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【続】元給食営業マンが話題の「マズい」学校給食を考察してみた。

神奈川県大磯町の中学校給食がそのマズさと、異常な残食率と、異物混入件数とでニュースになっているのを受けて先日このような記事を書いた。

元給食営業マンが話題の「マズい」学校給食を考察してみた。 - Everything you've ever Dreamed

書いた理由は「委託や給食やデリバリー方式が悪い」という片寄った報道が多すぎて「いや委託側にも非はあるよ」と、大磯町と近い湘南エリアの元給食業界にいた者として言い返したかったからだ。そういう意図で書かれていたので、なぜ、当該受託業者に決まったのかと、導入プランの拙さについてはほとんど触れていなかった。その点を補足するのがこの文章の狙いである。なので補足なので先の記事を読んでからにして欲しい。先の記事で、僕はこの大磯の事態の大きな原因として「条件の悪さ」を挙げた。特に業務委託料(総額134,224千円【580日分】/1日当たり231,420円)は調理盛付け配送を相応のクオリティと安全安心を確保しつつ実施するには心もとないものだとした。安く済ませようという委託側と安く受ける受託側双方の責任だと。ではなぜ委託側はそのような安い条件を出し、業者は受託してしまうのか。それは給食業界の特性に一因がある。現在給食業界にはマネー的にオイシイ仕事がない。かつては一般企業の社食や社員寮、社員クラブという案件があったが、現在、それらを新規に立ち上げるのは、ごく一部の例外はあるが大企業のみ。また既存の事業所も廉価な外食、コンビニ等の中食との競争が激化している(企業内にコンビニやファストフードを設置してるのを見たことあるよね)。オイシイ新設案件と既存案件売上の減少、福祉施設の給食に手を出すがこれまた年中無休3食提供で人はかかるわ生産性は低いわでひとことでいえば「大変」なのである。売上増や利益の確保が図れず、それをカバーするために、営業マンはうま味がないのを知りながらも今回の大磯町の中学校給食案件のような入札案件に手を出すのである。参加する業者があれば入札は有効になる。入札が有効となれば繰り返すのがお役所。どの業界も同じだと思うが入札案件負のスパイラルはこうして出来あがるのだ。ましてや当該受託業者は大磯の中学給食事業の受託1年後の平成29年に工場を新設している。

給食のエンゼルフーズ、神奈川に新工場 横浜の中学に弁当供給 :日本経済新聞

大規模な設備投資が予定されていたら、尚更、仕事を取りに行くよね…。多少無理してでも…ってことになるかもしれない。業務拡大の結果、衛生管理がずさんになった可能性もあるだろう。また、学校給食(公立保育所給食)契約の特性として、「労務委託方式(食材の売上は委託側に計上される契約形態)」と「契約期間の業務委託金」が保証されている点がある。業者にとっては、利益が少なくても確実に売上が確保できるのは大きい(大磯町の当該案件は3年度)。売上が多かろうが少なかろうが評価が良かろうが悪かろうがその委託金額の中で契約期間を乗り切ればいいのだ。悪く考えれば食数がどうであれ委託金額が確保されるので、食数が減ったほうが労務費は浮き、利益は出る(そんな業者はいないと信じたいが)。では、なぜ大磯町が今回の入札に当たりこのような条件を付し、マズいといわれる給食で全国区になってしまったのか。悪い人たちの話し合いがないと信じるならば、準備不足に尽きる。前の記事で書いたとおりに募集要項によれば業者導入スケジュールは「平成27年7月開始、10月業者決定、翌1月スタート」とあるように非常にタイトなものになっている。タイトなスケジュールは業界あるあるなのだけども調べてみると選定のキモであるポジション担当栄養士を入札とほぼ同時に募集している。

学校栄養士(任期付職員)を募集(締め切りました)/大磯町ホームページ

入札公募とほぼ同時に担当栄養士を募集して十分な準備が出来るだろうか。僕が給食担当営業時代に学校や保育所相手の営業でもっとも苦戦したのは、口うるさい栄養士オバハンだったものだが…。大磯町は不在。業者天国かよ。しかもこの担当栄養士の募集、条件が月給171,296円~である。給食業界にいる人なら皆知ってるが栄養士さんは薄給で、この条件も業界あるあるだが、それでも昨今の人不足で栄養士さんの給与も上がり気味であるし、ましてや学校給食の知識を十分に持った方をこの条件で採用できるか疑問である。さらに、大磯町の場合は1時間以上かかる場所からのデリバリー方式を前提条件としている。はたしてその条件とスケジュールで、学校給食の知識と通常の自校式やセンター式学校給食とデリバリー方式の特徴と差異を熟知した献立の作成と発注が出来る栄養士を確保できるだろうか。自校式センター式とデリバリー式では使える食材もメニューも別物である。それをこなせる逸材新卒が17万円で採用されたと願ってやまない。どうしても町側の杜撰な導入計画が透けてみえてしまうのだ(町がどのように委託金額も設定したのかもお察しだろう)。次に、入札の方式そのものの問題。今回の大磯町中学校給食の入札は公募プロポーザル方式が採られている。公募とは字のとおり公にして業者を募る方式だ(学校給食ではスタンダード)。公募といっても期日に町のホームページや掲示板に貼られるくらいで実務的には担当者から業者の営業に「何月何日からホームページに要項が出るのでよろしく」的な連絡が入るのが一般的(余程アンテナを立ててないかぎり知りようがない)。今回の案件も恐らくそういう流れで業者に声がけが行われているはず。聞くところによると参加した業者は2社だけだったらしい。たまたま別件で連絡を取ることがあって、競合他社営業マンに話を聞いたら大磯町の案件は誰も知らなかった。連絡がなかったからだ。なぜ当該2社だけだったのか。公募の名の下、連絡の段階で実質的な業者の選定が行われていたのではないかと疑ってしまう。今回ばかりは公募ではなく、デリバリー方式で学校給食を運営できる県に業者登録をしている企業から指名入札をすべきだったのではないか。確かに指名よりも公募の方がオープンでトレンドだが、安全性が確保されるのは間違いない。実際、横浜市の公立保育所は公募ではなく指名入札を採用し、信用できない業者を入札前に排除している(実効力があるかは別の問題だが)。また、先の記事で、異常な異物混入件数については異物が髪の毛、虫であることから調理後の混入が濃厚で前の記事では工程に無理があり目視チェックが行き届いていないと推測したが(新工場設置による人員不足と熟練度の不足もあるかも)、もうひとつファクターがある。意図的なものである。普通に注意を払って業務に当たれば年に100件の異物混入は起こるはずがない。僕が実際に経験した意図的は異物混入は「こんなマズい給食フザケンナ。トラブルを起こして迷惑をかけてやろう」的な食べる側が起こすテロ型と「仕事多すぎる。トラブルを起こして仕事を減らそう。どーせ人不足で首にならないし」的なブラック環境型があるので関係各位には原因の究明に努めてもらいたい。僕の推察では先の記事で書いたとおり工程の無理があってチェックが行き届かないが第一候補で、ブラック環境型が大穴ってところだ。テロ型を排除したのはそれが衛生管理の問題ではなくクレーム処理、顧客対応の問題だからだ。いずれにせよ、大磯町の中学校給食の問題は、コストと手間を惜しんだことに由来している。安全で美味しい給食事業にはお金がかかるのだ。大磯町には財政の余裕がないというのは言い訳にならない。同じ神奈川県中郡二宮町は大磯町より若干小規模な自治体ながら立派な給食センターを保有して町内中学校の給食をまかなっているのだ。このページを見てもらいたい。小さな町で大きな負担になっているはずだが立派に給食センターを運営している。

学校給食センター/二宮町ホームページ

僕は給食営業を担当しているとき、ケチっているクライアントに「社員食堂なんて利益を産み出すものではありません。中途半端に五をかけて五を無駄にするのではなく十をフルに活用していい食堂を作りましょう」と何度か言ったことがある。金が出せないなら満足な運営は出来ないとこちらから断ったことも多くあった。やるのもプロ、断るのもプロなのだ。学校給食も同じで安全で美味しい食事を提供するには金と時間は必要不可欠なのだ。大磯町の件はそういう考えが委託側と受託側に欠けているように見えてならない。まとめると給食ナメんなってこと。つらつらと業者だけが悪いわけではなく町の給食導入プロセスに問題があると述べてきたけど、町が入札の不備を認めるとは考えにくいので、おそらく受託した業者の衛生管理の問題とすることで幕引きをはかると予想しているけど、そんな幕引きでは問題解決にならないとだけは言っておきたい…。つって〆の言葉としようとしたら大磯町が予想通りの対応でおったまげたよ!

“異物混入給食”大磯町「業者変更せず」(日本テレビ系(NNN)) - Yahoo!ニュース

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