Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

上司とのオンライン飲み会は地獄を見るからやめたほうがいい。

メーデーという労働者の日を前に、古い体質の弊社でも上層部に労働者の声が届き、オンライン会議の導入が決まった。喜ばしいことだ。同時に、オンライン会議の実証実験としてオンライン飲み会を行うという連絡も受けた。

相手は上層部10人。絶望した。在宅で働いているのに、なにが悲しくて、平均年齢60才を越える上司オッサン10人とつながらなければならないのか。憤った。なぜ、飲み会からの会議なのか。順番逆だろう。アホか。それから僕は、自分の憤りをおさえて、くだらない飲み会のためにわざわざ出勤して環境を整えたシステム担当者を気遣った。「特に難しいことはありませんでした」と気丈にふるまうシステム担当の明るい声がかえって僕の不安を増大させた。

 人とつながることのすべてを否定しないが、無理につながる必要はないと考えている。つながりとは本来、誰かに言われてつくられるものではなく、自然発生するものだ。だから、最近の「つながろうムード」は僕には少し異様に見える。今は、強引につながることより、適度な孤独をゆるやかに受け入れるときではないか…。そんなふうに考えているので、オンライン飲み会には否定的だ。親しい友人数人とならいい。楽しい時間になるはずだ。だが会社の上層部オッサンたちが相手となれば、それは拷問に等しい。ときに神は残酷だ。このような乗り越えられない試練を会社員にお与えになる。

 「僕はサラリーマン。飲み会も仕事なんだ。ワークなんだ」と割り切ってポテチと缶ビール6本を用意。17時。オンライン会議がはじまった。モニターに映し出された映像は想像を超越する酷いものだった。スーツ姿のオッサンがずらずらっと並んでいた。平均年齢は60を優に超えている。想像してみて欲しい。そこらにいるオッサンたちの冴えない顔!顔!顔!と正対している光景を。地獄だ。

 昨今のカメラの高性能は厳しい現実をとらえていた。薄毛に白く浮いたフケ。頬のたるみ。飛び出る鼻毛。単発ではなく、同時多発的に鼻毛。僕の絶望を深くさせたのは、認めたくないけれども、僕も向こう側からみれば、多くのオッサンを構成するイチオッサンになっているという動かしようのない事実であった。ドデカい襟の派手なシャツを着ている僕は、サラリーマン然としたオッサンズのなかで中年フリーターのように見えているにちがいない。こんなうだつのあがらない「オーシャンズ11」のメンバーにはなりたくなかった…。缶ビール消費!

 オンライン飲み会は、はじまってからも最低だった。オッサンズは、ただでさえ声が大きめなのに、目の前に人がいない不安からなのか、マイクの性能に疑念をもっていらっしゃるのか、通常モードより声を張り上げやがる。「あー!あー!聞こえますか―マイク聞こえますか―」を同時に2人がやりはじめたときは失神するかと思った。缶ビール消費!

 オンラインだと、ただでさえ人の話を聞かないで自分の話をする高齢オッサンの悪い癖が増幅されるので気を付けてもらいたい。僕の目の前では10人のオッサンがそれぞれ別々の自分語りをはじめていた。「オンライン会議も~」「今の社員は~」「コロナのせいで…」「本当に聞こえてる~?」。普通の飲みであれば、気にならないものまで拾われて、最悪を加速させていた。想像してみてほしい。正対したオッサンが真顔で話す合間に「ゴフッ」「ゲッ」「ズズーッ」「オエ」「クチャクチャ」という異音を発する光景は地獄である。缶ビール消費!

 10分も経過すると、画面のなかで頭をうなだれて静止するオッサン、カメラに飲み物の飛沫がついて「SOUND ONLY」状態になるオッサン、カメラの位置を勘違いして、違うところに鋭い視線を飛ばしながら熱く会社について語るオッサンが現れはじめた。「みんなの顔がよく見えていいねえ」と呑気なことを言っているオッサンは、動かなくなっている仲間が見えていないみたいであった。あいかわらずオッサンたちは人の話を聞かずに大声で自分の話を続け、ゴフッ、ゲッ、クチャクチャ、オエオエ各種ノイズがスキマを埋めていた。

 画面でオッサンたちの顔顔顔が、それぞれ別個に話をしたり説教をしたり寝たりゲップをしている地獄絵図は、デビルマンのジンメンによく似ていた。

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このオンライン飲み会もジンメンと同じように僕のトラウマになるだろう。クライマックスは「嫁さんの顔を見たい。連れてきなさいよ」と上層部が僕へ言い出したときだ。もし僕が不動明だったら、裏切り者の名を受けるのもいとわず、デビルマンに変身して悪魔の力を炸裂させていたはずだ。缶ビール消費!

 意味のない、老人たちの満足感のためだけのオンライン飲み会。クソつまらなさでトラウマになりそうなオンライン飲み会。その途中で、僕は何人かのオッサンの背景が一緒であることに気が付いた。「システム担当のやつ手を抜いたなー」と思っただけで、その後、気にしなかった。けれども、終盤で、取締役の一人が画面のなかで横を向いて「そのツマミいいなあ」と話かけているのを見て気が付いてしまった。背景が一緒なのではなく、彼らの半数以上が、同じ場所、会社のパソコンから参加していたのであった。きっつ…オフじゃん。オンラインの意味ねえ。こんな形でオンライン飲み会童貞をうしないたくなかった…。

 実験のためのオンライン会議は地獄にはじまり地獄で終わった。僕が観察したかぎりでは、まともに成立した会話はひとつもなかったはずだが、どういうわけか、上層部はイケるという感触を得たようで、オンライン会議を導入する流れになったので良かった。これが意味するのは地獄の本番ははじまったばかりということ。これから毎月オッサンたちとジンメン会議をするのか…想像するだけで頭が痛くなる。本日5月1日メーデー(May Day)は労働者の日であるが、今、僕は心の中で救難信号メーデー(Mayday)を出し続けている。(所要時間40分)