Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

仕事に好き嫌いを持ち込むな。

前々から「仕事を好きになる必要はない」とぼんやり思っていたけれど今はそれが正しいと確信している。そう確信したのは、一連の査定のための個別面談を通じて「仕事が好きか否か」が評価につながると考える人がいることを知ったからだ。僕は社会人になって以来、仕事の好き嫌いについて考えては来たけれども、それが評価に繋がるという視点は僕のなかになかったので新鮮であった。同時に、きっつー、とも思ってしまった。

僕自身は仕事が好きではない。出来ることなら仕事などやらずに、誰もいない部屋でひとり生まれたときの姿で一日中テレビゲームをしていたい。ただ、一日の大半の時間を仕事に費やすのなら、その時間が無駄にならないよう、しっかりと丁寧に仕事をして、相応の報酬をもらいたい、そう、考えている。マトモな仕事を通じて報酬が良くなっていけば好きではない仕事も続けていられる、いいかげんな仕事でトラブルやメンドーに巻き込まれて好きでもない仕事へ行くのがイヤにならないようにしたい、これが僕のスタンスだ。

仕事が好きか嫌いかと、仕事ぶりやその評価とはほとんど関係がない。今の僕は仕事が嫌いだからこそ、丁寧にこなして、これ以上時間を費やさないで済むようにしている。もちろん、その結果、相手が喜んでくれれば悪い気はしない。仕事が好きな人やそういう感情を馬鹿にしているのではない。仕事が好きな人や好きなことを仕事にしている人は本当にラッキーなので今の状況を守って欲しいと本気で祈っている。


かつて「家庭の出費が収入に対して過大で死にそうです。昇給お願いいたします」という間違いだらけのワークライフバランスを掲げて賃上げを求めてきた年上の部下との面談。彼は面談中、仕事が好きです、好きだとつい仕事に熱が入ってしまいます、と仕事好きを前面に出して面談に臨んでいた。そういうのは気持ちの中だけにしてほしい。百歩譲って、ご自身のユーチューブチャンネルだけにしてほしい。営業という仕事は残酷でございまして、数字に全部あらわれてしまう。面談は、目の前の数字をどうとらえているかと今後の見通しの確認作業にすぎないので、お仕事好き好き大好きとアッピールされても評価には影響しない。スルーである。

僕が何も言わないことをポジティブに解釈した彼が調子に乗って「仕事が嫌いな人間より好きな人間を部長なら評価しますよね」と言ってきたときは、勢いよく流れ込むモヤモヤに、心のダムが耐えきれなくなり「仕事の好き嫌いは評価に何の影響もありませんよ。あらわれた数字と勤務態度で粛々と出来るだけ公平に評価するだけです」と緊急放流していた。彼は、よほど絶望したのだろうね、ゾンビのような顔になっていた。

彼はゾンビのような執拗さで「仕事が好きなことは、いい仕事につながりますよ」と言うので「その可能性はありますけれど、仕事の良し悪しを評価するのはお客様であり、その結果が数字ですから。時間もかぎられているので本題に戻りましょうか」といって議論を打ちきった。彼は善良な人間なのだろう。そう考えるしかない。

実際、仕事が出来るかどうかと仕事が好きか否かはまったく別の問題だろう。仕事が好きでも仕事ができない人は腐るほど見てきたし、仕事が好きすぎるあまり周りにも同じような熱意を求めてチームを崩壊させる人もいた。仕事が好きすぎて、365日24時間仕事のことばかり考えてましたー!とアホなことをいうひと昔前の経営者はこのタイプだろう。好きは時に人を馬鹿にする。僕がこれまで出会ってきた仕事が出来る人は、仕事が嫌いな人も多かった。仕事が嫌いなぶん、プライベートときっちりわけて、時間内にきっちりと終わらせるのだ。嫌いだから自分やチームが楽できる仕組みをつくる。ムリムダムラをなくす。僕はこういうスタンスを仕事ができることだと思う。

もちろん、仕事が嫌いすぎて、仕事をまったくやらない論外な人間もいるので、仕事に対する過度の好き嫌いはよろしくないということだろう。仕事が好きor嫌い、仕事が出来るor出来ないの組み合わせをランク付けすれば、ビリは「仕事が好きだけど仕事は出来ない」で、トップは「仕事は嫌いだが仕事が出来る」になる。仕事が好きだけど仕事は出来ない状態は、悲劇としか言いようがない。

面談の終わりに当該部下から「部長はこの仕事が好きですか?」と質問されたので、正直に「好きじゃないです。でも仕事だから」と答えた。仕事だからやるしかないのだ。「好きじゃないのになぜやってるのですか!そんな人の下では働けない!」そんな反発を予想して構えたが、裏切られた。彼は「私を部長を補佐する役職にしてもらえませんか」と謎な提案をしてきたのだ。その心は「この仕事が好きで仕事を愛している私が、副部長としてこの仕事が好きではない部長をサポートすることで組織のバランスが取れます」というものであった。「具体的に何をするのです?」「部長の傍にいてバランスを取ります」。どうやらバランス感覚が決定的に欠けている自覚がないらしい。僕はその瞬間、好き嫌いで仕事をしないという自分のポリシーの正しさを確信した。もし、好き嫌いを持ち込んでいたら、目の前にいるミスタ・ライフワークバランスに考えうるかぎりの悪口を投げつけていただろう。僕は、自分があまり好きではない、自称仕事が好きでしかたない部下に「却下」と言って面談を終わらせたのだ。(所要時間25分)

会社員の会社員による会社員のための生き方本を出しました。よろしくね。→ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。