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Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

我思う、故に会社あり

日記

 僕のいる飲食業界は「ブラック企業の温床」というレッテルを貼られてしまっていて悲しい限りだ。確かに業界内にドス黒い企業はある。けれども、少なくとも弊社は、ウチの会社だけは違う。胸を張っていえる。思いやりのかけあいというのだろうか、社員一人一人が会社に対して様々な思いを馳せ、トップは社員一人一人を推し量っている。そんな素晴らしい会社なんだよ。

 

 先日。朝礼で総務の人がこんなことを告知した。「連休中に開催される湘南国際マラソンに社長が参加されます。業務命令ではありませんが、集合場所と時間を定めておくので全社員個人の意思で参加すること」。隣で、いいよ、いいよと言うように笑顔で手を振る社長。その凍てついた目線が朝礼に参加しているメンツの顔面をさっと流れていく。



 「これはオフレコですので聞き流してもらって構わないのですが」総務の人は続けた。「応援の参加不参加が評価につながらないとは思いますが、私は保証できません」。出来の悪いアメリカンジョークだ。僕はそのジョークに愛しさと切なさと心強さと説明責任と透明性を認めた。参加しないとマイナス査定されるんじゃ…と不安を漏らす者もいたが僕はそんなことは絶対にないと確信していた。当たり前だ。


 11月3日文化の日(休)マラソン当日早朝。集合場所には朝礼に参加していた社員全員が休みにもかかわらず個人の意思で社長の応援にかけつけていた。美しい光景だ。僕は個人の意思で駆けつける社員の為に、たまたま先に総務の人から依頼されてしまったけれども、自分の意思で早起きし、弁当とペット飲料を手配した。お金にならない労働で流す汗がこんなに爽やかなことを、僕は忙しい日々の中で忘れてしまっていた。感謝しかない。総務の人は個人の意思で応援に駆けつけた社員の出欠を取っていた。形に残りにくい愛社スピリットがこんなふうに形になって本当に嬉しい。

 

 マラソンスタート一時間前には全社員が総務が定めた応援ポイントに散らばり、遥か彼方にいる社長の健闘を静かに祈っていた。僕は茅ヶ崎の給水ポイントを担当、どうかどうか社長が死なない程度に無事に給水出来ますように、僕の目の前でだけは転倒しませんように、と。どれだけ大きな声を、時速三キロで駆け抜ける社長にかけられるかで社内の評価や立場が変わる。そんな噂も流れていた。僕は全く信じていなかったので自宅からヤクルトスワローズ公式メガホンを持参していた。


 レース開始数時間経過。太陽が傾き始めた。いつまで待っても社長はあらわれない。通過していくランナーがまばらになっていく。総務の人の顔に業務中のような緊張の色が見えた。結果からいうと社長はスタート早々にリタイア。社員に心配をかけまいとした心優しい社長は、あえて僕らにリタイアを連絡せずに帰られていた。我々は沿道、社長の御身はご自宅。休日を1日無駄にしてバカじゃねと笑う人もいるかもしれない。だけど僕ら社員は社長の思いやりと充実感で満たされていた。


 翌日から社長リタイアという事情により、社内でマラソンの話題は一切タブーとなった。社内レクリエーションは社内の人間関係を円滑にする効果があるが、ともすると緩くなりすぎる傾向があるのは否定できないところ。その点、弊社はマラソン応援と仕事をきっちりと分け、全社員何もなかったかのように仕事に向かっている。これはひとつの到達点ではないだろうか。

 

 マラソン応援自体がタブー。つまり参加不参加や声量が評価や査定に影響するのでは…という一部社員の不安も払拭されたのである。もし、そんな評価査定が本当ならば弊社はブラック企業と汚名を着せられても仕方なかったところだ。最初からそんな滅茶苦茶な評価査定なんてありえないと信じていた僕の正しさはこうして証明されたのだ。


 驚いたのは社長のフェイスブックに「完走しました」コメントとスタート地点で撮影されたと思しき社長の偽ゴール直後画像がアップされていたこと。もちろんタブー。誰にも言えない。どうしたらいいかもわからない。

 

  このように多少のすれ違いや隠蔽はあるにせよ、トップと下々が思いやる弊社がブラックであるはずがないのだ。本当に働きがいのある素晴らしい会社なんだよ。

 

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・「かみぷろ」さんでエッセイ連載中。

「人間だもの。」

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「フミコフミオの夫婦前菜」

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