Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

2度目の緊急事態宣言で明らかになったこと

2021年1月8日僕の暮らしている神奈川県に緊急事態宣言が出された。昨日、緊急事態宣言への対応を社長以下部門長レベルで話し合った。対応といっても、昨年春の緊急事態宣言の際に業務効率化の推進とテレワークの導入を完了しており、さらに宣言解除後に東京にあった営業拠点の廃止と、地方での事業展開を進めるための協力会社との業務提携契約締結(この二つは僕が前職のコネを使ってまとめた)を次の緊急事態宣言に備えて終えているので、「あれは問題ないよね」という社長に「問題ありません」と返すだけの確認作業であった。食品会社なので、売上の減少や現場でのさらなる感染対策といった問題はあるけれども、基本的にはこれまでの取り組みを継続すればいい。会議はあっという間に終わる。はずだった。

なぜ終わらなかったのかというと高齢化著しい上層部が「本社をカラにするわけにはいかない」とか言い出したから。残り少ない命を燃やしているのだ。ひとりで燃えていればいいのだが、ときどき火の粉を飛ばして山火事を起こすから始末が悪い。彼らは「テレワークはできない。自分たちには出社してやる仕事がある」と主張した。具体的には書類の確認とハンコ押し。立場が全然わかっていない。彼らの仕事がテレワークできないのではない。何も仕事をしていないのでテレワークさせようがなかったのだ。緊急事態宣言は残酷だ。マジメに働いていた人から仕事を奪い、仕事をしていない人の実態を白日のもとに晒してしまうのだから。

僕は彼らを憐れに思い、「そろそろ現実を教えてあげよう。それが武士の情け、慈悲の心というものだ。彼らの自尊心を傷つけないようにオブラートに包んで教えてあげよう」という上から目線から「出社してもやる仕事ありますか?社員はいません。ハンコを押す書類も回ってきませんよ。会社にいる意味がありません」と諭すように言った。オブラートに包むのは忘れた。

彼らは激怒した。「パソコンやタブレットの画面で書類を読んでも確認したことにはならない」「画面に承認印は押せない」「書類は紙でなければ」と抵抗する彼らはもはや、社長に反抗する賊軍であった。社長の意向で社内文書はハンコなしでオッケーになっている。当面の社長の意向はテレワーク推進によって出社する社員を最小限におさえることだった。緊急事態宣言はきっかけにすぎない。その先には家賃その他経費を圧縮するための本社縮小移転があり、おそらく、その先には先代社長から引き継いだベテラン上層部の一掃があるはずだ。僕は社長に視線を向けて「今こそ奴らを一掃するチャンスです。波動砲をかましてください」とアイコンタクトを送った。社長は僕に「君は間違っている」と言った。社長の波動砲は上層部ではなく僕に向けられていた。うそーん。完璧に社長の意図を汲んだはずなのに…。

社長は「なんでも一律に在宅勤務にするのは乱暴すぎる」と僕を諭してから、上層部に「そこまで出社にこだわるなら出社してください。時間に余裕があるでしょうから、緊急事態宣言が終わるまでに新規事業計画を作って私に出してください。手書きは禁止します。パソコンで作ってデータでください。エクセルでもワードでもグーグルドキュメントでもかまいません」と言った。それはパソコンをまともに使ったことのない上層部にとって事実上の死刑宣告であり始まるやいなやゲームオーバーのクソゲーのプレゼントであった。

このように緊急事態宣言にともなうテレワーク推進によって、サボリーマンは駆逐されていく。肩書きや役職だけで実力のないマンは切り捨てられていく。残酷だ。だが、普通に働いているほとんどの人にとっては歓迎すべきことだろう。会議が終わったあとで、上層部から「『グーグルと決めないと』は何を決めるのか」という意味不明な質問をされたとき、僕には祇園精舎の鐘の声が聞こえた。このように緊急事態宣言とは諸行無常なのである。(所要時間26分)このような世知辛いエッセイをまとめた本を書きました。→ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。