Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

養子縁組に対する妻のリアクションと僕に求められた資質について

先入観とは恐ろしいもので、当代随一のハリウッドスター、ブラッド・ピット氏の外見、人格、性格、収入、感性、社会的地位、運動神経、それらひとつひとつの要素を、薄皮を剥がすように注意深く取り除いて丸裸にして比較してみると、僕とほとんど差がないことに気付いてしまった。なぜ、このような検証をするに至ったのかというと昨年からの不妊治療がうまくいっておらず、ふと、養子縁組を思い立ち、養子を育てている著名人として頭に浮かんだのが幸か不幸かブラッド・ピッド氏だったわけだ。丸裸にしてごめんブラピ。

 

 

不妊治療に対する不安や焦りがないといえば嘘になる。普段の生活のなかでは表に出さないでいるものの《子供もうダメかも》という重苦しい空気は口には出さずとも僕と妻の頭上に確実に立ち込めていて、たとえば金曜ロードショーで「もののけ姫」をみていても、「シシ神様ですら巨大化するのに…」という僕の不能をぼやく妻の独り言が僕の胸を引き裂き、エンディングを迎えたときには「もののけ姫のラストは理想的な夫婦のあり方かも…」とソフトな別居を提案される有り様。苦しい…求ム…いい不妊治療クリニック…と苦悶している最中に、僕の頭にぽーんと出てきたのが養子縁組。そして沢山の養子を育てているブラピについてインターネットで調べ、不安を払拭する意味も込めて自分と比較検討してみたのだ。

 

 

結果、養子イケル。確信に突き動かされるようにして僕は妻に養子縁組を提案してみた。妻は「欠けたピースを埋めるような考えで養子なんて…」と独特な表現でやんわりと拒んだ。子供が出来ない→養子縁組は妻の中では違うらしい。不妊と養子縁組のあいだには、推進力のような何かが必要で、それが何だかわからないけれどわからないうちは検討することすらとても無理だと妻はいう。「子供好きだろ?」「赤ちゃん好きだよ」「もしかしたらダメかもしれないよ、赤ちゃん。養子の何がダメなの?」「ダメじゃないよ。養子も否定しないよ。全然ありだよ」「じゃあ何でダメなのさ。検討くらい…」と言いかけた僕を遮って妻「だからダメじゃなくて無理。無理なの。だからしばらくは…」「しばらくは?」「しばらくは赤ちゃん役もキミに任せるよ」「…わかった」

 

 

それから僕は赤ちゃん大役を務めるにあたって、妻に、四十才で赤ちゃん役をやるのはギリギリの年齢だ、夫の務めとして、なるべく期待に応えようと思うからキミの赤ちゃんの萌えポイントを教えてよと訊ねた。返答は意外なものであった。「男の子赤ちゃんのアソコの竹の子みたいに先っちょがシュッとしてるところ!」大人の男にはハードルが高すぎる。僕には「OK…(ホォウケイ)」とネイティブな発音で答えて誤魔化すしかなかった。

 

 

不妊治療がうまくいくのか、それとも妻が不妊と養子縁組の間に横たわる何かを見つけ、その意味を発見し養子をもらうことになるのか、未来のことはわからない。もしかしたらいささか寂しいけれど子供そのものを諦めるかもしれない。いずれにせよ今の僕に出来ることは不妊治療を続けること、そして彼女の赤ちゃんになることだ。立派な赤ちゃんになりきることだ。それは僕の役割で、僕だけができる役割だ。そのためなら僕はバブバブしながらパンパースをはいて失禁したって構わないし、先ちょの皮を手術してきのこの山からたけのこの里に戻すことだって厭わない。そんな叛逆の手術をしてくれるブラック・ジャックがいてくれたらいいのだけれど。


■「かみぷろ」さんでエッセイ連載中。「人間だもの。」

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