Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ボケた親を見捨ててはいけないの?

呆けてしまった親を見捨ててはいけないのだろうか。冷たいようだけれども各々好きにすればいい、と僕は思う。面倒をみるのも見捨てるのも正しい。僕の母はさいわい元気で、呆けるのは貸した金を返すように僕が文句をいうときだけである。僕自身は家族に面倒をみてもらいたいとは思わない。つか面倒をみてくれる家族がいなかった。奥様からは「キミがボケても面倒はみないから」と言われている。ハードコア・ライフだ。そんなことを考えているのは、実家の裏に住んでいる高齢女性が原因のちょっとした騒動に巻き込まれて警察沙汰になりかけたからだ。母からは裏のオバサンが呆けてヤバいという話を聞かされていた。「約束をすっかり忘れる。約束したことすら覚えていない」「一緒に出かけて帰ってきた直後にまだ出かけないの?と訊いてくる」「娘の旦那宛の電話をウチにかけてくる」等々。オバサンは母よりも少し年上なので八十代前半。僕の一学年上の娘が一人いる。オバサンとはもう何年も話をしていないけれど、高校生くらいまでは「フミオちゃん」と呼ばれて可愛がってもらった記憶がある。僕は今やただのイケオジだけれども、かつては地域で評判の神童だったのだ。

母から連絡があった。貸した金を返す気になったのかと思ったら、裏のオバサンとの間でトラブルが起きているので助けてほしいという内容。駆け付けると裏のおばさんが警察を呼ぶと騒いでいた。オバサンがスマホ(シニアスマホ)の充電器が見当たらないというので、たまたま同じ機種を使っている母が貸したらしい。貸した充電器も戻ってきた。おばさんのスマホは使えるようになった。良い話だ。ところがオバサンは「充電器を盗まれた。公共料金に支払う金もみつからない。盗られたかも」とウチの母が犯罪者だと近所に向かって騒ぎだしたのだ。近所の人たちもオバサンのことをよーく知っているので、ウチの母親に「気を付けて」と親切に教えてくれたのだ。

騒ぎを沈静化させるためにオバサン宅へ行った。オバサンは一人暮らしをしている。玄関に近所の人たち(全員高齢者)が集まっていて、オバサンをなだめていた。久しぶりに見るオバサンは記憶より白髪が増えて細く見えた。玄関から見るかぎり、家は綺麗で、生活は出来ていて、荒んでいるような印象はない。母や近所の人たちとオバサンが話し合いをするなかで、オバサンの娘に連絡を取ることになった。娘と年齢が近いという理由で僕がその役を任された。挨拶そこそこに、現在の状況を伝えてから、大変なことになっているから今から来るよう依頼した。すると娘は「悪いけど母とは縁を切っているので」と断った。だからウチの母親に「娘の旦那宛て」の電話をしてきていたのか。オバサン…呆けていても、娘との微妙な距離感があるのを知っていて、それでも助けてもらいたくて…娘の旦那に電話をするつもりで、でも出来なくてウチの自宅に電話をしてしまった…オバサン…。僕はなんだかやりきれない気持ちになってしまって、意地でも娘をこの場に連れてこなければと決意した。「そんな無責任な!ウチは盗人扱いされて大変なんです。娘のあなたから話をしてください」と説得すると「無理です。私がどれだけ苦労してきたか」それからしばらく沈黙が続いて「私が彼女のためにやってもやっても彼女はわかっていないもの。何度もババア〇ね!って思ったわ。このままだとコロしちゃうかもしれないと思ったから縁を切ったのです。彼女は落ち着いているときは一人で生きていけますから」と言うと「地域の皆さんには母がお世話になっておりますとお伝えください。母とは縁を切りましたので今後ともよろしくお願いいたします。費用が発生したらお知らせください。すみやかにお支払いします」と勝手に通話を終わらせてしまった。

通話の内容をその場にいた人たちに伝えた。なんともいえない重い雰囲気になった。オバサンは一人娘に棄てられていた。オバサンは一人になったことに気づいていない。ウチの母が僕をオバサンに紹介した。「オバサン。ご無沙汰しています」僕はオバサンの前に出た。するとオバサンはかつて僕の頭を撫でてくれたときのような穏やかな表情を浮かべると「フミオちゃん……。じゃないわ。誰これ、悪い顔をしているわ。知らない知らない。騙されないわよ。詐欺師よー!警察呼んで。警察ー!」と騒ぎ始めた。ババア〇ねよ…。娘の気持ちがわかった。親と子が罵りあって最悪の結果になるくらいなら、縁を切ったほうがいいだろう。血の繋がっていない人間が対応した方が、お金で解決した方が、うまくいくことがあるのだ。オバサンは僕を指さして「詐欺師。犯罪者。警察!警察!」と騒いだあと、コロっと静かになると「フミオちゃん!立派な大人になってー」と僕を褒めた。うん、ついていけない。僕もオバサンと縁を切ることにした。縁を切ることで、守られるものが確かにあるのだ。(所要時間25分)