Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

職場で「日本人ファースト」という言葉が聞こえてきて激しく動揺した。

若い頃、職場の先輩から「仕事中に政治の話は絶対にするな」と教えられた。その教えを今まで守ってきた。「支持するものがちがっているという理由で契約を取れなかったらバカみたいだろ」と先輩は言った。他の先輩も同じようなこと言っていたし、仕事中に深く政治の話をしたことがないので、そういうものだとこれまで思っていた。それが僕にとっての当たり前だったというだけのことだ。もし、営業マンが職場や取引先で積極的に政治について語り合っていれば、大きなうねりになって政治を動かしたかもしれないと思うこともある。しかし、「あなたの顔とあなたが紹介する商品はいいが、スポーツ平和党を支持しているあなたを窓口にしている企業とは契約できない」といわれて契約が取れなければ生活に支障が出る。背に腹は代えられないのだ。

だから、2025年7月22日午前中。先ほど隣の部署の同僚たちから「日本人ファースト」という現在きわめてナーバスかつ政治的なワードが聞こえてきたときには、激しく動揺してしまった。そのとき僕は秒速5センチメートルで視線をパソコンへ戻し、何ごともなかったかのように仕事をしているふりをした。数メートル先にある隣の部署の島では同僚二人が立って腕を組んでいる。二人とも笑みを浮かべている。勝利の笑みだ。彼らのデスクを見るとオレンジ色の物体が確認できた。「ああ。そういうことなのか」と思って耳をすますと「外国人は頼りにならない」「日本人ファースト」「アベ政権」「昨日は勝ててよかった」「若手の時代」「これからが大事」という強めの言葉が聞こえてきた。「職場であんなに堂々と…時代が変わったんだな…」と自分に言い聞かせた。たいして世話にならなかった諸先輩方の数少ない役に立つ教えのひとつがまたひとつ歴史の遺物になったのだ。まったく悲しくない。

同僚二人のデスクにはオレンジ色のグッズが置いてあるのが見えた。老眼なのでぼやけてそれが何かはわからないが何か威勢のいい「勝利を目指す」的なメッセージが印刷されているようだった。なるほど。二人はそういうことなのね。人それぞれ。いいんじゃないか。アンダースタン。そのあと僕は恐怖した。僕が、かつてスポーツ平和党を支持して横浜駅前でアントニオ猪木とエモやんの演説を聞き闘魂注入された過去をもっていることが彼らにバレたら「元気ですか!」と吊し上げにあうかもしれないと恐れたのである。

彼らの話が聞こえないトイレに一時避難することにした。トイレに行くには彼らの近くを通過することになる。彼らの話が細部まではっきりと聞こえるようになった。打てる日本人ファースト、とにかく勝ててよかった、球宴明けからが大事、外国人野手は頼りにならない、阿部政権は支持している…彼らは巨人ファンでオレンジ色はジャイアンツカラーであった。デスクの上にはフェイスタオルとジャビットのキーホルダー。彼らの心の中にはアントニオ猪木ではなくジャイアント馬場が生きているにちがいない。かつて先輩たちは「仕事中では政治と野球の話はするな」と教えてくれた。その教えを僕はかたくなに守っている。同僚は僕がヤクルトスワローズ原理主義者であることを知らない。いずれにせよ世の中や常識は変わっている。変化についていけない。きっつー。(所要時間16分)