Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

「健康経営はやめましょう」と社長に進言したら会社で四面楚歌状態です。

昨年末の部長会議で根拠をあげて「健康経営からは手を引いた方がいい」と意見を述べてから社長と対立している。対立というと大袈裟になってしまうが、溝を埋めるのが困難なほどの意見の相違が社長と僕の間にはある。実際には社長と僕だけが対立してるのではない。僕以外の部長クラスは全員、社長に賛同しているので、僕は四面楚歌である。そんな状況のまま年を越してしまった。

経済産業省によれば、健康経営とは、「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」であり、「企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながる」効果が期待されている。http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html

健康経営は、経産省と東京証券取引所が2015年に「健康経営銘柄」を定め、経産省が「健康経営優良法人認定制度」を設けてから、ちょっとしたブームになっている。特に「健康経営銘柄」は、一業種につき一企業なので、リーディングカンパニーとして世間様から見られるようになる。健康経営とは、認定等イコールお墨付きで、健康経営を、従業員や求職者、取引先、世間一般に「見える化」することで、人材の確保やブランドイメージの構築、従業員のモチベーションの向上、生産性アップに繋げようとする取り組みのことである。簡単にいえば、健康経営の認定を受けることで、「ウチの会社は健康経営をして人を大切にしてますよー」という、良い印象を内外にアッピール出来、それが経営にも商売にもメリットがあるという仕組みである。その認定の基準は(多少認定機関で違うかもしれないが) 経営理念、組織体制、制度施策実行、評価、法令遵守に分けられており、それらの項目をクリアすることで認定を受けられるようになる。

「企業がその認定を受ける手伝いをしよう」というのが社長の考えである。僕の勤めている食品会社としては、制度施策実行のうち「保健指導」「食生活の改善に向けた取組」「運動機会の増進」の認定を受けるサポートを事業にするというのだ。社員食堂は社業の一部であるが、他の事業と比べて安定はしているものの、利益率が低くて一時は撤退も考えたほどである。なぜ社員食堂の利益率が低いのか。諸々の理由はあるが、僕は社員食堂がその企業の本業ではない福利厚生の一環だからだと考えている。給食の営業マン時代に「社食に力入れても」「会社が苦しいから社食にまでは回らない」と言われてきた。それこそ星の数ほどだ。言葉だけではない。経営がうまくいかなくなるといの一番に削減されるのが福利厚生だ。僕は社食を閉鎖縮小する会社をいくつも見てきた。

だが、健康経営の視点でみると社食は単なる福利厚生ではなくなる。認定や銘柄を得るために必要な、いわば成長戦略の一環となる。つまり企業が金をかけるようになる。社長はいわば金のなる木である健康経営サポート事業に、食品会社のノウハウを活用して打って出たいと考えている。現在の事業を活かせる素晴らしい考えだと思う。「御社の健康経営を食品会社のノウハウを活かしてバックアップいたします」というフレーズもすごくクールだ。だが僕はあえて社長の提案を否定した。「良い考えですが時期を失しています」と。金のなる木、健康経営サポートをすでに事業化している企業が多数あることをその理由とした。

社長は「競争になるのは覚悟している」と仰ったけれども、今回は分が悪すぎる。なぜなら健康経営サポートを事業化している企業は、同業の食品系企業だけではなく、ソニーやNECといったメーカー系から、NTTのようなインフラ系から保険会社まで、あらゆる業種のビッグネームが参入しており、そのうえウチ単独で参入しても食に関する部分だけの限定的なサポートとならざるをえないが、それらビッグネームは食を含めたトータルなサポートを事業化しており、今からでは勝ち目がない、と僕は意見した。社長は「競争から逃げているだけでは勝ちのこれない」と僕に言った。確かに正論だ。だが僕は逃げたつもりはない。大企業との熾烈な競争で体力を使うのではなく、その体力を新しいフィールドでの戦いに使いたいだけなのである。

社長の意見は正しい。健康経営は食品会社としては事業の柱にしなければならなかった。だが、いかんせん遅かった。健康経営銘柄が定められたのは四年前。僕にいわせれば参入は五年遅い。金のなる木の実はもう取り合いになっており、大きくて手の長い巨人が有利だ。これから参入するにはかなりハードルが高くてより一層の工夫が必要になるだろう。その工夫を考えろと社長は仰っている。僕は楽に勝ちたいのでその道は選びたくない。逃げるのではなく楽に勝ちたい、それだけなのだ。

ひとつ疑念がある。その疑念は、前の会社のときに苦い経験として味わったものだけれども、「厳しい仕事に取り掛かっている自分たちの姿に酔っているだけではないか」というもの。厳しい仕事だったから負けても仕方ない、挑戦することに意義があるのだ、というマスターベーションこそ、企業をダメにする病だと僕は思っている。僕は挑戦したうえで勝ち残ることにのみ意義があると考えているので、おのずと勝算が高い選択肢を選ぶようになる。それが健康経営サポート事業へ参入しないこと、だった。

おそらく社長は会社を永くやっていくことを判断の前提としているが、僕が考えているのは一年先に会社が勝ち残っている未来だけである。ぶっちゃければ、会社なんて僕が引退するまで存続していればいい。つまり、正しいとか間違っているとかではなく、経営者か否かの違いだけなのだ。社長からは「それなら代案を出しなさい」と命じられ、他の部長からも「そこまでいうのなら代案を出せ」「まさか代案がないのに社長の構想を否定するとかないよね」「腹をくくれよ」と重圧をかけられている。なので、年末年始の休み中、ツイッターもやらずに健康経営サポート事業に代わる事業案をずっと考えていたけれども、今のところ、金になる代案、社長を納得させるような事業案は見つかっていない。運命の部長会議まであと7日。きっつー。(所要時間32分)