。僕に出来ることは「消費増税を理由に来月から僕のこづかいを減らすキミも同類なのだが」と言いたい衝動と苦い失望とを、胃薬と一緒に胃袋の奥底まで流し込むこと。それだけだった。(所要時間25分)

9月27日発売↓

ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。