Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

フラットな組織にはぺんぺん草も生えない。

先日、賞与が無事支給された。ありがたいことである。ありがたくないこともあった。賞与査定の際に、上層部から「フラットな視点で査定をするように」ときつく言われていたので、そのとおりフラットな目で査定をしたのだが、どうも上層部A(64)のお気に召さなかったようで、呼び出しを受けたのだ。正直、驚いた。というのもAのいう「フラットな査定」が「成績にかかわらずスタッフ間においては平坦な評価をつけろ」というものだったからだ。僕が考えるフラットな(視点からの)査定は、出来るかぎり公正公平な視点から成績の良いものには良い評価、悪いものには悪い評価をつけるというものだったので、彼らのお気に召さなかったのは想像に難くない。「部下は平等に扱わないとダメだ」と上層部Aが言うので「平等に扱っているから差がつくのです」と反論する。

Aの考えは、グループ内で評価を平坦にすることによって優れた者にはもっとやらなきゃという危機感が生まれ、優れていない者は会社の慈悲を感じて、双方ともに頑張るようになる、というアホな夢物語であった。「優れた人間は評価されなければ流出します」「優れていない人間はこんなものでいいかーと現状に甘えるだけです」とごく当たり前の一般論を申し上げると「否定からは何も生まれない。キミの意見には賛成できない」と軽くキレながら僕の意見を否定していた。意見がすべて否定に聞こえてしまう病発症である。「私はね…経営陣の指導のもと、社員全員がフラットに一体的に動ける組織でなければこれからの時代を生き抜けないと思うのだよ」と窓の外を見ているAの老眼には、自身の構想において経営陣とその他社員との関係がフラットではないことはどう見えているのだろうか…想像するのも時間の無駄なので僕はそこで思考を止めた。賞与の査定については社長やその他関係部署との調整でほぼ僕の査定が通ったので結果オーライ。

フラットといえば前の会社をノープランで辞めて、就職活動をしているときにフラットな組織を売りにする会社の面接を受けたことがある。その会社は、不動産と謎のウレタン製品を扱っている小さな企業であった。法人営業担当者を探していた。面接をしてくれた社長さんは「我が社にはね。上も下もないんですよ。全員が課長。名前をサン付けで呼びあう。皆が成果と責任感をシェアしてフラットな関係で楽しく働いている」と話してくれた。課長しかいないはずの会社において社長のあなたはどういう存在なのだろうか。課長間で責任感が高速パス回しされていないのだろうか。疑問は永遠に解けないままである。なぜなら、お断りを入れたからだ。事業や任される仕事について不満があったわけではなく、最初の一年はアルバイトとして働いてくれ、と言われたのが大きい。当時すでに僕は四十を越えていた。フラットな関係は大変素晴らしいけれども、そこまでの丁稚奉公が過酷すぎた。

社長に事業所を案内されているときに電話が鳴った。そのとき事務所には中年男性、中年女性、30代と思われる男性、20代と思われる女性の4名がいた。誰も受話器を取ろうとしない。プルルル。プルルル。呼び出し音が響く。仕事では2コール以内、テレクラでは光の速さで受話器をあげていた僕にとっては未知の領域。機会損失が怖くてハラハラ。30代の男性が受話器を取って対応した。そっすねー。今、ちょっと無理なんですよー。さーせん、という軽薄な言葉が虚しく響いた。受話器をおろした30代の男性は、それまでの軽薄な感じが嘘のように、周りでフラットな関係で働く同僚を睨んだように見えた。チッ、と舌打ちしたかもしれない。20代の女性があくびをしていた。完全に平等。そこにはベテランも中堅も若手もなかった。若干のヤバさは感じたけれども、カースト制の会社組織で働き続けてきた僕の目にはとても新鮮なものに映った。

昨年、仕事でそのフラットな人間関係が自慢な会社のある町まで来たので、車を走らせて見に行った。フラットな人間関係と事業の両立を見せて欲しかった。旧態然な働き方と組織のありように消耗して働くに嫌気がさしている僕を「働くって楽しいんだぜ」と殴るように否定して欲しかった。アパートの隣にはコンビニがある。辞退したときの「最初だけ我慢すれば楽しく働けるのに…。残念だ。応援しているよ」という電話越しの社長の言葉が蘇る。コンビニの先にある角を曲がるとそこにあの会社が…なくなっていた。更地になっていた。雑草も生えていない、砂漠のような、完璧なフラット。成果と責任感とをそこにいる者たちで平等に分け合って働く理想郷は滅びていた。きっとフラットな関係から溢れ出た人間の怨念が、雑草の浸食を許さないのだろう。(所要時間40分)

こういう、うだつのあがらない日常を書いたエッセイ集を去年出しました→ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。