
僕は食品会社の営業部長だ。ウチの会社の給食事業において、とあるクライアントと昨年夏から年末までの値上げ交渉をおこなっていたが不調に終わってしまった。その原因はクライアント(顧客)、カスタマー(利用者)、につづく第三の客、労働組合。労働組合が取引において大きな存在感を示すのは給食業では普通だが、一般的には知られていないようだ。案件は、とある企業の社員食堂で、ウチの会社は長年契約を継続していただいている。昨今の食材高騰と人件費の確保のために、価格アップをお願いしていた。数か月にわたって、クライアントの担当者と慎重に協議を重ねてきて、ほぼ合意まで至ったけれども、残念ながら最後の最後で労働組合によってひっくり返されたのである。
社員食堂は福利厚生施設だ。毎日利用する人もいるように、従業員の生活に密接に関わっているという点が、レストランや食堂と異なる。もう一点異なるのは、社員食堂がクライアントから施設や経費や金銭的な補助を受けて成り立っていることだ。補助の割合はクライアントごとに異なる。クライアントからの補助が多ければ利用者の負担(一食あたりの価格)は下がることになる。
当該案件の社員食堂はクライアントとの契約により定食を550円、カレーや麺類を300〜400円で提供していた。長年、現行価格を続けてきた。価格アップを依頼してきたけれども、「もうちょっと頑張ってよ。業者は変えないから」と歴代クライアント担当者に言われて、まあ契約を更新してくれるなら、と引き下がってきた。しかしながら昨今の食材の値上がりは半端じゃなく、また人材確保のための労務費も上昇、現行価格のままでは運営できない、ということになりガチで価格アップの申し入れをしたのである。
マスコミが価格高騰を取り上げてくれたこともあり、クライアントの担当者も「世の中がこうだから仕方ないですね」と、ようやく重い腰をあげて、ガチな価格交渉に応じてくれるようになった。そして、年明けからの価格改訂を目標に、交渉を重ねて準備を進めてきた。クライアント側のコンセンサスが取れ、ほぼ合意に至った最終段階でひっくり返って「ゼロ回答」となったのである。
価格アップを土壇場で据え置きにしたのは労働組合であった。理由は、昨今の物価高で苦しんでいる社員の生活を支えるため、らしい。だからウチも同じだっつーのと言い返したかった。クライアントの担当者は労働組合サイドと話を進めてきたけれど最終的な調整がうまくいかなったと説明した。労働組合と社員食堂の関係は深い。社員食堂が福利厚生であり、社員の生活に大きく関わるからだ。そのため労働組合は社員食堂の価格改訂に対して慎重だ。だから、今回の交渉でもクライアント担当者と労働組合向けに値上げの根拠を説明した資料を作成して進めてきたのだがやられた…。
ちなみに新規の社員食堂の業者選定コンペでも、最終的なプレゼンや試食会には労働組合の代表者が参加することが多い。労働組合からの賛同も得ないと業者変更ができない企業がほとんどだ。新規であれ既存であれ社員食堂の運営を変更するのには労働組合の了解が必要になる。クライアント担当者は「労働組合の賛同得られないとどうにもならない」と完全諦めムードで「来年また再調整しましょう」と言っている。つか、「労働組合との調整はばっちりです」と胸を張っていたのはあなたなんだけど。労働組合の名を出せば交渉を打ち切れると画策したのでは?と疑いたくもなる。ちなみに当該労働組合からは長年の協力への感謝とともに、企業努力でなるべく食事の質と量を落とさないでほしいと要望された。それでも食材は出来るかぎり国産中心にしてほしいなどと言うのだからもう我がままがすぎる。お手上げだ。
労働組合は労働者の味方のはずだ。しかし、今回の値上げがなくなったことで、ウチはパートの人数を削減や労働時間をカットしなければならない。利益も減るだろう。当社のスタッフも労働者である。また、食材を納品してもらっている協力会社に対しても値下げをお願いすることになる。協力会社に勤めているのも労働者である。社員食堂の値上げにゼロ回答することによって、そういう下請け労働者が苦しむのですけど、労働組合さん…。
社員食堂にかぎらず下請けからの価格アップに対してゼロ回答することで得たものは、こうした下請けの犠牲のうえで成り立っているのだ。結局のところ労働組合は自社の労働者のことしか考えていない。分かっていたけれどもあらためてこの目で見て感動しました。労組サイコー(所要時間21分)給食業界の内幕を書いた本を昨年出しました。
