Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

社長案件からは全力で逃げよ。

「社長案件」は避けられるものなら避けたほうがいい、が僕の結論。というのも社長からの案件をうまくやりきっても「社長の力添えがあったから」と正当に評価されないことは多いし、しくじれば地獄だからだ。もっとも難しいケースは今回のように社長から任された案件が精査した結果、収益が見込めないポンコツで断るしかないとき。社長からは「断るのは結構だが、付き合いがあるから相手に一ミリも不快な思いをさせないように」と釘を刺される。周囲はニヤニヤ僕の失敗を期待している。いいことは何もない。当該案件はいくつかの地元企業がサポートしている、とある地方の福祉事業で、食材提供する企業だけが見つからずにツテを辿って社長のもとへ持ち込まれたものだった。提供された条件を精査してどうやっても収益が見込めなかったので、電話で断る際にそれを包み隠さず話すと、事業の事務局の担当者が「わかりました。では直接していただけないでしょうか」と謎な対応をするので、いやいやお断りの話なのでこれ以上は時間と手間の無駄になりますから、と言ったものの、電話で済ませることが相手に1ミリほど不快な思いをさせることになったらミッションは失敗になってしまうので、しぶしぶ相手のもとへ断りに行くことになった。事務局に行くと担当者が迎えてくれて、ささどうぞ、と奥の会議室に通された。壁に貼られた「明るい」「光」「未来」「子供たち」という文字の目立つポスターを眺めていると、ドアがノックされて、担当者も含めて8名ほどの中高年の男性が入ってきた。スーツを着ている担当者以外は個人事業主っぽいラフな格好。彼らはその事業の幹部たちであった。挨拶を済ませて、断りを正式に入れて、その理由を説明した。収益にならない。事業展開していない地域なので厳しい。と。事務局の方々は僕の話に驚きを隠せないようであった。それぞれが顔を見合わせたり、いやいやいやみたいな表情を浮かべている。理事長とされる長老が「あなたの仰ることはわかりました」と話を切り出した。彼は事業の意義や理想を語ると、厳かな感じで「この事業は非営利でやっている」と言い切った。このジジイ僕の話を聞いていないのか。よくある話である。自分たちが意義があるものだと信じて非営利でやっている事業は、他の人間にとっても意義があって非営利で協力するべきもの。こういう考えの人は多い。意義や理想を他者へ押しつけないでくれ。「申し訳ありません。弊社は協力できません」と僕は言った。謝る必要は0.1ミリもないのに謝ったのは相手に1ミリの不快感を与えないための譲歩であった。長老は、僕の返事に動じずに「この事業に参加することは御社にとってもプラスになる」などという。将来見返りが期待できる投資案件なら話は別。僕は長老の威厳から、この話の奥にあるビッグビジネスの匂いをかぎ取った。そして訊ねた。「将来的にはどんなプランがあるのですか?ビジョンを教えていただけますか。それによっては再度検討させていただきます」理事長は「先のことは何も決まっていない。目の前にある問題をどうするか。それだけで精一杯」と絶望的な話をしはじめるのを事務局の担当者がフォローするように「今のところプランはありませんが、将来的にはプランをつくるつもりです。ただこの事業を通じて満足感と達成感を得られるのは間違いないです」とフォローになっていないことを付け加えた。何ないのかよ。先のことが決まってないものには投資できない。「すみません。やはりお断りします」僕は同じ答えを繰り返した。長丁場になることを覚悟していると「ですよねー」と事務局の担当者は言った。明るい調子であった。どういう意味の「ですよねー」なのだろう。説明を求めるとアリ地獄にハマるので想像するしかないけれど、おそらく、「おたくのような下界営業マンには理解できない『ですよねー』。高い理想を持つのは我々のような選ばれし者だけ『ですよねー』」という自己肯定だろう。圧をかけてくるわけでもないのに8人も集まったのがその証。人間は自分の聞きたい話だけを聞きたがる生き物。ただ、世の中はそれほど都合よく出来ていないので、自分の聞きたい話を相手から引き出すためには、努力や工夫が求められる。それをしないのはただの怠慢でしかない。相手から自己肯定の「ですよねー」と引き出せたので不快な思いは1ミリもさせてはいないはずだ。ミッションコンプリート。(所要時間28分)