Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

「らんま1/2」で学んだ中国語で中国系企業との商談に臨みました。

僕は、給食会社の営業部長、先月、部下に同行して北関東地方の某市まで赴いた。相手は地元企業をターゲットにしたお弁当屋のオーナーだ。オーナーは中国出身の女性で、弁当事業をはじめたものの、計画通りにいっていないため、日本人向けの日替わり弁当の献立作成とメニュー開発について当社に相談してきたのである。中国語の堪能な部下S山が担当として交渉を進めてきた。交渉が順調なので上司である僕と共に現地に赴いて、現場視察と面談をすることになった。非営業畑のS山はノルマの達成が厳しく、この案件に賭けるものがあるようで、行きの道中から血の気が引いていた。

S山情報によるとオーナーは日本語が上手くないらしい。テクノロジーは言語の壁を越えるのを容易にする。スマホの翻訳機能を使えばいい。しかしS山は「それでは血の通った話が出来ない」と主張して自ら通訳を買って出た。並々ならぬ決意を見せるS山に通訳を任せたものの、僕は「らんま1/2」で学んだ中国語で話に加わるつもりでいた。通じたら大歓喜!

まず僕が「お問い合わせ、ありがとうございます。改めてお問い合わせの経緯を教えていただけますか」と笑みを浮かべつつ言うと、S山が「ペラペラぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺらぺら!ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラ」と中国語に訳した。何を言っているのかまったくわからない。僕はS山が訳しているのに合わせて笑みを浮かべた。まるで自分が話しているように。時おり首を縦に振るなどする。馬鹿みたいだ。オーナーは、ほーん、と笑うと「ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラ!」と中国語で言った。S山が真剣な顔で二言ほど確認してから「こちらこそありがとうございます。ネットで見ました、だそうです」と訳した。短すぎやしないかジャパニーズ。日本語に訳すとシンプルになるものなのか。

僕はまた笑みを浮かべて「では、あなたが今抱えている問題とご要望を教えてくれませんか」と通訳者に気をつかって短く言った。S山は、僕の意を汲み取って鋭く頷くと「ペラペラぺ」と中国語訳した。短っ。意を汲みすぎて肝心な点を削除しているのではないか。そんな僕の懸念をよそにオーナーは我愛你的な微笑をたたえると「ペラペラペラペラペラペ」と短く答え、S山が「メニューが中華料理に偏ってしまっているため、日替わりのメニューとレシピ開発をお願いしたいそうです。価格帯は800円から1000円を考えているそうです。それから調理師は中華料理専門なので日本の定番料理のコーチもしてもらえると助かります。だそうです」と訳した。今度はずいぶんと短いセンテンスに多くの意味が入っていた。

中国語の圧倒的な実力に圧倒された僕はまたまた笑みを浮かべ「当社ならその問題の解決とご要望に応えられると思います」とS山に訳すよう促すと彼は白い顔で「ペラペラペラペラペラペラペラペラ」と訳しはじめ、そこで僕の顔面に目線を向けてオーナーの目線を僕の顔面に誘導してから、はっはっは!と笑った。オーナーも手で口もとを隠しておっほっほ!と笑った。僕も事情がわからないまま、事情がわかっていないと悟られぬよう、いい感じに進んでいるポジティブ感を前面に出して、オ〜ケ〜とアメリカン風に手を叩いて笑った。するとS山が「ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラ」と残りを中国語訳した。オーナーはしばらく沈思してから「ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラホント二ゴメンナサイネ」と答えて手を合わせて頭を下げた。神妙な表情を浮かべている。これはどういうこと……と戸惑っているとS山が「前向きに検討します。後日連絡します、だそうです」と訳した。短い。あと表情から前向き感が伝わってこない。あとホント二ゴメンナサイネはいずこ。いくつもの疑念が渦巻いていたがS山を信じるしかない。数年間中国本土で暮らしていたS山の中国語は本物だ。顔もジャッキーチェンに似ている。

僕は「良い連絡を待ってます」と言った。すかさずS山が「ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラシェイシェイ」と中国語に変換。長すぎやしないか。それに対してオーナーは「ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラホント二ゴメンナサイ」と言い、「良い商談が出来て良かった、と仰ってます」とS山が訳す。だからオーナーの言葉が短くなりすぎなんですけど、ホント二ゴメンナサイが行方不明で気になるのですけど、と言いたい気持ちをその場はこらえて僕たちは商談を終えたのである。

帰路、S山に疑問をぶつけた。きちんと僕とオーナーの話を訳していたのか?ホント二ゴメンナサイはどこへ?なんか僕の話が短くなりすぎでは?まるでプロスポーツの外国人選手がヒーローインタビューでたくさん話したあとで通訳が「明日も応援よろしく」とひとことでまとめたみたいだぞ、と。問い詰めると今回の面談の前のメールと電話のやりとりですでに商談は暗礁に乗り上げて破談待ったなしだったが、このままでは自分の責任にされてしまう、それならば商談の席に中国語の分からない上司を連れて行き、そこで商談が不調に終わったように誤魔化せば破談の責任を二人でシェアできると考えたそうである。なんたる悲劇。途中で僕に目線を向けて笑っていたやりとりについて追及したが誤魔化された。おそらくウチの上司は中国語がわかりませんからーと馬鹿にしていたのだろう。部下の涙ぐましい努力に免じて許そう……という気持ちはいっさいない。責任とるよろし。(所要時間25分)給食会社の営業の最前線の話はこのエッセイに収録されています。

超一流クライアントから解約通知を受けました……。

先日、超一流クライアントから給食委託契約(社員食堂)の契約解除を通知された。メールか封書で通知してくれればいいのだが、対面で直接伝えたいと一流の心遣いをしてくださったので一級建築士設計の一流の作りのビルで会うことになった。なお当社上層部は同行を拒否した。嫌な話は聞きたくないそうです。二流だ。

一流ブランドのスーツを着た担当者からあらためて説明を受けた。説明をされても解約は解約である。話を聞いて「そうですか」と肩を落とした。同行した部下は沈痛な表情を浮かべていた。当該部下は一流沈痛マン。沈痛な表情に定評があるので連れてきたのである。重苦しいムードを作り上げてくれる当社の切り札だ。「何とかなりませんか」とあがいてみた。担当者は「解約条項に則った解約です。決定事項です」と冷たく言い放った。隙のない一流の回答。次の業者は決まっていて、すでに裏では動いているという話だった。一流は裏工作も一流だ。「わかりました」僕はため息をついた。一流のため息に見えていただろうか。

その超一流クライアントとの付き合いは苦労の連続だった。要求は高く、無理難題も多かった。それでも二流企業な〜り〜に〜精一杯応えてきたつもりだ。こちらからも、昨年から、昨今の社会情勢に合わせて値上げの申請もしてきた。収益が出なければビジネスとして成立しない。だが相手は超一流。喪失したら大きい。だからギリギリに収益が見込めるラインの数字でお願いした。しかしこれらのお願いは受け入れられなかった。「当社も苦しいんですよ」と担当者は説明した。春闘で当該超一流クライアントの賃上げ満額回答が報道されていた。超一流クライアントが販売する商品への価格転嫁、大幅な価格アップも発表された。こういうムーブができるから一流なのだ。

「長い間ありがとうございました。お世話になりました」という担当者の言葉を聞いて僕はなんとなくその一言で報われた気分になった。それからこの事業がなくなることによって失うものを考え、それから呆気なさに拍子抜けした。でもこれでいいのだ。しょせんビジネス。金の切れ目が縁の切れ目。僕が感傷に浸っている一方で担当者は一流らしく淡々と事務的な連絡をした。撤退へのスケジュールだ。既に決められていて、こちらは首を縦に振るしかなかった。意見も求められなかった。「既決事項です。従ってください。お願いします」それだけだった。一流の仕事だ。

僕は現場で働くスタッフの顔や声が浮かんできて、なんとも言えない気持ちになり、胃の底から出てくるものを抑えるのに必死だった。半沢直樹なら倍返しをしているところだろう。でも、解約の倍返しってなんだろう?解約の解約?つまり成約。二流の僕にはわからない。沈痛一流部下はただただ鎮痛な顔を食べていた。最後に「これで関係は終わってしまいますけれども今後とも何かありましたらよろしくお願いします」と担当者は言った。一流の気配りだ。何かありましたらの九割九分は何もなく終わることを僕は三十年間の会社員生活で知っている。

こうして一流クライアントとのラスト商談は終わった。沈痛部下と二人並んで肩を落として見送られるエレベーターの前で「別の形で何とかなりませんかね」と僕は駄目もとで懇願してみた。二流だ。「これで終わりです。御社にとって厳しい結果かもしれませんが、恨みっこなしです」と担当者は言った。それで終りだった。

一流の建物を出て僕と沈痛部下は肩を落としながら歩いた。お互い何も言わなかった。百メートルほど歩いてから角を曲がった瞬間「うまくいきましたね」「ワ〜ォ!」と二人でハイタッチした。無理に肩を落としていたので肩痛が悪化した。実は一年以上前から撤退を考えていたのだ。収支的に厳しく、要求が過大、そこに人的資源を集中させたいという経営方針も重なった。長年の契約関係の中で要求は高まる一方でこちらからの要望を受け入れられなかったので撤退はやむなしであったけれどもそれが出来なかった。

なぜなら相手が超一流企業で怖かったから。これまでの交渉で値上げやお願いをするたびに担当者から「オタクの取引先にも同じような要請をしているのか確認していい?」とか「業界内の会合で、御社の対応を話すこともできるんだけど」などと二流の脅迫めいた言葉を浴びせられた(実際にはされなかったけれども)ので、こちらから解約を申し出たら、一流の自尊心を傷つけられたと怒り狂って仕返しを喰らうのではないかと恐れたのだ。二流の中小企業は哀しいね。

そのため一年以上の時間をかけてこちらからの要求を伝え、受けれなくても執拗に伝え、また先方からの依頼についてもできないことはできないとはっきりと意思を伝えて、無理難題はスルーするなどして、一流ならではの自尊心を刺激して不満を募らせて、むこうから解約してくることを待ち構えていたのである。

当該超一流企業は本当にクソだった。他の部分では知らないが下請けにはクソだった。露骨に下に見る社風。不思議だ。元有名スポーツ選手を起用した企業イメージCⅯは清々しく、良い企業感を出しているのにね。一時期は担当者個人がクソ野郎だと思っていたけれども、数回変わった人事異動でやってくる担当者全員全員がクソ野郎だったので、社風が一流のクソなのだろう。下に見るだけならいいけど、「担当の女性栄養士を若い子に変えろ」「他の会社に切り替えちゃおっかなー」という担当者の発言は、冗談のつもりなのかもしれなかったけど冗談にしては二流だし、ハラスメントとしては一流だろう。

ナイス解約。こうやって相手に築かれないように相手を誘導して主導権を持たせつつ、こちらの思い通りに交渉をまとめるのはなかなか難しいものなのである(所要時間28分)悪戦苦闘の記録をまとめた戦記になります→

 

氷河期世代の僕から新社会人の皆さんへ(お祝いの言葉)

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新社会人の皆さん、おめでとうございます。怠惰で長すぎる学生生活を終え、いよいよ社会という舞台に立つ皆さんの姿を想像して、僕自身、新しい仲間を迎える喜びと、玉突きで追い出されるのではないかという不安で胸がいっぱいです。

かつてない人手不足、空前の売り手市場をたいした努力もせずに勝ち抜いた皆さんです。自信と期待に満ち溢れ、不安はないでしょう。思い通りにいかないこと、壁にぶつかることがあっても、皆さんは「ここではないどこかへ行けばいい」と気楽に考え、悩むこともせず、壁に登ろうともしないでしょう。だって他にいくらでも行く場所があるのですから。皆さんはそれくらい恵まれた世代なのです。うらやましいかぎりです。嘘でもいい、一度でもいい、失敗を恐れる姿を見せていただきたいものです。

さて、企業は(特に大手一流企業は)新社会人の皆さんを好待遇で迎えています。なかには初任給が40万円以上という人もいるでしょう。就職氷河期世代が10年かけて辿りついた給与水準に初日で辿り着いているのです。入社式を報じたニュースで「高い給与が入社理由でした」「この給料に見合う働きをしないと(笑)」とインタビューに応じる新社会人を目にしました。ここではっきりさせておきましょう。皆さんがその給与に見合っているわけがありません。コスパ最悪です。「優秀な人材確保のために給与設定を高くした」という採用担当者の言葉は建前です。「こんな高い給料は払いたくない。穴を埋めるためには仕方ない」が彼らの本音なのです。皆さんの価値や才能や評価が高いのではなく、社会が沈んでいるのです。難易度がベリーイージーになっているだけなのです。時代が異なれば、到底、超大手企業に入れないレベルの人でも超人材不足の状況ゆえに入ることが出来ているのです。くれぐれも才能や努力ではなくただただ時代と幸運に恵まれたことを忘れないでください。

これからの時代は、変化がますます加速していきます。私たち50代が若い頃には想像もできなかった技術や働き方が、今では当たり前になりました。そんな時代だからこそ、皆さんの柔軟な発想や吸収力が、組織にとって小さな力になります。自我や感情を抑えて、生成AIと対話しながら前に進んでください。

さて、ここまで厳しい話をしてきたのは、恵まれている皆さんに警告をするためです。良い話のあとには必ず悪い話が待っています。僕は子供の頃から絶好調の日本とノリノリの大人と社会を見てきました。自分もバブルでぴょんぴょんダンスする明るい未来を見ていました。

しかしバブルは弾け、就職する前後から就職氷河期がはじまりました。希望の仕事はおろか何十社にエントリーしても面接までたどりつけない時代でした。学生時代に学んだこと、リーダーシップ、積極性、ボランティア、目を引く履歴書の書き方、面接トーク。それらの武器は時代の前ではあまりにも無力でした。僕はたまたま落ちこぼれませんでしたが、当時、うまくいかなかった仲間は今でもその影響を受けています。「失われた30年」は僕の世代の社会人時代とほぼ一致します。何も悪いことはしていないのに「失われた30年」に押し込まれてしまったのです。

ですから、皆さんには警戒してもらいたいのです。最高に良い条件で社会に出た皆さんは、実力以上に高く持ち上げられている状態です。僕には皆さんが、あるきっかけで突き落とされてぐちゃぐちゃにされてしまう危うさを孕んでいるように見えるのです。AIやロボティクスにこれから最も仕事を奪われるのは社会に出たばかりの皆さんでしょう。おそらく想像できない困難が皆さんの前途で待っています。だからこそ「疑うこと」を忘れないでもらいたい。社会、会社、人間関係、仕事について「これは大丈夫なのか」と疑うことが、危険を回避する皆さんの武器になるはずです。皆さんを高く評価している先人を疑うことからまず始めましょう。

厳しいことを言ってしまいましたが、皆さんのこれからの社会人生活が、実り多く、誇りを持てるものになることを心から願っています。皆さんの納税が僕の年金生活を守ることに繋がるかぎりは全力で支えていきます。本当におめでとうございます。(所要時間22分)お仕事エッセイ本を書きました。→

給食営業マンがノロウイルス食中毒の本当の厄介さについて語ってみた。

大阪で大規模なノロウイルスの食中毒事案が起きた。

news.yahoo.co.jp

事件の詳細はリンク先その他を確認してもらいたい。被害数百人という規模の大きさと、感染ルートがパンの配送時らしいということで話題になっている。詳細はわからないが、よく特定できたなというのが僕の率直な感想。僕は給食業界で働いている。過去に一度、ノロウイルス食中毒事故の処理に関わったことがある。苦い思い出だ。だからノロウイルスのニュースに触れるたびに当時を思い出してやりきれなくなる。

給食業において感染力の強いノロウイルスは厄介な相手だ。相性は最低だ。なぜかというと給食は大量調理だから。調理・盛付・提供といった各工程を一度に大量かつ集中的に行うため、各工程のどこかに感染者が関わっていたら一気に感染が拡大してしまう可能性がある。今回の事案のパンの配送工程のように。ノロウイルス対策は衛生管理(食品の保管や調理工程の管理)というよりは、給食に関わるスタッフの健康管理の問題だ。そのため、厳密にノロウイルス対策をするなら、厨房スタッフ全員、納品業者から配送業者まで給食に関わる人間の健康管理はもちろん毎日ノロウイルスの検査をしなければならない。症状の有無で検査の有無を判断できない。なぜなら保菌していても発症しない人もいるため。対象者は全員にならざるをえない。コスト的にも実務的にも関係者全員検査は難しい。また、感染が判明したときの欠員の補充の問題もある。残念ながらノロウイルスに対して給食は脆弱だ。運まかせになってしまう。今回の事案の業者も避けられなかったのではないだろうか(体調不良を隠していたら問題外だけれど)。とにかくノロウイルスは給食との相性が悪い。厄介だ。

給食業者側に責任があるという前提で話をしている。通常の食中毒ならそれでいいが相手は強力な感染力とややこしい感染経路のノロウイルスだ。そうはいかない。提供される側、つまり客に感染者がいても一気に蔓延してしまう。たとえば、社員食堂ならトレイを持って並ぶ列のなかに、学校給食なら配膳当番のなかに、誰かひとりでもノロウイルスに感染したら関係者全員が感染するかもしれない。会社や学校にいる何百人を、全員を対象に毎日ノロ検査は現実的ではない。体調不良者を休ませるくらいしか防衛手段がない。

問題は給食提供される側に責任があったとしても、ノロウイルス感染事案が起きると、まず給食を提供する側が疑われる点にある。感染ルートが不明の段階でもニュースになれば給食業者が疑われる。特に学校給食はニュースになりやすい。原因不明の段階で会社名が出てしまったらイメージが最悪で、のちに食中毒でないという判断が出ても、取り返しがつかない。リスクが高すぎて薄利に見合わないとして撤退する業者が出てきてもおかしくない。厄介だ。

以前勤めていた給食会社で、ノロウイルスの対応をしたことがある。給食を受託していたとある老人ホームでノロウイルスの感染が発生したのだ。そこは利用者が食堂に集まって食事をする方式だったこともあって一気に感染が広がってしまった。施設利用者、施設スタッフ、それから僕の会社の厨房スタッフ、施設全体で感染者が出た。保健所の指導で厨房スタッフが隔離されて、本社からスタッフが派遣された。僕もその一人だった。

まず、厨房と食堂を消毒した。入居者の食事提供は止められないので、別の事業所で調理した食事を使い捨て容器に盛り付けて、施設スタッフ、施設利用者と接触しないように食事提供を行った。一週間弱これを続けた。どこで感染したのかわからないが、途中で感染して離脱する者も出た。僕も最終日に離脱した。ノロはどこからやってくるかわからない。ちょっとした地獄だ。結局、感染源は特定されずに不明となり食中毒事故ではないという判断が出た。しかし世の中に知られてしまったのでノロウイルス食中毒事故を起こした業者というレッテルを貼られてしまった。かなり後になって問題発生前に、老人ホーム側に体調不良者が数名いてその人たちが食堂を利用していたことが後からわかったけど後の祭りである。

なお、ノロウイルスの感染力や感染ルートが大きく取り上げられたのは、2006年12月に、東京都豊島区内のMホテルでおきた集団感染事案だろう。IASR 28-3 ノロウイルス, 胃腸炎集団発生ホテルの宴会場が現場ということもあり当初は食中毒として報じられたけれども、実際には外部から持ちこまれたものされた事案だった。利用客の嘔吐からの空気感染が話題になったので覚えている人もいるのでは?

ノロウイルスは、衛生管理が完璧であっても、提供までの過程でノロウイルスに触れてしまえば感染して事故につながる。飛沫感染にくわえて空気感染もするのだからどれだけ徹底しても守りきれない。ノロウイルスを持ち込んだものが給食提供する側なら食中毒事故とされ、そうでなければ食中毒事故にならない。それだけだ。たとえ食中毒扱いされなくても、給食業者側のグレーなイメージは払拭できない。

結局、先ほどの老人ホームは感染ルートが特定されず食中毒事故ではなかったけれども、それが原因で契約更新はされなかった。施設側は給食会社に責任を取らせて体面を保ったのである。まあ、それも給食を委託に出すメリットだから仕方ない、リスクマネジメントだよね、と理屈では分かっているけど釈然としないものがあった。だから僕はノロウイルス食中毒のニュースを聞くたびにやりきれないのだ。

というわけでノロウイルス関係のニュースに対して「食中毒!」と条件反射するのではなく、続報を待っていただきたい。ノロウイルスに感染すると本当にきつい。離脱した僕はトイレに籠りきりになったよ。ロケットのような勢いの下痢っぴーで月まで飛べるかと思ったくらいだよ。気を付けようね。(所要時間28分)給食業界についてはこの本で詳しく書きました。

メディアが伝えない給食の現場のリアル

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僕は給食会社の営業部長、久しぶりの更新になった。現場の欠員を埋めるために奔走していたのだ。昼までは保育園の厨房、午後からは特別養護老人ホームの厨房に入り、その合間に営業部長としての仕事をしていた。ありがたいことに、一連の穴埋めで洗浄業務のスキルが上がったよ……。

パートの穴埋めとして潜入している特別養護老人ホームの給食業務からは撤退する予定だ。すでに相手法人本部に解約を申し入れ済み。委託契約で定めた解約条項に則って五月末で解約、撤退になる。解約の理由は値上げ申請へのゼロ回答である。昨年から、法人側は一貫して難色を示していて最終的には「給食会社はいくらでもいる」というゼロ回答の塩対応だった。それを受けて予定通り解約手続きに入ったのだ。

値上げの理由は明確だ。食単価の値上げは、食材や調味料等の原価アップのためであり、委託管理費の値上げは、昨今の労務費のアップと求人市場の激化のためである。試算では現行の条件での事業継続は困難だった。そのため、値上げに応じてもらえないなら撤退という方針は決まっていたのだ。給食事業は委託契約で守られたカチカチに堅いビジネスモデルだったが、状況は一変した。急激な価格高騰や社会情勢の変化に対応できない。たとえば町のレストランであれば店の裁量で原価上昇分を価格転嫁できるが、委託契約で価格が定められているかぎりそれが出来ない。後手後手になる。

法人本部から解約の再考を打診された。いくらでもいるはずの給食会社はいませんでした。撤退に向かって動いているので「はいわかりました」とはいかない。僕が洗浄機マスターとして厨房に入っているのも撤退が決まっている以上、欠員を募集できないからなのだ。「値上げに応じてもらえますか」、満額回答は無理でもある程度は受け入れてくれるだろうと思いつつ尋ねたら甘かった。「それは無理です」と再ゼロ回答であった。話にならない。アホか。

法人本部の理屈は「当法人もギリギリの経営状況である。共に支えあおう」「福祉の仕事は尊い。利益がなくてもやる意味がある」「地域貢献/社会貢献。それは将来の利益につながる」といったワンダーなものだった。民間企業なので、利益が出ないかぎり事業継続は不可能である。撤退の意思を改めて伝えた。「給食部門を法人で運営したらどうでしょう」と提案したら「介護に比べれば給食は楽そうだからやれないこともないけれど面倒だからやりたくない」などと生意気なことを言い出したので同情の気持ちは蒸発した。

食材や労務コストのアップを理由に挙げたけれども、実のところ、給食事業というか労働集約型事業は限界を迎えている。どれだけ給料を上げたところで人は集まらない。社員なら給料が高いところが選ばれ、給料が同程度なら大手やイメージの良い業界が選ばれる。当社のような中小企業や給食業界は選ばれない。給食事業を支えるパートスタッフも集まらない。時給を上げても求人への反応は薄い。給食事業の現場、特に老人ホームのような「年中無休」「早朝出勤」「仕事が細かい(個人対応があるため)」の現場は避けられたり、採用しても速攻でギブアップされたりで、定員が埋まらない。生き残るためには、利益を確保できるところに集約していくしかないのだ。値上げに応じてくれない顧客は論外である。

というわけで値上げがゼロ回答からの解約通知で終わらせればいいのだけれども、法人本部の人が「給食の現場の厳しさを知りたい、それが納得できるものなら大人しく引き下がる」と執拗に食い下がるので「今から私が本物の給食の現場をお見せしますよ」と『美味しんぼ』の山岡みたいなことを言って現場を案内することになったのである。その足で厨房へ。厨房の前でよたよたと歩いている老婆に遭遇した。私服姿だ。法人の担当者は老婆に「入って来ちゃだめですよ。どのユニットの方ですか。今連絡しますから教えてください」と声をかけた。老婆は困惑している。僕が「その方はウチのパートスタッフのスズキトモ子さん(仮名/75歳)です」と説明すると担当者はすべてを悟ったようであった。その厨房は70代のパートスタッフが半数を占めている。入居者と変わらない。皆さんお元気だが、うっかりミスもあるし、体調不良やシフト失念などで稼働率が下がっている。僕が穴埋めしているのも70代女性パートがギックリ腰で休んでいるためだ。

当社全体のパートスタッフの平均年齢は60歳前後、若返ることなく同じメンバーで平均年齢は上昇する一方だ。あと数年で回らなくなる現場が発生する。給食の現場はどこも同様の状況だと同業他社の営業マンから聞いている。地獄である。この地獄を回避すして生き残るために、利益が見込めない仕事、人が集まりにくい現場を見定めて「選択と集中」をやるしかない。明日も業務用洗浄機と格闘である。僕が一番、洗浄機をうまく使えるんだ……。(所要時間27分)このような給食の実態については昨年出したこちらの本をどうぞ。→