Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

パートさんと現場で働いたら「年収の壁」よりヤバい「第二の壁」の存在に気づいた。

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僕は食品会社の営業部長。会社の規模は中小企業だ。新規開発営業が僕の仕事だが、人不足のためときどき食品工場(惣菜工場)に入って、パートさんと一緒に働いている。実際にパパートさん(全員が主婦である)と働いていると、103万や130万といった「年収の壁」が話題にあがる。「年収の壁」とはその額をこえると税金がかかる、社会保険に加入になるという限度額のことだ。1円でも超えたら手取りが減ってしまうから、パートさんたちは年収が壁の手前で抑えるのだ。

現場の声をきいてわかったのは、「壁があるから働けない」という人より、「できることなら働きたくない」と考えている人の多さだ。「旦那の稼ぎの不足分を補いたいだけ」「昼間空いている時間を有効活用している」という声だ。言いかえれば、壁を働かない理由にしているのだ。だから、政治家が年収の壁の撤廃を主張していても半分の人の指示しか得られないだろう。慢性的な人不足に悩まされているのでパートさんたちに「もっと稼げば?」「正社員にならない?」と打診しているけれども「働きたくない」を理由にうまくいかなかった。なお、地域ごとに最低賃金や求人環境が異なるのに年収の壁が全国一律で設定されているのは論外である。

もともと当社では、労働力確保のため時給を最低時給より高く設定している。そのため、年収の壁を越えないようにするパートさんたちの働ける時間が少なくなっている。壁の条件は、103万や130万といった年収の額以外にもう週20時間以上、月88,000円以上といった条件がある。それに抵触しないように労働条件を決めていくと時給1300円× 5時間@日× 3日@週× 4週間= 78,000円(月収)が当該工場の基本モデルになる。当社の工場は週5日8時間稼働なので、このモデルを適用すると1人1日あたり3時間、週2日の労働力が不足する。その分を補填するために多めにパートスタッフを雇用してシフト体制をとっているわけだが、人不足のために補充が追いつかず、夏から僕のような社員が埋めるような事態になっている。

補充のために時給を上げればいいという意見もあるが、新採用を時給設定1400円、1500円で出した場合、既存のパートさんの時給を上げることになり、また既存パートの労働時間が短くなってしまうという地獄になる。正社員を増やそうにも、名前のない中小企業なので、よい人材は来ないという地獄である。増大した人件費を価格に転嫁するにも限界がある。たとえば1個500円の稲荷寿司を買いますか?

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ここまでが前回の話だ。地獄だと思っていたら、せいぜいプチ地獄だった。もっと大きな地獄が迫っているのだ。これまで、既存のパートさんにお願いして少し多めに働いてもらったりして労働力不足を埋めてきた。けれども、年収の壁の他にもう一つの壁が迫っていることを僕は現場のパートに教えられた。「部長さん、年末が来るわよ」と。

第二の壁は「年末の壁」である。年収の壁の期限は年末である。多く働いてもらったパートさんが年末に向けた年収調整で、勤務日数や労働日数を減らしてくるのだ。つまり、「ちょっと多めに今月出てもらえない?」「1時間長く働いてくれない?」作戦でごまかしてきたツケを払うときがきたのだ。年末までのシフトを組んだら、多く働かせてしまった分、皆が勤務時間と日数を調整して減らしてきたため、今後のシフトがスカスカになってしまった。社員で埋めるしかない。僕の場合、朝7時から10時まで稲荷寿司を作り、そこから営業マンとして15時まで働き、15時から19時まで稲荷と洗浄というイミフな働き方をすることになる。疲労で別のおいなりさんに悪影響が出なければいいのだが…。経済界の重鎮が「賃金引上げができない企業は退場」といっていたが、賃金引上げの結果退場になりそうなんですけど…。

現状を変えるためには、工場自体の稼働日数・時間を減らす、工場自体を減らして労働力を集約するしかない。決定権があれば工場のひとつを年末まで停止したいくらいだ。賃金を上げて価格転嫁させることは大事だけれども、商品の特性であげられないものもあるし、そもそも価格転嫁自体に限界がある。人件費の上昇によって年収の壁に達するまでのリミットが少なることの方が問題だ。多くの人は、働けないのではなく働きたくないのだ。そういう認識がないかぎりこの地獄からは抜けられないだろう。

秋までは何とかごまかしてやってきたけども、ついに年末の壁が来る。「パートやアルバイトの環境をよくするため」といって賃金を上げても、年収の壁に直面して、企業は工場や現場を縮小せざるをえなくなる、という前回のエントリの結論に加えて、迫り来る「年末の壁」という問題がまったなしである。解決策として、年収の壁や年末の壁とは無関係の僕みたいな正社員がお稲荷地獄に墜ちるのである。年収の壁を時給の額に応じて柔軟に設定すること、年末の壁の区切りを2年か3年に1度にすること、それぐらいしか解決策が思い浮かばない。主婦パートさんの「働きたくないでござる」という意志が強すぎる。なお、会社上層部は「なんでパートは働かないんだ?」と理解できないようであるが、自分たちがたいして働いていないのに働きたくない気持ちが分からないのが不思議でならない。あと僕はお稲荷さんを作るのがめっちゃうまくなりました(^^)/ (所要時間30分)