
僕は給食会社の営業部長。先日、会社上層部から呼ばれて「現場スタッフ不足をスキマバイトの活用で解決できないか検討してくれ」と言われた。「また思い付きか…」と流していたら「細菌検査(検便)をクリアすれば」とか「秘密保持契約を結べば」などと専門的実務的なことを言い出した。彼らは本気だ。彼らなりに会社のことを考えていた。僕は、「ウチの会社上層部はアホ」という認識が成長しすぎて、まったく仕事をしていないという幻想を心の中に作っていた。この点は反省。すまん。とはいっても、会社上層部には創造性が欠如しているので、スキマバイトを推している業者の営業からの入れ知恵だろう。
給食業界は、人材確保に苦戦している。現場スタッフは社員からパートスタッフまで余裕がない。求人広告を見るかぎりでは、どの給食会社も苦戦しているようだ。特に、休みなく、朝昼夕3食提供している福祉施設(老人ホーム)や病院は、勤務時間が、早朝だったり、長くなったりするため、定着率が低いうえ、採用もうまくいっていない。そのためヘルプスタッフで穴埋めをしているが、彼らも休ませなければならない。だから、スキマバイトを活用して一時的にでも人材不足を解消するのは理にかなっているのだ。
で、いろいろ検討してみたが、当社ではスキマバイトの活用は難しかった。当社だけでなく給食会社で活用は難しいだろう。理由はスキマバイトと給食業は相性の悪さだ。委託給食は、クライアントから施設と設備を借りて運営している。たとえば、社員食堂は企業の福利厚生施設であり敷地内にある。そのため、スポット的に(企業側からみれば)よくわからない人を施設内に入れることにセキュリティの問題から拒絶反応を示すのだ。相談したクライアントからも「特定できない人を施設内に入れるのは出来たらやめてもらえませんか」と釘を刺されてしまった。
老人ホームや保育所のような施設系はさらにその傾向が強い。「スキマバイトの導入は委託契約書に含まれていません」とはっきり断ってきた法人もあった。相談に乗ってもらったとある特別養護老人ホームの事務長からは「入居している人にとってここは家なので……家に知らない人がいたら嫌でしょう?びっくりするでしょう?」とやんわり断られてしまった。社員食堂であれ福祉施設であれ、従業員名簿の提出を求められることがあるので、こうした反応は予想通りだった。
給食はクライアントの施設と設備を借りて営業しているため、スキマバイトを導入するにはクライアントから事前に許可を得ることが必要だ。たとえば、「こういう人を何月何日に使いたい」と人物と日時を特定して事前にクライアントに申請するように。だがこれはスキマバイト最大の利点である手軽さと相反する。つまり給食とスキマバイトは相性が悪いのだ。言いかえればクライアントの許可があればスキマバイトの利用は可能ともいえる。だが、先述のとおり、もっともニーズのある(人材不足が深刻な)老人ホームや病院といった現場とスキマバイトの相性はよろしくない。難しい。
会社上層部に、結果を伝えた。「しょうがない」と諦めてくれるかと思いきや、「クライアントに内緒でスキマバイトを入れればいいだろう」と言い出した。ウチが誰を雇用しようが相手には関係ない、そもそもスキマバイトを入れてもクライアントはわからない、と。これまで仕事をしていないのに、なぜ、スキマバイト導入には熱が入っているのだろう。「お主もワルよのう」的な何かがあるのだろうか。「クライアントの敷地に入るときのチェックをどうやってクリアするのですか。登録や許可のない人間は入館できませんよ」と反論すると「辞めた人間の名前を使えばいい。その場をしのげればいい」とグレーなことを言いはじめた。
会社上層部は僕に「君には柔軟性が足りない」と言い出した。何を言い出すのかと身構えていると「現場にこだわらなくていい。君のような本社スタッフの代わりにスキマバイトを入れて、本社スタッフが現場に入ればいい。君の代わりにスキマバイトに営業部長をやってもらって君が社員食堂で働けば何も問題はない」と言ったのである。真顔で。その理屈でいえば、会社上層部をスキマバイトにやってもらったほうが遙かにマシな経営ができると思ったよ。マル。(所要時間22分)
給食営業マンが本になりました。9月18日発売。電子書籍版もあります。
