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Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

21世紀枠での採用が決まりました。

「希望の仕事が見つかるまでの繋ぎでいいや」という春らしい浮ついた気持ち。求職活動をしているという家族へのアッピール。暇つぶしに冷やかし。酒代。そういう諸々の理由からアルバイトの面接を受けてきた。時給1,000円+歩合給の新規開発営業の仕事の面接である。平時においては他人様から忌避されるような業種、大人の事情でここではSS業と表記させていただくが、そこで薄給のために死神や悪魔やカラスのごとく人の死の周りをクンクンと嗅ぎまわる仕事である。面接会場の本社社屋はSS業らしくモノトーンとストーンな感じで統一され、墓地や寺院のような辛気臭い空気に満ちていて、会社を怨念退職してからの、暗く、つらいことばかりの3ヵ月を僕に思い出させた。通夜のような静かな廊下で面接の順番を待っていると、部屋の中から若者らしい張りのある声が聞こえてきた。「御社の企業理念と可能性に共感し、自分自身のチカラを試したいと思い志望しました!お客様に夢を与えられる存在になれるよう全力で頑張るのでよろしくお願いいたします!」たかがアルバイト。何を食ったらそこまで熱くなれるのだろうか、まったくわからない。ただひとつわかったことは、こんな無意味に熱くなれる若者に無気力の僕が勝てるわけがないということ。勝負する前に負け確定。もともと春に誘われただけの無気力なので、熱い若者の言葉のせいでさらにやる気は減退し、面接では終始「そうですね。別にいいです」「特にないです」という虚無的は態度で応じるような体たらくであった。「志望動機を教えてください」定年間近に見える面接官の声がした。こういう質問に対しては、通常、前に面接を受けた若者のように、御社の理念に共感した、とか、自分の力を試してみたい、とか、御社の一員になってこの地域全体を盛り上げたい、などと薄気味悪い美辞麗句を並べるのがルールである。だが、たかがアルバイトの面接である。金銭的に困窮し、今にも「ほのぼのレイク」で借金を重ねそうな者たちが集うのがアルバイトの面接である。何が理念だ、どこに共感だ。だいたい、43才の中年無職が目を輝かせてそんな夢を語っていたら、どこか壊れているか、ナチュラルボーンドリーマーか、どちらかだろう。そんなウソ八百並べられないよ…と躊躇する僕に「正直に答えてくれればいいですから」と面接官。「それなら」つって、「志望動機はお金です。SS業への興味も一切ありません」と答えた。終わった。はやくお家に帰ろう。そう思いながら。すると面接官は、少々頭に来たのだろうね、イラついたような調で「ウチは現場でお金を扱うことも多い…。お恥ずかしい話ですが過去に金に困ったアルバイトの人がネコババした事件もありました。あなたは大丈夫ですか?」と言ってきた。ただ、正直に金が欲しいと言っただけで、無職というだけで完全に犯罪者予備軍扱い。神に問う。無職は罪なりや?ふざけるな。と思ったけれど相手と同じ土俵に立ちたくなかったので、つとめて冷静に「大丈夫かどうかは自分ではわかりません。ただ、ネコババするような人間に見えてしまうのであれば自分の今までの行いのせいでしょーーね。今日はありがとうございました」と言った。その直後に「あとで正式に通達するけど一応合格」と言われて採用が決まった。相手の言い分を信じるならば、SS業の営業として求めていた人材は、やる気に満ち満ちたヤングではなく、見るからに疲れた、幸薄く、威圧感のない、お客に強い印象を与えない陰のような人物で、その条件に合致したこと。かつ、人の不幸のど真ん中に突っ込んでいくSS業の営業は時に人格否定のようなきっつい言葉をぶつけられるので、そういった事態に遭ったときに自分のルールで切り抜けられる人物に僕が合致したこと、それらを採用の理由として言われた。「他に候補がいないから」とも言われた。褒められているのかバカにされているのかさっぱりわからないので、とりあえず「職が決まったら速攻で辞めますから」とだけ言っておいた。正式に就職戦線に帰還するのは新卒以来20数年ぶり。21世紀となり、採用基準というものが僕の知らないうちに変質したのだろうか。とにかく、こうして僕はいわば21世紀枠での採用が決まったのである。来週から僕は人の死の周りを嗅ぎまわるアルバイト死神になるけれども、今までと変わりないお付き合いをお願いいたします。(所要時間20分)