Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

とある事業の醜い終焉

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食品会社の営業部長だが、ときどき、管理業務も任されている。つか、やらされている。契約違反ではなかろうか。今月に入ってから年末をもって契約満了となる事業を任されることになった。年末で終わる仕事を今さら?嫌な予感しかない。契約満了となるのはオーナーと委託契約を結び当社が運営しているレストランである。長年契約更新してきたが、3ヶ月前にオーナーから契約満了(更新の意思なし)を伝えられた。食堂は一旦クローズして、工事期間を経て数ヶ月後にリニューアルする予定。リニューアルを機に業態を変えるので当社はお役御免となった。契約満了の事業終了。そこに怨念はない。

とはいっても絡んでいる人はいる。現場で働くスタッフだ。社員数名とパートは十数名。社員は年明けから異動が決定。パートは雇い止めになるけど異動先の紹介で対応。うまくいっていると聞いていたが僕の出番になった。何かが起きている。会社上層部の「トラブルが発生した時はトラブルのもとにまったく関わっていない人間に当たらせる」という方針によって僕が当たることになったのだ。超迷惑。

食堂の閉鎖、つまり契約満了に伴う手続きが終わり、後は年末までの契約期間を全うするだけになったこの時期に「現場責任者からうちのひどい扱いを受けてきた」「働く場所を失いたくないから訴えられなかった」と主婦パートのグループが訴え出てきたのだ。まず話を聞いてわかったのは「現在の仕事がなくなることへの会社への不満」である。契約満了にすぎないのだが、会社への不満から「会社がオーナーに事業の終了を申し出た」というストーリーを作り上げていた。オーナーは仕事を続けたかったに違いない、と言う思い込みである。いやむしろ会社も契約を切られた被害者なのだが……。この点については「当社としては事業継続をしたかったがオーナーの意向だから」と説明した。「ふーん、そういうことにしておきましょう」とグループの人たちは言っていた。納得できないのか、理解できないのかは僕の知るところではない。

彼女たちの不満は現場責任者と本社担当者へ向かった。「現場責任者から数々のハラスメントを受けてきた」「本社担当者はそれをスルーしてきた」とハラスメント担当セクションに訴えたのである。そして彼女たちグループは「今まで我慢してきたけれどももう先がないところで我慢する必要もなくなった。だから年末まではとても働けない。会社都合なのだから、年末までの賃金は支払ってほしい。年休も取れないから換金してほしい」と求めてきた。一刻も早くそこを離れて職探しをしたいというのが、彼女たちの目的だと推測した。

ハラスメントに対しては慎重に当たらなきゃいけない。現場責任者の社員は前倒しで異動をかけて沈静化をはかった。年末まで現場を維持できればよいので代替ヘルプ人員を回す手配も行った。ハラスメントについては社内担当者に同席してもらってグループと対話した。実はハラスメントについての証拠は何も見つかっていない。録音やグループ以外のパートからの証言もない。それを持ち出すより、グループの彼女たちの話に耳を傾けることにした。事業が終わるのだ。無事に終わらせることが先決だったのだ。彼女たちは「こうやって来てくれた部長さんには申し訳ないけれども、本部の運営がなっていないから、私たちの仕事はなくなるんですよ。オーナーだって本当は辞めたくなかったはずですよ。」と従来の主張を繰り返した。だから契約満了だっつーの。オーナーの意向だっつーの。こちとらも被害者だっつーの。

言い返したい気持ちをぐっと押さえて、話を聞き続けた。「私たちは食堂に来てくれた人たちの事は絶対に忘れない。人との付き合いを大事にしているから。本社の人たちはわからないでしょうね」と感情的な話になってきた。ここで契約満了だからしょうがないですよとビジネスライクな話をしたら逆効果である。「大変でしたね、行き届かない面があってすいません」と言うにとどめた。こんな感じで対応していくしかなかった。話している中で、彼女たちが沈んでいく船から一刻も早く抜けたかったのだとわかった。
現場責任者はどういうハラスメントをしたのか参考までに教えて欲しい。どんな証言をしても不利にはならないことを約束して一人一人ヒアリングをした。驚いた。具体的な話は公開できないが全部伝聞だったのだ。「誰々が怒鳴られているという話を人づてに聞いたことがある」みたいな感じのエピソード。当該グループで直接ハラスメント被害を受けている人もいなかった。「直接受けたことも見たことのないハラスメントだけれども、そんな怖いところにはいられない」というのが彼女たちの主張だった。結局のところ、実際にハラスメントがあったのか、それとも彼女たちが自分たちの目的を達成するために作りあげたものなのかわからなかった。結論としては、彼女たちの求めるものにはフル回答。会社サイドも大きな問題にならずに年内いっぱいの授業継続のめどが立った。僕も、事態の沈静化と契約満了にともなう事業所閉鎖という目的を達成した。グループの構成員たちは「嫌な思いをしたから、会社の事は今後思い出したくない」と口々に言っていた。全然共感できなかった人たちだったが、「辞める会社のことは思い出したくない」という共通点が見つかってよかった。

その三日後、会社最寄り駅近くの居酒屋軒定食屋みたいな店でひとり遅すぎるランチを食べていたら、パーテーションの向こうにうるさいグループがいた。大声で聞こえてくるのはウチの会社名、オーナーの名前、例の食堂名、現場責任者の名前、等々で優秀な探偵でなくても、例のグループと特定できた。昼から酒を飲んで騒いでいた。祝勝会のようだ。うちの会社から勝ち取るだけのものを勝ち取ったみたいな雰囲気。面白いのは、彼女たちの望み通りの対応だったはずだが、会社に対する恨みを述べていることだ。ハラスメントが蔓延しているような会社のことは思い出したくないと捨て台詞を残した人たちが、わざわざ昼過ぎに集まって会社の話で盛り上がっている。これはどういうことでしょうか。ハラスメントは本当にあったのか、なかったのか。僕にはわからないのでこの文章読んでる人に結論は委ねたい。なお、現場で出会った人の顔は忘れないとクソつまらないプロ意識を語っていた彼女たちであるが、食事を終え嫌味っぼく会釈をした僕を見ても「誰あれ?」みたいに無反応であった。特定の会社名や企業名を出して大騒ぎをしている程度のプロ意識なのだからお察しでござるよ。(所要時間41分)