Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

緊急事態宣言が引き起こした飲食店間の戦いがマジで仁義なき戦いだった。

先日、取引のある仕出し弁当業者と面談した。「相談に乗ってほしい」と請われたからだ。その仕出し弁当業者は緊急事態宣言下にあるエリアで半世紀近く営業している老舗。官公庁向けやイベントへの仕出し弁当を主な事業にしていて、一般向けの弁当も手掛けていた。相談は「テレワークによる官公庁向けの仕出し弁当の減少とイベント全廃による売上の低下を何とかしたい」と予想通りのものだった。僕は、一般向けのテイクアウト用の弁当をこれまで以上に強化することを提案していた。さいわい、事業所が商業エリアと住宅エリアの近くにあるため、「街のお弁当屋さん」として売り込んでいけば、活路は開けると考えていた。仕出し弁当の強みは、手作り感のある弁当をつくる技術と設備があること、そして販売価格を抑えられることだ。弱さは、現状の設備ではチルド展開(通販展開)が出来ないことだ。だから現在の商圏で売り方を変える、事業の比重を変えることで生き残りをはかろう。それがこれまでの戦略だった。僕はそこにテコ入れするために、新メニューについて、ウチの新商品の営業を兼ねて、助言した。

還暦を迎えている社長(ちゃきちゃきの女性だ)は、今後の展開について相談したあとで「でもねー」と不満をもらした。それは僕にとって予想外、想定外のものであった。社長はお弁当の売り上げが伸びない大きな理由に新たなライバルの出現をあげたのだ。長年営業してきた街のお弁当屋を恐れさせる脅威とはなんだろうか?僕が質問すると、社長は「これまで弁当屋を馬鹿にしてやっていなかったくせにテイクアウトを始めた駅前のレストランやカフェよ」といって具体的なお店を念仏のように抑揚なく唱えた。恨み全開である。

「あいつら~」社長は終わらない。「お役所やイベントの仕事がなくなるのはわかる。でもさ、休業して補償をもらっているレストランが生き残りといってテイクアウト弁当に出てこられて、お客さんを持って行ったらさ、補償がないウチみたいな弁当屋はどうなるのよ」社長はそう言い切ると、ふざけるな、と吐き捨てるように言った。その「ふざけるな」は社長の知らない秘密を持っている僕に対するものに思えてならなかった。そして僕は抱えている秘密がバレたときの地獄を想像して震えた。これまで食べられなかった憧れのレストランが安価な値段でテイクアウトをはじめたら、洒落たカフェが映えるOBENTOを店先に並べたら、いかにも「母ちゃんが作った弁当!」な仕出し弁当は厳しい戦いを強いられるのは間違いない。商圏の見込み客の数は変わらない。奪い合うのみ。これまで棲み分けられていた者同士の仁義なき戦いが始まっていた。僕は、「御社のお弁当は確かにオシャレではありませんが、毎日食べるランチとしては最高です。私ならこちらを選びます」と2重の後ろめたさを覚えながら社長に言った。「休業して金を貰っているなら、商売休めー!」「弁当屋の仕事奪うなー!」と演説する社長を前に沈黙するしかない僕であった。

僕の後ろめたさの正体は、社長が列挙したレストラン等の多くは、ウチの取引先で、彼らに生き残りのためにテイクアウトを勧めたのも、その準備の手伝いをしたのも、何を隠そう僕だったからだ。まさか、そのような飲食店同士の戦いの黒幕になっていたとはね。食材を納品しているお客様たちへの贖罪のつもりで「彼らと協力してお互いを伸ばしていければ…」と社長に言いかけたら「なんでそんなことを言う?ウチのお客を取り戻す方法を考えてよ」と言い返されてしまった。それぞれが良い方向へ行ける方法を今、僕は考えているところだ。問題は、緊急事態宣言が解除されたあとも、レストランやカフェの客が元通りになるとは考えにくいので、この仁義なき戦いはしばらく続くと考えられることだ。会うたびに、仇敵の名前を念仏のごとく列挙されて、「金もらっているだろー!」と怨念をぶつけられたら僕の精神が壊れてしまうだろう。良い方法を思いつかなければならない。顧客のために。そして何より自分の身の安全のために。このように緊急事態宣言は新たな戦いを生んでいるのである。(所要時間26分)

このような世知辛い文章満載の本を出しました→ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。