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Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

就職が決まりました。

再就職に向けて面接を受けてきた。かつて血で血を洗うような争いを繰り広げた同業他社から声を掛けられたのだ。食品業界の底辺を跋扈していた同じ穴のムジナ。内情は想像がつく。隣りの芝生は青いというが、絶対に青いはずがない。だが、長年の社畜生活で芝生の色を青くするのも鮮血で染めるのも自分次第であることを僕は知っている。新ボスは僕のことを大変評価してくれていて、営業部門の中間管理職、課長待遇で迎えてくれるといってくれた。「前職でも営業課長だったよね」「部長でした…」このやりとりの後に訪れた沈黙より重苦しい沈黙を僕は知らない。完全実力主義、学歴は関係ない、グローバルに展開と暑苦しいアピールをする新ボスは、おそらくいい人なのだろう。ただし、そこそこ学歴もあって既得権益、年功序列、終身雇用を是とする僕とは住む世界が違いすぎた。だが、何よりも無職生活から抜け出したかった。僕くらいの中年になると「停滞!」をアッピールする会社にはオクスリを出したくなるけれども、「挑戦!」を執拗にアッピールする会社にも北朝鮮レベルの不安を覚えてしまうものだ。僕に不安を募らせたのは、そういった会社の姿勢などではなく、僕のことを評価して声をかけたといいながら「当面の給与については時給になるかも」「1年間は試用期間で」「営業として働いてもらうのは5月からになるけどいい?」という一連の説明である。「辞めるはずの人間が辞めなくてさー」という声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。前の会社と同等、いや、それ以上のブラック・スメルが鼻をつくようになってきて、耐えきれなくなってしまう僕。それに気づいた新ボスが「安心して欲しい。5月までの生活の保障は考えてあるから。研修も兼ねて人員不足の現場にヘルプで入れるように手配するから」と言ってくれたが、フォローにも、気休めにもなっていなかった。僕は恐ろしいことに気づいてしまった。隣りの芝生は青いというが、それって実はただ自宅の庭に生えている芝生の青さに気づいていないだけなのではないか?かつて、ソビエトの宇宙飛行士ガガーリンは「地球は青かった」と言った。ガガーリンが地球の青さに気づいたのはブラック宇宙に飛び出したからだ。僕も同じだ。外に出てしまったからこそ、前の居場所がそれほど黒くない、ともすると青いことに気づいてしまったのだ。ただ、あの場所に神と退職金制度はなかったけれども。こうして僕は内定を貰った。「家族に最終確認をさせてください」といい、その場を後にした。逃げるつもりだった。足の踏み場もないほどの地雷が埋められた大地に一歩を踏み出すような無理をするには僕は年を取りすぎてしまった。妻に実情を報告して「ヤバいよ。前よりもヤバいかもしれない。ブラックホールかもしれない」と泣きついた。「じゃあ断れば?」「いいの?」「君みたいな中年が務められる職場が他にあるの?いいかげん目を覚ましてください。このままじゃ夫婦滅亡ですよ」ED。無職。バツイチ。この機会を逃したら僕は負の三冠王になってしまう。それだけはイヤだ。僕はブラック地雷を踏む覚悟を決めた。このようにして夢も希望もない再就職が決まった。今、僕に出来ることは地雷を踏んで吹っ飛ばされたとき天国に召されること。血で血を洗っていたはずが、まさか現場で皿を洗うはめになるとは。キツすぎるけどこれもまた人生。(所要時間16分)