Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

超一流の仕事の流儀がヤバかった。

先月。誰でもその名を知っていると思われる、某一流企業から企画提案オファーを受けた。企業名とオファーの内容については、機密保持にかかわるため公に出来ないが、多くの人がサービスを利用している巨大企業だ。そのような超一流から僕が勤めている会社にオファーが届いたのは、昨年から企業PRに力を入れて、PR専任者を置き、ツイッターのフォロワー数が5倍(20→100)に激増した結果だと上層部の皆様は分析している。

超一流はガードが堅い。「私たちのプロジェクトに参加しますか?」と仰るので、「内容がわからないので概要だけでも教えて」と依頼したら、「カスタマー目線でのご提案ができる企業様に参加をお願いしております」という回答。良く言えばガードが堅い、悪くいえば質問スル―するんじゃねえよ、という対応に対して「検討しようがないじゃないか」と思いつつエントリー。その日のうちに「参加ありがとうございます」というメッセージとともに、プロジェクトの概要と仕様の資料が送られてきた。

資料には「カスタマー目線」という言葉がほぼ全ページにうたってあった。素晴らしい。超一流企業らしく、「弊社の情報は絶対に流してはいけない」と警告しながら、エントリーする企業には《取引先の会社名と契約内容、担当者名と役職》を提出するように求め、末尾に「提供していただいた情報をもとに本プロジェクトに関する質問を取引先企業様にすることに了承したものとみなします」などと配慮に満ちた一文があってクソ感動した。

資料をもとに検討した。超一流は無駄なコストをかけないらしく、概要や仕様も類似プロジェクトと共用されているため、細部に不明な点が多かった。企画提案とコスト算出に必要な事項について、いくつか確認事項が出てきた。それを定型の質問フォームにまとめて送ると、超一流のスピード感てすごいよね、数分で回答が返ってきた。回答にはシンプルに「記載されていない事項については貴社の実績とノウハウから想像して、カスタマー目線でご提案ください」とあった。想像!イメージ!!カスタマー!!営業生活25年。その経験から想像が及ばない部分を質問しているつもりだったけれど、能力不足ですみません。

気を取り直して、実績と経験とノウハウで足りない部分を補完しながら資料を検討した。先方のいうカスタマー目線が具体的に何を示しているのか知りたくて先方ウェブサイトも細部まで閲覧した。社員紹介コーナーでフューチャーされていた若手社員が「ここで働き始めてから毎日楽しくて笑顔が絶えなくなりました」的なコメントを出していた。検討の結果。採算が取れる見込みなし。可能性もゼロであった。同僚にも相談してみたが結論は変わらなかった。辞退しようと、手続きについて資料を探してみたが、見当たらない。おかしい。カスタマー目線の超一流の会社が、いってみればカスタマーである参加企業に対して辞退を想定していないなんてことがあるわけがない。僕の予想を裏切って数十ページの資料には、辞退手続きに関する事項は記載されていなかった。

訴訟に持ち込まれたら嫌なので、辞退手続きについて問い合わせると、「辞退されるときはその旨をメールでいただければ結構です」というあっさりした回答。お言葉に甘えて、25年の経験をフルに活かしてあらゆる感情を排除して簡潔に「社内検討の結果、辞退させていただきます」とメールした。未練はなかったので、「残念ながら」「申し訳ありませんが」「今回は」といったフレーズは入れなかった。それがカスタマー目線に欠けていると判断されたのだろうか、情報量が不足していたと評価されたのか、量りかねるけれども、超一流の反応は予想をこえていた。「当プロジェクトの提案依頼を本当に辞退するのですか。同条件の他プロジェクトがありますがいかがでしょうか。カスタマー目線に立った魅力的なご提案をお待ちしております」

いやいやいや。条件が悪いから辞退しているところに、同一条件のプロジェクトを推してくるとは…。腐ったポテトをクロスセルされた気分。ぐいぐい圧をかけてくる。これが超一流の仕事ぶり…。「こちらは?」「あちらは?」「こちらに落ち度がありましたか?」という申し出に、いちいち対応してようやく「辞退される理由を挙げていただけますか?」という言葉を引き出すことに成功した。僕は採算が取れない等々の辞退理由を列挙して辞退メール(2回目)を送った。超一流なのに返事がくるまで数時間かかった。ようやく届いたメールは「辞退の旨承知いたしました。ありがとうございました」という無難なものであった。これで終わらなかった。メールの最後に「もし、その他に理由がございましたら、次回のご提案の参考にさせていただきますのでご教示ください」とあった。ないっつーの。僕は超一流のカスタマー目線に震えながら、スルーした。

これで終わらなかった。一流会社の別のセクションの人からこのようなメールが届いたのだ。「今回の弊社のプロジェクト担当者のご対応についてご回答願います。今後のカスタマー目線に立ったサービスに反映…」勘弁してほしい。僕は定型の回答フォームに、辞退した旨と、辞退した理由と、辞退を申し入れた担当者の対応の評価を書いて送った。もう終わりだと思ったら、光の速さで「ご回答ありがとうございます。いただいたご意見はカスタマー目線のサービスに反映させていただきます」というメッセージが届いた。なぜ、社内検討の結果辞退させていただきます、のひと言で終わらせられないのか、超一流企業から遠いところにいる僕には想像できないでいる。入会は容易だけれど、退会手続きが面倒なサービスのような独りよがりのカスタマー目線になっていないか、一度検討されるとよろしいのではないか愚考する次第である。(所要時間30分)

このようなうだつのあがらない社会人エッセイを出しました→ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。