Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

はてブの民度が低いとは思わない。

ヨッピーさんを震源地に、はてなブックマークの民度が話題になっていた。僕も、関連した記事で目にしたものは匿名ダイアリーも含めて読んだ。感想は特にない。個人の考えなので各々違いがあっていい(ヨッピーさんは大変だと思った)。僕個人としては「最近のはてなブックマークの民度は上がっている」という感覚をもっていたので、正直なところ、問題になること自体に少し驚いた。僕自身についていえば、はてブで酷い言葉をぶつけられた経験がほとんどない。というかその類の言葉についての感度が鈍いため、「はてブの民度がー!」という気持ちになったことがない。もう少し礼節をわきまえてもらえたらいいな、と数秒思うくらいだ(なお命の危険を覚えたものについては運営に報告している。そういう発言主とのバトルは時間の無駄なのでしない)。そもそも、客観的にみて僕はネットで有名といわれている人たちに比べて(知名度が低いこともあるが)、攻撃された経験が少ないので助かっている。読んでくれている人には感謝しかない。

もちろん少ないとはいえ酷いコメントを付けられることはある。的外れのものもある。今も、このブログに付けられたブコメは良いものから悪いもの、一般的には誹謗中傷にとられるものまで全部目を通しているが、何とも思わない。民度が低いと思われるコメントがあっても、自分の記事が自分を支持しない人や反感をもたれている人までリーチしている証拠だと捉えている。むしろ少し嬉しくなる。僕のことを嫌っている人にまで僕という存在が届いているなんて、素晴らしい嫌がらせになるからだ。攻撃的なコメントを見るとワクワクする僕はネットの沼で少しおかしくなっているのだろう。ただ、ヨッピーさんのような有名人に対して酷い言葉をぶつけておいて「汚い言葉を受けるのも有名税」という理屈はちょっとないなと思う。そんな税はない。気の毒だと思う。常識的な人なら頭に来るのが普通だ。

全体的な傾向として、はてブの民度が高くなれば良い。でもどうだろう。物事には加減がある。はてブが清廉潔白でキレイな言葉ばかりの場所になりすぎたら、それはそれで居心地の悪さを感じるはずだ。僕が2003年からはてな、はてブという場所にいるのは、良いものから悪いものまでごちゃまぜのカオスだからだ。何が言いたいかというと、それぞれ、心地良さを覚える民度は違うということだ。大多数の人がキレイな場所の方が好きだと想像できるが、お花畑をキレイと感じる人もいればウンコをキレイと感じる人もいるように、そういう場所を望まない人もいるということ。そして、民度の高い/低いの間には、それぞれが心地良いと感じるポイント、許容できる範囲が分布されるので、ベストの民度を見出すことは不可能で、ベターを見出すことさえ至難だろう。株式会社はてながはてブの民度をコントロールできればよいが難しいだろう。できることは過剰に介入して民度の低いユーザーを弾くことくらいだと思われるが、それはそれで居心地の悪さを僕は覚えるだろう。結論めいたことをいえば、民度ベースではてブをコントロールしても最適解は見つけるのは難しく、その最適解によって失われるものも多いよ、ということになるのかな。というひとりごと。(所要時間19分)

私の異常な確定申告。如何にして私ははじめての確定申告の準備不足を乗り越えて苦労することなく確定申告ができるようになったか。

はじめに告白しておこう。今回の記事は当ブログ初のPR記事である。泣く子も黙る天下のアドビ社から、「僕と私の確定申告」という企画で記事を書いてほしいという依頼を受け、キーボードを叩いている。いやいや続けてきた確定申告ではあったが、それがきっかけで仕事に繋がったのである。今後は手のひらクルーで確定申告を神のごとく崇めたいと思う。なお、本文についてはいっさい編集者の手は入っていないので、読者諸兄にはいつものブログと同様に読んでもらいたい。

 

1.確定申告とは縁がないと思っていた。
 
ごく平凡な会社員として働いてきたので、確定申告は他人事だと思っていた。もちろん、ネットや雑誌で、会社員が確定申告をしていることに係る記事を目にしていたので、会社員と確定申告が完全に別のカテゴリにあるものでないことは知っていた。副業で多大な利益を得ている人や、莫大な遺産を相続した人は、会社員という身分でも確定申告が必要になる、という認識をうっすらと持っていた。
 
しかし、それでも他人事としか思えなかったのだ。というのも会社員という身分でいることのメリットは、安定(実はそうでもないけれども)と煩わしい手続きをしなくてもよい手軽さにあると考えていたからだ。リアル感がなかったというのもある。これまで数社に勤めていたが、同僚たちは、毎年2月からの確定申告の季節がやってきても確定申告の「カ」の字を出さない人たちばかりだったからだ。超一流企業であれば、財テクや副業をバリバリやり、節税対策も万全で確定申告をしている社員ばかりだろう。残念ながら僕のこれまでの会社員人生はそのルートからはかなり遠いところを歩んできたのである。
 
現在、僕は毎年確定申告をしている。必要に迫られて数年前、はじめて税務署を訪れたときの驚きの光景を忘れられない。税務署には多種多様な人がいた。そのなかには、僕と同年代かつ会社を抜け出してきたような量販店で吊るしてある平凡なスーツを着た、どこから見ても、うだつのあがらない会社員が大勢いたのである。さすがに知り合いは見かけなかった。しかし、確定申告とは無関係・無関心を決め込んでいるように見えたかつての同僚たちのうち何人かは、おそらく、それぞれがお互いにニンジャのように正体を悟られないように確定申告をしていたにちがいない。そう確信させる光景が税務署にはあったのである。
 
つまるところ、かつての僕は確定申告に対して、煩わしい、面倒くさい、大金を稼ぐ(これは悪いことでないけれど)、悪徳税理士、確定申告をしないと罰せられます的な税務署の高圧的なメッセージ等々から、ポジティブな印象をもっておらず、そのために、できることなら会社員をやっているあいだは確定申告したくないという気持ちがあったのである。
 
しかし、先ほど少し触れたように現在の僕は毎年きっちりと確定申告をして納税している。会社員という立場は変わらないが、確定申告をする条件にはまってしまったのである。数年前から確定申告をしている。そのころから、会社員のかたわら、ウェブ・メディア向けの原稿を執筆したり、連載をもったり、書籍を出したり、といった書き仕事をはじめたのだ。
 
最初は副業をはじめるという認識はなかった。ブログを通じて僕に興味をもってくださった奇特なメディア関係者や出版社の編集者から声をかけられ、アルバイト感覚で始めた。遊びのつもりだった。本業が営業マンで、朝から晩まで営業という仕事を四半世紀続けてきて、「これ以上営業活動するのはマジで勘弁」という気分になっていたので、書き仕事方面では絶対に営業はしないという決意のもと、これまでいっさいの営業活動はおこなってこなかった。
 
それでも、おかげさまで毎月原稿を書く仕事が切れたことはない。また、書籍を出版することもできた。本当にありがたい。それにともなって、僕の口座には会社からの給与以外に、原稿料や印税というお金が入ってくることになり、その額がまあまあ大きなものであるために、あれだけ他人事と決め込んでいた確定申告との付き合いがはじまったのである。長々と書いてきたがこれが僕と確定申告とのなれそめである。
 
2.確定申告から逃げられなくなった。
 
このように、確定申告とは縁がないと思っていた平凡な会社員の僕が確定申告と関わるようになったのは、声をかけられて書き仕事(執筆業)をはじめて、副収入を得るようになったことがきっかけである。自分から副業に向けて積極的に動いていないことが、一般的な副業で稼いでいる人とは違った。意識が低かったため、確定申告を忘れて大変なことになったかもしれない。そういう事態を回避したのはただただ幸運だったにすぎない。当時はちょうどネット副業が流行りだした時期だった。インターネットやSNSで、「注意!こういうケースに該当する人は会社員でも確定申告をする必要があります。もししなければ追徴課税も…」という記事を頻繁に目にするようになったからである。おそらく、その手の記事を書いていた人はその手の記事で収入を得ていたのだと思われるが、それを目にして、自分が該当することに気が付いたのである。
 
もともと「確定申告は損をする」という固定概念があった。確定申告をせずに脱税をする人が跡を絶たないことが、その思いを強いものにしていた。だが、いろいろ調べてみると、確定申告は損をするばかりではなく、得をすることもあるらしいことがわかった。損得というよりは、払いすぎていた税金が適正になってその分が戻ってくるケースがあるらしいのだ。得をするならやってみようとアクションをはじめるのが小市民の悲しみにあふれている。また、副業イコール強制的に確定申告ではないこともわかった。ざっくり説明すると僕のような会社員の場合、本業の給与所得以外に、副業で年20万円以上の収入があると、確定申告の必要性があるということだった。
 
恥ずかしいことに、副業でいくら収入があったのか、当時、僕はまったく把握していなかった。「どれだけ意識が低いのだ!」という批難されても仕方がない。口座残高を見て「お金が入ってきているなー」くらいの金銭感覚だったのだ。言い訳になるが、奥様にお金を管理されており、副業で稼いだお金であっても自分の自由には使えなかったのだ。自分のお金でないお金の出入金をチェックする気にはならなかった。
 
そういった哀しい実態があったため、実際に副業でどれだけの入金があったのか、正確に把握していなかったのである。余談だが、僕は10年以上給与明細をまともに見ていない。自分で使えないお金の額を見ても哀しくなるからである。
 
確認したら、年20万円というラインは、書き仕事をはじめてから数か月のうちに単月でクリアしていた。原稿料については各クライアントとの守秘義務があるので明かせないが、これまでもっとも多かった月で連載とスポット、記名無記名の記事執筆で5~6件の原稿料をいただいていて、まあまあな金額を記録していた。それに書籍の印税が加わるのだ。相応の額になっていた。
 
しかし、副業というよりはアルバイト感覚で取組んでいたために、仕事を受ける際の条件の確認を怠っていたため。実際に確定申告の手続きをする際に少々苦労することになった。それについては次の章でお話したいと思う。
 
確定申告が面倒くさそうという理由で副業をしない理由はない。僕個人の経験からいえば、副業は、受ける仕事の量をコントロールさえできれば、余裕で両立できるのでおすすめである。不快な思いをしたこともない。書き仕事では、源泉徴収票を送ってもらえれば、確定申告は余裕だ。もっとも現在は、僕がはじめた数年前のようには、執筆業では稼げなくなっているので(僕は幸運だった)、小遣い稼ぎ程度に考えたほうがよさそうではある。
 
そういえば1件だけ少し不快なことがあった。いきなりメールで原稿依頼を送ってきて、たいしたやり取りもなく、強引に連載を開始されたウェブ・メディアがあった。数か月間、隔週連載のタイトな〆切に悲鳴をあげながら耐えていたが、突然、経営不振のためという理由で一方的に連載は終了させられた。お金がないなら仕方がないと諦めたが、同メディアの連載陣で切られたのは僕だけであった。このような強引な依頼があったら、注意してもらいたい。なお、そのメディアに対する恨みはまったくない。大手広告代理出身者は信用しないほうがよいという学びを得られてよかったとさえ思っている。1時間ほど地獄に落ちてくれればそれでいい。まったく問題ない。
 
3.初めての確定申告に苦しんだのは、準備がなかったから。
 
初めての確定申告に臨むにあたって、ソフトや他者の力を借りずに完全に自力でやることにした。前の章で述べたとおり、確定申告について自分で調べてみて、独力で出来ると判断したのだ。理由は2つ。ひとつは、大きな金額や多くの顧客を相手にしていないミニマムな副業であったこと。そして、税理士に頼んだり、高価なソフトを入れたりするなどして、確定申告にお金をかけてしまっては副業で稼いだお金がもったいないという貧乏性がうずきはじめたからである。
 
もうひとつは、自力でやっている先輩たちの体験記はいくらでもネットで見つかったのでそれを参考にすれば出来るという謎の自信が身についていたのである。これは大きな間違いであった。自力でサクサク確定申告ができているパイセンたちは、備えてきた人たちであった。はじめて確定申告に臨んだときの僕はといえば、これまでお話してきたように、知識も準備も不足していた。
 
副業での収入が年間でどれくらいあるのかを調べることになった。それを踏まえて、確定申告をするためには、お金の流れを把握するために、どこから、どのような名目で支払われたのか明らかにする必要があったからだ。まず、毎月振り込まれていた原稿料の詳細を残高でチェックしてみた。
 
おかしい。見覚えのある依頼主から入金されている金額が、覚えのない金額だったのだ。たとえば「39916円」という入金額。意味がわからなかった。仕事を受けるときに、1円の単位まで決められた細かい金額提示があったら突っ込みを入れている。実際に契約が締結する際の話し合いでは、〇万円、〇千円という金額で受けていた記憶があった。
 
とりあえずエクセルで簡単な表をつくって、顧客名、振り込まれた日、入金額を入力していった。どの顧客からの入金も1円単位の細かい額だったので、そういう業界のルールなのだな、と無理やり納得して次の作業へ移ることにした。家族全員B型という典型的なB型人間の考え方である。
 
「副業でつかった経費をまとめよう」という情報から、経費として落とせば所得が少なくなり、納税額が少なくなるという知見を得たので、副業でかかった経費を計上してみることにした。古いドラマや映画などで、登場人物が確定申告の際にレシートや領収書を血眼になって探しているシーンを観た記憶があるが、納税額にかかわるから必死だったのだな、と理解した。その流れで、書き仕事にかかる、取材でつかった費用や、事務用品が経費として認められると知った。「経費!おそろしい子!」と喜ぶのも束の間で、確定申告というものを意識せずに過ごしてきたため、経費の証明となるレシートや領収書の類は一切残っていなかった。こうして初めての確定申告における経費はゼロという最悪な事態に陥ったのである。経費!おそろしい子!
 
経費がゼロであるなら、せめて副業で稼いだ金額だけでも把握しようと心に誓い、見て見ぬふりをしてきた謎の細かい入金額と正面から対峙することにした。経費がない哀しみを力にかえたのだ。
 
原稿料4万円の仕事で入金されたのが39,916円であった。調べると源泉徴収されていた。源泉徴収とは、支払い時に税金を差っ引いておきます、という仕組みである。支払われた側を信用していない仕組みともいえる。すぐに、所得税と復興特別所得税として40,000円×10.21%、4084円が引かれていることに気が付いた。
 
40,000円から4,084円を引いてみた。35,916円である。39,916円にはならない。意味がわからない。落ち着いて考えれば簡単なことであった。消費税である。40,000円に対して10%の消費税、4,000円を組み込めば謎の金額の謎はすっかり解けるのである。
 
4084円(源泉徴収 所得税+復興特別所得税)
40000円×10.21%=4084円
40000円+4000円‐4084円=39916円
 
この公式に当てはめれば別の金額の原稿料の謎も解けた。これらをおじさんらしくエクセルのシートに入力して印刷して自分なりの資料とした。いざ、確定申告の段階となった。繰り返してきたように確定申告に対して無頓着であった僕は、ネットで申告できる環境を整えていなかったので、必然的に管轄税務署に足を運ぶ必要があった。会社や副業のクライアントから送られてきた所得の証明書と、自分なりにまとめた資料を持参して地元の税務署へ行って、絶望した。軽い気持ちで飛び込んではいけない場所だと悟った。
 
税務署には多くの人がいた。特設コーナーを増設していたがさばけない人の数である。「確定申告コーナーはこちら」と書かれていた列に仕方なく並ぶがなかなか進まない。確定申告の時期は冬である。寒さに耐えなければならない過酷な競争がそこにはあったのである。遅々として進まない行列に並びながら、次回からは必ずEタックスで申告しようと心に誓った。
 
まず1時間以上2時間近くは待ったのではないか。待っている間にゲームをやっていたがスマホの電池が切れた。虚無の時間を耐えぬいて、確定申告コーナーに辿りついた。最初に説明を受けてから、また少し待って、順番が来たら仕切られたブースに入って、PCで申告書類を作成する流れになっていた。ブースにはジャンパーを着たヘルプの職員がひとり付いて、その方の指示に従って入力していくだけである。
 
持参してきた資料をもとに入力すればいいので簡単に出来た。「経費はありますか?」訊かれたので「レシートと領収書がありませんでした」と答えたときの、ヘルプ職員の悲しげな表情が忘れられない。だが、まだ終わりではなかった。そこで出力された書類を持って、また少し虚無の顔で待ち、次の申告コーナーで出力した書類を提出して、そこで手続きをして、振込票をもらって納期限を告げられた。税務署に着いてから納期限を告げられるまで3時間超。これが僕の初めての確定申告である。「疲れた」のひとことに尽きる。
 
4 確定申告は簡単にするのは準備次第である。

はじめての確定申告から毎年確定申告をし続けている。初回の反省をもとに確定申告の準備を整えているため苦労することもなくなり、Eタックスで自宅から申告するようにしたので、寒空の下、行列に並ぶこともなくなった。
 
副業=書き仕事も変わらずに続けている。変わったのは、書籍を執筆していただく印税の割合が増えたくらいだろうか。副業を受けるときの条件もしっかりとチェックするようにした。口約束はやめて、書類でもらえるものは書類にしてもらっている。また経費で落とせそうなものはきちんと記録し、レシート等もきっちりと残している。
 
僕は初めての確定申告で思わぬ苦戦を強いられた。税務署の行列の圧と混雑は、確定申告アレルギーが出てもおかしくないレベルである。それでも僕は、小規模の副業なら、確定申告は他者に頼らずに自力でやるべきだと思う。苦労をしろとはいわない。確定申告は準備さえ整えれば難しくないし、税金の流れを知っておいても損はしないからだ。
 
片手間でもできる。片手間でもできるような準備さえしておけば確定申告は余裕だ。副業にかかる収入の出入金や経費の管理さえやっておけばいい。ソフトを使えば本当に楽勝。確定申告は難しくない。初回の僕のように甘く考えなければまったく問題ない。完全に自力でやろうとせずに、有識者の話を聞いたり、ソフトを活用したりするなどして、時間と労力とお金を無駄にしないようにしてください。僕からは以上です。

 

冒頭で告白したとおり、今回の記事はAdobe社のPR記事である。
よってここからは、「Adobe Acrobat オンラインツール」について解説しておく。
なんと、このAcrobat オンラインツール、まさに確定申告に悩める人の救世主となりうるツールである。


Acrobat オンラインツールは、ビジネスマンなら誰もが使っているであろうPDF作成ツール Acrobatのオンライン版だ。確定申告をする人の中には、領収書をPDF化して管理する人が多いと聞く。ただ、領収書のPDFが増えすぎると、管理するのも一苦労だ。そこでオススメしたいのが、Acrobat オンラインツールなのだ。


Acrobat オンラインツールを使えば、オンライン上で、複数のPDFをひとつにまとめられる。さらには、WordやExcelといった書類も、すべてPDFに変換して保存できる
それ以外にも、さまざまな機能がオンラインで使える。機能を説明し始めると、さらに3万字くらい書くことになってしまう。なので、Acrobatにオンライン版があるとは知らなかった、という人はぜひサイトにアクセスしてみてほしい。こういった文明の利器を活用して、確定申告を楽にしてもらいたい。以上。

同僚および部下に対してカスハラを繰り返す顧客を契約解除してきた。

とある法人との契約解除交渉を任された。僕の務めている会社は食品系である法人にサービスを提供することが決まっていたが、諸々の事情によって事業継続が困難と会社上層部が判断したのである。「営業が取ってきた契約だから、契約を解除するのも営業」というのが事業の運営部門の言い分であった。「あなたたちは仕事を持ってくることも、続けることもできず、あまつさえ仕事を打ち切ることもできない無能なんですねー」と言いたくなる気持ちを抑えたのは社長直々の指名だったからである。「白羽の矢が立った」と表現すれば綺麗だが、北斗神拳奥義の一つ、人差し指と中指で挟んで受け止める「二指真空把」をキメなければ眉間に白羽の矢が刺さって失脚不可避のピンチなのであった。

カスハラ モンスター化する「お客様」たち

プロローグ

【登場人物】 僕(営業部門責任者)、弊社担当者(運営部門)、クライアント1号(法人理事長)、クライアント2号、その他弊社現場スタッフ。

契約日は昨年末、事業開始は今春を予定して進めていたが、準備段階で弊社担当者が先方法人とのあいだで解決の見通しの立たない問題を抱えたのが、ことのはじまりであった。

問題とは顧客による弊社担当者に対するカスタマーハラスメント等々。ハラスメントをおこなっていた顧客は社会福祉法人の代表者(理事長)とその娘(実質的法人トップ)だ。問題の根底には顧客からみて事業開始準備が遅れていることに対する不満があった。それに対し、弊社担当者から「準備は順調に進んでいる」旨を繰り返し伝えていたのだが、それに対して「必死になって繰り返し説明してくるところが怪しい」という謎理論を振りかざしてきていた。

それでも1月中旬の運営部門からの報告は「当該法人は少々口うるさいが大きな問題はない」だった。よくある、少し面倒なクライアントという認識だった。実際この程度の事態は僕らの業界では日常茶飯事なのだ。実は、契約締結までの営業段階で、少し気になった点が2点ほどあった(昨年報告済)。ひとつは、提供する商品の試食プレゼンをレンタルキッチンでおこなった際、理事長と娘は約束の時間から1時間ほど遅刻したにもかかわらず一言も詫びがなかったこと。残るひとつは、商談の際に(商談とは直接関係のない)取引業者の文句を続けていたこと。

これらは契約前にも上に懸念事項として報告してあったが、前述のとおり、よくある「少し面倒なクライアント」という認識であり、また、予想される売上がまあまあ大きいものだったので、商談を中止するという判断には至らなかった。今となっては、この判断が間違っていたといえる。なお、この時点で僕はこの件の処理には関与していない。

黎明編

【登場人物】 僕(営業部門責任者)、運営部門責任者、弊社担当者1号、弊社担当者2号、クライアント1号(法人理事長)、クライアント2号、クライアント紹介マン、その他弊社現場スタッフ。

事態が動いたのは1月中旬であった。まず打合せの席で弊社担当者に対して理事長が突然声を荒げて叱責をはじめたのだ。同席していた同僚からの報告によれば前兆なく、事業開始準備の遅れに対する不満が爆発して担当者に詰め寄り、回答に不満があったのか、「ウチの法人を破壊しにきたのか!」と声をあげ、説明を試みれば「話に割り込んでくるなー」とえらい剣幕だったとのこと。

この事態が社内で共有されたのは翌日の夕方である。現場にいたメンバー内は内部で処理できると踏んで報告を怠ったのだ。叱責された担当者が叱責は相手の気まぐれと認識していたことも報告の遅れにつながっていた。

社内で共有されたきっかけは、問題の理事長からの1本の電話であった。昨日対応した弊社担当者の交代を要求してきたのだ。さすがに、現場にいたメンバーでは処理できず、運営部門の責任者に報告された。この時点で部長以上のレベルで情報が共有された。運営部門の責任者が電話で対応し、担当者交代やむなし、と判断が下された。

また、この際に、法人側から現場スタッフとして面接をするよう人材を紹介されていたことが明らかになった(クライアント紹介マン)。その紹介人材の面接が遅れていたことも理事長の怒りの要因と推測された。なお、担当者に確認したところ紹介人材自身の都合で面接が延期になったことが判明している。理事長(クライアント1号)と娘(クライアント2号)は「紹介するだけであり、採用するかどうかは貴社の判断にまかせる」と言っていたらしい。

運営部門内での検討のうえ、弊社担当者を変更することが決まった(担当者1号→担当者2号)。社内決裁を光の速さで通し、運営責任者は万全を帰して自ら先方に伺って事態の把握と担当者2号の紹介をすることになった。運営責任者は「営業がもってきた問題を俺が見事に解決してやるよ」と僕に豪語していた。なお、この時点で報告を受け状況は把握していたものの、僕はこの件に関与していない。

激闘編

【登場人物】 僕(営業部門責任者)、運営部門責任者、弊社担当者2号、弊社人事課採用担当、クライアント1号(法人理事長)、クライアント2号、クライアント紹介マン、その他弊社現場スタッフ。

翌日、運営部門責任者が担当者2号を連れて先方へ出かけた。事業開始前、ほぼ仕事をしていない状態での担当者交代は異例中の異例であったが、「迅速な対応をすることで事態の沈静化がはかれるなら」という運営部門内での見込みがあった。

数時間後、運営部門の責任者と担当者2号が帰ってきた。想定外の事態が起こっていた。二人は約束の時間に現場に到着、会議室に通された。そこで理事長(クライアント1号)にこれまでの経緯を説明したうえで、担当者交代を申し出る腹積もりであった。

ところがである。責任者が説明をはじめた途端、クライアント1号は「なんだその態度は!」「マスクの上からでも笑っているのが見えるぞ」と千里眼能力を発揮して激しい口調で叱責をはじめたらしい。責任者は冷静に伝達事項を伝えたが、クライアント1号はあげ足を取るかのように、「あなたの話は信用できない」「こちらの要望は通るのか!」と叱責を続けた。ところどころ「バカ」「馬鹿者」「へらへらしやがって」という罵声も入ったらしいが同席していないのでどのような入り方だったのかはわからない。運営部門の責任者は僕からみても嫌味な人間でやられてもザマーミロという感じであったが、同席していた担当者2号の証言があるため、彼に落ち度はないことが証明されてしまった。残念だ。

担当者2号からは個人的に「いきなり上司が、相手がいくら客でも、怒鳴られたらいい気分はしないですよ」という話を聞いた。確かにそのとおりである。向こうの要望通り担当者を即日交代したのに激おこプンプン丸ではどうすればよいだろうか。運営部門責任者はショックを受けているとのことであった。情けないといえば情けない。

話は続く。その理事長激おこぷんぷん丸の翌日、紹介された人材の面接が行われた。結果は総合的に判断してのお断りであった。弊社の採用基準を満たしていなかったが、何よりも、本人の希望する待遇と提示した条件に乖離があったため、面接の席で本人から辞退の申し入れがあり、履歴書経歴書も本人が引き上げたのだ。つまり、面接辞退として処理されたのだ。このクライアント紹介マンは態度もよろしくなかったという報告も受けている。

なお、面接をした担当者2号と人事課採用担当は現地を離れる際に、理事長とその娘が事務所で面接を辞退したばかりの紹介マンと談笑する摩訶不思議な光景を目撃していた。一方、この日、理事長から「契約条件について再度打合せをしたい」という申し出を受けた。ようやくこの時点で僕は当該案件に関わることになったのである。

怒涛編

【登場人物】 僕(営業部門責任者)、担当営業部下氏、クライアント1号(法人理事長)、クライアント2号、クライアント紹介マン

ここからは僕が参戦したので描写がしつこくなる。

理事長ことクライアント1号から電話で一方的に伝えられた契約上の懸念について検討してから約束の時間にあわせて向かった。そもそも双方合意のうえで契約締結をしていたので、電話で一方的に喋っていた「申し訳ないが見落としがあった」「ウチの法人が一方的に不利な条件を押し付けられている」という理屈は通らない(いうまでもないが同様の事案とほぼ同条件なので一方的に不利であるはずがない)。現地には僕と当該法人担当営業部下氏を連れていった。なお、部下氏は雰囲気に飲み込まれて発言はほぼゼロ。よって、この文章においては終盤まで存在を忘れてもらってもかまわない。

交渉の席には理事長と娘(クライアント1号、2号)がついた。僕が挨拶をして契約条件の確認と説明をはじめようとすると、クライアント2号が「ちょっとちょっと」と話を遮り、「なんでニヤニヤ笑っているの!」と恫喝まがいの先制攻撃をしてきた。なお、クライアント2号と僕は初対面である。MK5(マジで顔を合わせてから5分しか経ってねえ)である。

「笑っていませんよ。説明しているのです」「笑っているでしょ。それにニヤニヤするような場面じゃないでしょう。準備が遅れているのに」親子で透視能力をお持ちのようだ。超能力は遺伝するのか。「安心してください。準備は予定通りに進んでいます。それに笑っていません」「わたしが笑っているように見えれば笑っているということなの!」クライアント2号はめちゃくちゃなことを言った。親の顔が見てみたいものだ。きっと馬面でハゲにちがいない。

僕が契約上の懸念を解消するために説明をしはじめると、今度は親であるクライアント1号が「契約のことは後にして、私たちが紹介した人を面接で落としたそうじゃないか。その件について説明があってしかるべきだろう。バカもの!」と話を遮る。続いて娘であるクライアント2号が「紹介した人の熱意がわかっていないみたいなのよね。どうなの?経験も人柄も問題ないでしょう」と立て続けに言ってくるので「ちょっと待ってください」と制して(クライアント2号からは舌打ちが聞こえた)「採用担当からはあの方から辞退してきたという報告を受けていますが」と反論した。するとクライアント2号は「私たちは御社から非礼を受けたうえで落とされたと聞いています!」と言い切った。その場で落選通知なんかしないっつーの。

「冷静になってもらえますか。あの方は面接書類を持ち去って面接辞退で終わってますから」と言っても「あの人の面接書類は私預かりとなっております。まだ結果はまだ出ておりません」などと意味不明なことを言う。「あの方を採用しろ、ということでしょうか」と訊ねると「いいえ。あなたたちの判断で積極的に採用しなければダメでしょうという話です」とクライアント2号は言った。意味がわからないので「2点質問させてください。なぜそこまであの人を買うのか、その理由はなんですか。そして、紹介はするけれど採用するかどうかの判断は一任するという話ではなかったですか」と言葉をぶつけた。クライアント2号は、はああー、本当にー、と溜息をついてから「あの人を推薦するのは、熱意がすごいからです。その熱意に答えなければならないと思ったからです。そういうと私が暴走しているみたいな話になっちゃうけどちがいますからね。私と理事長だけではなく、あの人を雇用してほしいというのは、この法人で働いている全員の総意ですから」と言いきった。

総意じゃなくて相違じゃね?と思いつつ、2番目の問いに対する答えを求めて父であるクライアント1号に話を振る。クライアント1号は「確かに紹介はするけれど採用は任せる、と言った。言ったが、相手がそういってもその裏にある真意をくみとって採用してくれなきゃ。相手がこういったから望み通りやりましたーはバカのやる仕事だろ。バカの。あの人を断ったら我々に泥を塗るってことを想像しないと」などとバカなことを言い始めるのでバカバカしくなって「ちょっと待ってください。あの人とはどれくらい深い関係があるのですか。参考までにおしえてください」と訊ねると、クライアント2号は「参考までに教えてあげますわ。あの人と私たちは3回しか会ったことがありません。でも3回合計40分話せば父と私も全部わかりますから」と説明してくれた。3回て。30分て。

「わかりました。そこまでおっしゃるなら私の裁量で面接をもう一度やりますか」と提案すると「それで採用になったら、あんたたちの会社の採用基準が不安定で信用にかけるということの証明になるわね」とクライアント2号は応じた。クレーマーすぎる。このカスハラ親子。娘ことクライアント2号は僕との応酬に疲れたのか、僕の傍らで石になっている部下氏に目を付けて「ただ座っているだけじゃなくてあんたもなんか言いなさいよ」と攻撃をはじめた。「私が対応しているからいいじゃないですか。あんたという呼び方はないでしょう」とフォローすると「座っているだけで給料がもらえるなんて会社員はいい身分よねー。私たちみたいな法人ではあなたみたいな黙っている人は勤まらない」などと攻撃を続けた。

「ですから」「あなたには聞いてません。答えられないの?話せないの?」というイライラするやりとりが続き、僕が視線を下に落とした瞬間にクライアント2号は「そうやって腕時計を確認していますけどね。こちらだって忙しい中時間を割いてきているんですからね」と激おこぷんぷん丸で言ってくるので手首を出して腕時計をしていないアッピールをすると、こんだあ、「話をしているさなかに腕時計を見るような素振りをすること自体が失礼なのよ!腕時計をつけているのと変わらないのよ。あなた仕事できないでしょ」と大声で失礼なことを言ってきたのである。きっつー。

時間にして3時間弱。このようなやりとりが続いた。落としどころを見つけられそうになかったので「この件は持ち帰って検討します」と申し出た。するとクライアント2号は「持ち帰って検討でもなんでもしなさいよ。言っておきますけどね。私たちとあなたたちでは立場が違うってことを理解しなさいね」とマウントを取ってくるので、一応、「そちら様が上ってことですよね」と確認したら「当たり前でしょ!」とブチ切れていた。大声で胸ポケに入れていたレコーダーが壊れていないことを願った。

解決編

【登場人物】 僕(営業部門責任者)、ボス(社長)、会社上層部一同、事業本部長、担当営業部下氏、運営部門責任者、クライアント1号(法人理事長)、クライアント2号、クライアント紹介マン

持ち帰った。会社に帰ったのが遅くなったので、翌日の午前に検討することになった。上層部一同と運営部門責任者は僕からの報告をきいて、そこから話をまとめるのが営業の仕事だ、などと言っていたが、ボスの「従業員を危険な目に遭わすわけにはいかない。契約を解除しよう。立場が違うって認識なら仕事にならないだろう」のひとことで、潮目が変わり、「お客様は神ではない」「カスハラ客には断固とした姿勢で臨もう」などと言い始めた。楽な商売である。そしてボスは僕に契約解除をするように命じた。

その日の午前に契約解除の申し入れをすることになった。理由は「人事採用をはじめとして弊社事業への過剰な介入」「弊社従業員に対する度を越した叱責恫喝=ハラスメント、クレーマー」、そして「立場の違い」発言である。

先方が多忙を極めるとおっしゃっていたのでまずは電話でその旨を伝えた。加えて契約は締結しているが履行日は本年4月1日からであること、訴訟ならばこちらも代理人を立てて対応することを告げた。するとクライアント1号こと理事長は「社長に代われ」と予想通りの反応を見せたので「この判断は社長の判断であり、この件に関しては私が一切を任されております」と対応した。「お引き取りを」

電話を切って、しばらくすると、着信。薄気味悪いくらいの優しい声で「4月まで時間がない。今、おたくに手を引かれたら困る。反省している。人事には介入しない。声もあらげない」などと言うので、直接会って引導を渡してやろ、という気分になり、「いちおう再検討します。結果は後ほど直接お話しいたします」といい、夕刻にアポを取った。

お目付け役の事業本部長と二人で法人本部に向かった。会議室で対応してくれたのは理事長ことクライアント1号ひとりであった。娘はカリカリして話にならない状態なのだろう。目の前で脳血管が切れても困るので良い対応である。長く話をするつもりはなかったので「結果から申し上げると、契約を解除させていただきます」と告げた。理由は人事採用および事業活動への過度の介入と、従業員に対するハラスメントである。これ以上は事業の継続は不可能だと判断した旨を伝えた。

 

「悪気があってやったわけじゃないんだ。つい感情的になってしまった。今後は改めるから考えなおしてくれないか」とクライアント1号。「悪気があったかどうかではありません。感情的になってしまうこともあるでしょう。ただ、そのあらわし方が目に余るものがあったということです。理事長から恫喝された従業員がこちらで担当として働くのは無理だと言っています」


「私だけが一方的に悪いのか」とクライアント1号。「もちろん弊社にも説明不足の面はあったかもしれません。完璧な仕事ができていたとはいえません。ただ、それを差し引いても理事長たちの対応は度がすぎるものだと判断しました」


「一回でレッドカード退場は厳しすぎるだろう。サッカーだってイエローカード2枚で退場だ」とクライアント1号。「1回なら厳しいですね。ですが、理事長たちからの恫喝・叱責を受けた回数は2回を越えています。それに野球なら危険球1で退場です」


「改善する。なんとかならないか」とクライアント1号。「なりません。よく考えてください。契約履行は4月からです。今はまだ事業の準備段階で私どもとしては1円もいただいていない状態で厳しい叱責をうけてきました。お金をいただくことになったら、求めるハードルが高くなって、より厳しい叱責をウチの従業員はうけるようになる。そう考えるのが自然だと判断しました」


「なんでそういうふうにとらえるんだ。最初はうまくいかなくてもスタートラインに立ってはじめてみれば良い方向に向かうものだろ。考え直してくれないか」とクライアント1号。「一般的にはそう考えますよね。ネガティブに考えているわけでもありません。貴法人とは同じスタートラインに立てない、と考えた結果です。先日娘さんが言ったとおりですよ」「なんて言った?」「お忘れですか?立場が違うとおっしゃりましたよ。上下関係だと私は確認しました。もちろん立場は違います。お金を出す側とサービスを提供する側にすぎません。これまでの経緯を考慮すると、同じ目線の立場に立つことは困難だと判断しただけです。なにより私は管理職として同僚や部下を守らなければなりません。以上です。手続きについては弊社法務部が担当いたします」

交渉は終わった。

「残念だよ。4月からどうすればいいのか頭が痛い」と理事長は言うので「そうですか?事前に合わないことがわかってよかったじゃないですか。私は残念だとは思いませんよ。理事長から怒鳴られて頭痛がしているスタッフもいますしね」と言い返しておいた。
夜遅くなったのでお目付け役の本部長からボスに報告を入れた。「社長がよくやったと言っていたぞ」「珍しいですね」「失う売上を取り返せとも言ってたぞ」「鬼ですね」

僕の経験だと、小規模の法人や親族経営の法人ではこの記事の理事長親子のようなモンスターが生まれがちである。なぜなら、外部の血が入らない(入りにくい)ために自浄作用が働かないためである。そのためよくわからない理屈が法人内でまかりとおってしまう。北朝鮮のようなものだ。とりわけ社会福祉法人や学校法人になると、福祉や教育というスパイスが加わるため、自尊心が爆裂し、モンスターが生まれる可能性が高いように思える。狭い世界で外界からの干渉を受けない(受けにくい)環境では、モンスターが純粋培養されやすいのだ。

1円にもならない仕事で、ノルマ達成には一ミリも寄与しない、本来の営業の仕事ではないけれど、カスハラに困っている同僚と部下を助けることができて良かった。訴訟にならなければよい。それだけだ。(所要時間113分)

26年の新規開拓営業経験を武器に6人のマンション営業を撃退した話

昨年の秋からしつこい油汚れのようなマンション営業を受けていたが、営業職26年の経験を活かして、ようやく撃退できたっぽいのでその話をしたい。

ことのはじまりは家族(奥様)からの「最近、ポストに新築マンションのチラシが入れられている」「夕方、マンションの営業が来るようになった」という報告であった。僕は現在、諸事情により賃貸マンションで暮らしている。40代。中間管理職。子供はいない。新築マンションの購買層としてロックオンされていたのだろう。奥様は営業に「平日の午後に来られても、主人はいない。我が家の決定権はぜんぶ主人にあるから主人がいるときに来なさい」と責任転嫁した。夕方、「相棒」の再放送を観るのに忙しいからといって僕に丸投げするのは酷い。実際のところ、僕は、歯磨き粉ひとつ買う際でも奥様の顔色をうかがっているからだ。「そんな決定権がお前にあるのか」と虚空に向かって叫びたい。もちろんこの「お前」は彼女を呼び捨てているのではなく、僕自身を指している。念のため。

第一使徒シンジン。

マンション営業がやってきた。土曜日の午後だ。顔の白い若者であった。「あの、実は、本日は、どこどこにマンションが建立されまして」という説明の拙さから、一瞬で、新人だとわかった。海沿いのナイスな立地に良い感じのマンションを建てたのでいかがっすか、という趣旨の話を、だらだら、ブツ切りで話す彼の姿に新人時代の自分を重ねてしまった。シンジンに「マンションを買うつもりはない」と言い切ってから、「リストを持たされて上からまわってこいといわれているのだね。僕も営業だからわかるよ。マンション買うつもりはないけどさ。商談をするときはまず名乗りなさい。上司からそう教わっているはずでしょ。そのとき相手の反応をみて名刺を出すなり、話を切り出すなり、打ち切るなり、判断して次のステップに進むこと。いっとくけどウチはノーチャンスだよ。見込みのあるターゲットに絞りなさい。とりあえず名刺はもらっておくから。今後キミは来なくて良い。リストにはバツ、見込みナシと書いておいて」とレクチャーをして差し上げた。

シンジンが、「パンフだけでも」というので「要らないけど消化しないと困るだろうから預かっておく」といって受け取り、「じゃあウチ以外への営業頑張って」といってドアを閉めた。奥様からは「なんで長々と話しているの。追い返せばいいじゃない」と文句を言われたが「武士の情けだよ」と弁解した。きっつー。
 

第二使徒パイセン。

翌週またマンション営業マンがやってきた。土曜日の午後だ。顔の黒い若者であった。「お休みのところ申し訳ありません」、最初に自己紹介をして名刺を出してきた。名刺にはシンジンと同じ会社名が記されていた。先週のシンジンは、僕の「今後キミは来なくて良い」という助言を間違った方向に解釈してその流れでパイセンが来たっぽい。マジか。その図太さをプラスにしてもらいたい。

パイセンは、海沿いのナイスな立地に良い感じのマンションを建てたのでいかがっすか、という趣旨の説明を流れるように行った。いかにも慣れた様子で業務的に話す姿が日焼けした顔面との相乗効果でちょっと嫌な感じを受けた。日焼けした顔面で、業務的・機械的に話す姿は受け手からはこう見えるのか、気を付けたいものだ。せめてもの救いは僕の顔色が青白いことだ。「先週もおたくの会社の別の営業マンが来たよ。ウチはマンションいらないからとはっきり伝えたけど」というとパイセンは「え。本当ですか?」と白々しい反応を見せた。営業マンとしてその図々しさはヨシである。「先週きた人には言ったけれど、ウチは見込みなしだから。ウチで時間を潰しているくらいなら他を当たったほうがいい。僕も営業の仕事をしているけど見込みのない相手に時間を使うほど無駄なことはないですよ」「確かにそうですね。でも少し時間をいただけないでしょうか」こいつ人の話聴いているのか。「でもではなくて何もマンション買わないから」「買わなくてもいいから一度モデルルームに来てもらえませんか」「買わなくていいならモデルルーム行く理由がないでしょ。とにかく終わり。おたくの会社は新規開発の情報共有をもう少しやったほうがいい。さもないと、潜在的な顧客を失うよ。少なくとも断られたら、時間をあけてからアタックしないよ」

パイセンは、一度モデルルームを!と死ぬまで繰り返しそうな勢いだったので、「ごめん、鍋に火をかけているから、ここで」と言ってドアを閉めた。奥様からは「同じ営業であることで親近感を持たれちゃったんじゃないの」と文句を言われたが「同じ穴のムジナだよ」と言うしかなかった。きっつー。

第三使徒レディ。 

第三使途レディが襲来したのは次の週末、土曜の午後だ。あらわれたのはスーツをパリっと着こなした営業レディであった。推定20代。シンジン、パイセンの2連戦で消耗したので、インターフォーンが鳴っても無視をすると心に決めていた。決意を翻したのは、モニターに映し出されたのが若い女性レディの顔面だったからである。営業26年の僕が、哀しきオスの性を巧妙に衝いた、相手の作戦に屈したのである。

レディは、受け答えが上品であったので、前の二人とは別の会社と思いきや、名刺には見慣れた社名。お手本どおりの、海沿いのナイスな立地に良い感じのマンションを建てたのでいかがっすか、という口上を終えたレディは前の二人とは違う方向から仕掛けてきた。曰く、いつからここに在住なのか、いつまで住むつもりなのか、という僕の人生設計を確認したうえで、「月々支払っている家賃と大差ない金額でマンションが手に入るとしたらどうですか?」という魅惑的な言葉を投げかけてきたのである。営業でよくある言い回しであった。《同じ金額でこんなに良くなります》。この種のフレーズに弱い人はいる。都合のよい情報に限定するこの手のフレーズには相手を揺さぶる効果がある。だが、僕は営業マンだ。この手に引っかかるわけにはいかない。「金額だけじゃないから」「ここより駅までの距離が遠くなるのは選択肢として、ない」と僕が営業で断られるときに投げられてきた言葉をアレンジして応じた。

するとレディは、「湘南ていいですよねー」と切り出し、それから「湘南の海が見える環境で、慌ただしい日常を忘れたスローライフを送るの、いいですよえ」などとマネーの話から金以外の価値観・多様性な生き方に話題を変えた。シンジン、パイセンより確実にデキる。僕は「子供のころから毎日このあたりの海を見ているので特別な感情はないですよ僕は。会社員でかつかつの生活を送っているから、かえって、ぼーっと酒を飲みながら波をながめている人や、平日の午後にサーフボードを持って歩行している人を敵視しているんですよ僕は。憧れなんてないんですよ僕は」と答えた。レディはしぶとかった。「今回、ご紹介するマンションは、お客様のあらゆるライフスタイルにお応えできると思います。実際にモデルルームを御覧になっていただけませんか」と食い下がった。「うだつのあがらないサラリーマン・ライフだと諦めているから。申し訳ないけど」といって断った。ドアを閉めてから展示会パンフを持っていることに気が付いた。奥様からは「若い女の子に甘いのではないですか」と文句は言われた。「おっしゃる通りです」としか言えなかった。きっつー。
 

第四使徒スマイルと第五使徒メガネ

第四使徒スマイルと第五使徒メガネが襲来したのはレディ襲来の翌日、日曜の夕方だ。ピンポンの直後、モニターに映し出された薄気味悪い笑顔を浮かべた30代のスーツ姿の二人組の男を見たとき、正直に告白しよう、新しく興された宗的な教の勧誘を思い浮かべた。宗教勧誘担当は奥様なので、僕は奥様の必殺技「宗教の勧誘ですか。奇遇ですね。私も神です」の出番と判断し、彼女に対応をまかせた。「壺には壺作戦」発動である。僕は彼女の後ろで教団の幹部っぽい薄ら笑いを浮かべているだけでよい。気楽だ。ドアをあけて奥様が「神様なら間に合ってます」と二人組に告げたあと、奥様が僕を見て「主人が対応しますね」と言った。なんと勧誘ではなく例のマンション営業の新手であった。

「壺には壺作戦」は空振りに終わり、ロールプレイングゲームの前衛と後衛を変える要領で僕が前に出た。相手の前衛スマイルは営業職の人間によく見られる口角が上がりっぱなしの笑顔を見せる30代後半から40才の男性で、後衛メガネは前衛スマイルが話すたびに頷きを入れる重要な責務を任された30代前半の男性であった。二人は、これまで僕が打ち負かしてきた同僚たちと同様に、海沿いのナイスな立地に良い感じのマンションを建てたのでいかがっすか、という説明を繰り返した。僕も、御社の営業5人目ですよ、御社は引継ぎをしないのですか、買う気はない、とこれまでの主張を繰り返した。出方をうかがっていると「失礼しました。連絡不足が招いた事態です」とスマイルは謝った。後方でメガネも深々と頭を下げている。ちなみにスマイルは笑顔のままである。

これで終わった、と安堵していたら、スマイルがなおも話を続けようとしていた。「同じセールストークはいらないから」と遮るとスマイルは「同じ話はしません」と自信を持って言い、後ろでメガネがアホのように頷いている。その姿を見ているうちに話を遮られて哀しい気持ちになっている営業中の自分の姿が重なってしまって、気持ちとは逆に「少しだけならいいですよ」と言ってしまっていた。後ろから奥様の舌打ちが聞こえた。スマイルは水を得た魚のごとく話し出した。確かにこれまでとは戦略の違う攻め方であった。

スマイル「資産としてのマンションに興味はありませんか?」僕「ありません」スマイル「湘南エリアのマンションはこれからも価値が上がるといわれてます。資産として考えてみては?」僕「結構です。湘南エリアは今がマックスで後は落ちていく一方です」スマイル「失礼ですが、こちらの賃貸は月〇万くらいですか」僕「確かに失礼ですね。金額はビンゴ!よく調べられてますね。営業ならもう少しボカして話すか、ターゲットの口から話させるようにしないとダメだと思いますよ」スマイル「ありがとうございます」僕「褒めていません」スマイル「一度モデルルームに来ていただけませんか。損はさせませんから」僕「得もしませんよね。お話が終わったのでしたらお引き取りください。営業は大変ですよね。僕も同じ仕事をしているからわかります」

敗北を悟ったスマイルは後ろにいる奥様に声をかけた。「失礼いたしました。奥様も営業職ですか?」スマイルは嫌味のつもりだったのだろうけど奥様から「職業はインフルエンサーです」と言われて悲しげな表情を浮かべて帰っていった。メガネは最後までアホのように頷いていた。何しにきたのかわからず、かえって不気味だった。奥様からは「同じリングにあがってはダメ。適当にあしらいなさい」と指導された。僕は「営業はリングに乗っけないと経験値が稼げずに闇落ちするから」と弁解した。きっつー。

 最後のシ者、ジョーシ

第六使徒、最後のシ者、ジョーシの襲来は、一週間後の土曜の昼過ぎである。モニター越しに断るつもりであったが無視できなかった。そこに映し出された同世代の疲れ切った中年男の顔が自分そのものに見えたからである。もらった名刺には営業部部長とあった。これまでのメンバーの上司だと推測された。ラスボスだ。ちなみに奥様は対応する僕に呆れていた。

ジョーシが、自己紹介を済ませ、お約束の、海沿いのナイスな立地に良い感じのマンションを建てたのでいかがっすか、を述べたところで、「ハイ。わかりました。お疲れさまでした」と話を打ち切った。それから、僕も営業職だから大変なのはわかるけど、つって、おたくの会社から執拗に営業を受けていること、引っ越すつもりも資産にするつもりもないと繰り返し、繰り返し、繰り返し、説明してきたことを伝えたあとで「御社の営業部隊の教育はどうなっているのですか?」とたずねた。

ジョーシは「失礼しました。部下たちには失敗を恐れず積極的にいけと言ってます」と言った。部下たちはジョーシの言うことを守ってはいるらしい。「私も営業部門を預かっているからわかりますよ。マネジメントは難しいですよね」と同情してしまった。ジョーシは僕のその言葉で胸に飛び込んだものと錯覚して「先輩。そのとおりです」と調子に乗った。先輩?こいつのこの調子の良さがチーム全体に伝播しているのだと理解した。

「ではこのへんで」と話を打ち切ろうとするとジョーシは「先輩は何歳ですか?」と質問してきた。年齢を答えたら、ローンの提案をされると予測した。仮にそうなら、普段ならサバを読んで若く答えるところを、あえて正直に実年齢を答え「こいつ支払い能力ねえじゃん。対象外。部下たちにも『行くだけ無駄』といっとこ」と思ってもらえばよい。そう考えて正直に「48歳。来月49歳です」と答えた。ジョーシは、少し間を置き、何を言い出すかと思えば「やっぱり先輩じゃないですかー」と言ったのである。

「さっき先輩と言ってしまってから、もし後輩だったらどうしようと思っておりましたよー」だと。そこじゃねえ。貴兄がどうしようと悩まなければならないのは、ターゲットにならない相手に執拗に営業攻勢をかけていることではないの?「まあ、とにかく営業という仕事が報われないことが多くて大変なのはよーく知ってますから、頑張って」と終わらせようとすると、閉めかかったドアの隙間からジョーシが真顔になって「先輩。今です」というので気になって閉める力を緩めると、彼は「今です。今、頑張ってますから助けてください」と調子のいいことを言うので、そのまま僕はドアを閉めた。奥様からは「ラスボス、しょぼかったね」と評価された。僕には「上司ってのはつらいものなんだよ」と言うほかなかった。

このようにして僕は営業という仕事を26年やってきて得た経験を活かし、執拗かつ悪質なマンション営業を撃退することに成功したのである。厳しい戦いであったが、営業らしく対話で相手を撃退したことに今は満足している。営業の敵は営業なのである。なお、あれから一か月ほど経過したけれども、いっさいのマンション営業を受けていないのは奥様が買ってきた「セールスお断りステッカー」のおかげであって、僕の26年の営業経験は何の貢献もしていない。きっつー。(所要時間85分)

 

2022年に読んでよかった本 小説・新書篇

1年で区切る意味がよくわからないが挙げてみる。本はよく読む方だと思われる。専門書や雑誌が圧倒的に多い。確認したら小説や新書は計83冊しか読んでいなかった。しかも再読が多い。その中で読んでよかったものを列挙しておく。レビューはない。順位もない。得点や星もない(星3.5と4の差が説明できない)。僕が評価する点は、投じた金額より「満足したか否か」のみだ。だからベストもランキングもない(強いて1位をあげるならナボコフの『ディフェンス』)

ディフェンス (河出文庫)

というわけで、おなじ内容でも新刊と文庫では文庫のほうが安価なぶん評価は高めになり、無料で手に入れたものは高評価になる傾向がある。奥様がミーハーで売れている本を買ってきてくれるため、小説新書のベストセラーはだいたい目を通しているけれどここには挙げられていない。シンプルに奥様が購入した価格に見合わないものが多かったからだ。「こんなものを買う金があるならこづかいを増やしてくれ」と文句を言いたいくらいだ。なお、再読ものが多いのは評価が安定している証拠である。

田宮模型の仕事 (文春文庫)

ノースライト(新潮文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下合本版) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

オリーヴ・キタリッジ、ふたたび

極大射程(上) (扶桑社BOOKSミステリー)

黒き荒野の果て (ハーパーBOOKS)

星を継ぐもの 巨人たちの星シリーズ (創元SF文庫)

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍 (岩波新書)

アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風

祈りのカルテ (角川文庫)

ジャッカルの日 上 (角川文庫)

電気じかけのクジラは歌う (講談社文庫)

現代ロシアの軍事戦略 (ちくま新書)

長篠の四人 信長の難題 (毎日新聞出版)

ザ・フォックス (角川文庫)

重力ピエロ(新潮文庫)

拳闘士の休息 (河出文庫)

私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか? (NHK出版新書)

そして誰もいなくなった (クリスティー文庫)

サバイバー〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV)

殺しへのライン ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ (創元推理文庫)

なしくずしの死 上 (河出文庫)

ドライブイン探訪

一軍監督の仕事~育った彼らを勝たせたい~ (光文社新書)

シャドー81 (ハヤカワ文庫NV)

初秋 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

幻惑の死と使途 ILLUSION ACTS LIKE MAGIC S&Mシリーズ (講談社文庫)

ディフェンス (河出文庫)

レヴォリューション No.3 (角川文庫)

イニュニック 生命―アラスカの原野を旅する (新潮文庫)

郵便局 (光文社古典新訳文庫 K-Aフ 16-1)

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