Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

「私にも責任はあります」という偽善について

営業部は「花形部署」「会社の看板背負っている」と持ち上げられることがたまにあって、能天気な先輩やクソ以下のゲロゲロ上司はいい気分になっていたけれども、僕はずっと「バカにされている」と悔しい気持ちでいっぱいだった。《奴ら営業はチンパンだからチヤホヤすればいい気になる》。言葉の裏にそういう本音が垣間見えたからだ。

営業という仕事はスペシャルではない。資格や経験はいらない。慣れてしまえば度胸もいらない。誰でも出来る仕事。それが営業。誰でも出来る仕事ではあるが、続けられる仕事でもない。なぜか。いろいろ要因はあるけれども、突き詰めていくと、孤独だからではないか。積み重ねてきた実績や会社からの評価を取り除くと営業で得られるものはほとんど何もない。仲間もいない。だから自分で自分を客観的に評価して周囲から独立してやっていける人間だけが営業という仕事を続けられる。

そういう一匹狼な要素のせいで、営業以外の人間から「営業は勝手にやっている」「自分のことしか考えていない」と見られることもある。そこから営業を見下している本性があらわれて、こんな仕事を持ってきやがって、じゃあお前が取ってこい、という最悪な関係性になってしまうこともある。僕が会社で取り組んでいるのは、営業マン個人の孤独を軽減すること、そして、他部署(現場)との風通しを良くすること、この2点に尽きるといっていい。

ウチの会社に勝ち続けている男がいる。事業部、つまり現場のトップで先代ボスからの重鎮だ。60歳近くになるはずだが、頭髪は豊か、爪は綺麗、言動はエネルギッシュで若々しい。苦労をしていないだけかもしれない。僕がこの会社に入って2年ほどになるが、彼は問題との距離の取り方が抜群にうまい、完璧なアウトボクサーという印象だ。

おかげさまで会社は堅調(絶好調ではない)であるが、それでも予定された数字の出ていない案件はいくつかある。彼は、そういったビミョー案件に対する感度が鋭い。出来るだけ関わらない位置にご自分を置くのだ。とあるビミョー案件部下に対しては「一応、承認はするけれど、キミたちの熱意をくんでいるだけだよ」といい、渋々ゴーサインを出す。そして期待された結果が出ないと、ボスに対して「私『にも』責任があります。部下の熱意と判断を信じてしまいました」と報告するのだ。

僕は違和感を覚えた。『にも』ではなく「私『に』責任があります」だろう?責任を取るのも上司の仕事。そのぶん多く給料をもらっている。「私にも責任があります」といって、暗に失敗の責任を押し付けながら、己のしくじった「部下をかばっている感」をアッピールするのは僕の考える上司像とはかけ離れていた。社長は賢い方なので、すべてお見通しだと思われるが「次はしっかりやってくださいよ」と言うにとどめてしまうのだ。情の人なのである。おそらく、部下をかばっている人間を責めにくい…と思ったのだろう。

クレイジーなのは、結果的に当該事業部長がビミョー案件の責任を部下にやんわり押し付けつつ、ボスからも部下からも「部下をかばういい上司」という謎評価を得ていること。間違っている。本来の責任を放棄して、部下をかばっている感で補充しているだけなのだから。僕はそういうふうに彼を評価していた。

先月、営業部からチャレンジ要素の強い案件を事業部に持ち込み、彼にその承認をもらおうとしたのだが、おそらく彼のビミョー案件レーダーが反応したのだろうね、「確認する時間がない」「あとで承認はするからウチの部下と進めてくれ」というアウトボクサースタイルを持ち出してきた。彼のペースにあわせていたら時間がなくなるので、仕事はすすめた。残念ながら、当該チャレンジ要素強め案件は始動直後、割りと大きな問題に直面してしまった(その後解決)。

事業部長とボスに報告にいくと、彼は「営業部の苦労と熱意に押されてしまいました。時間がなかったとはいえ、私にも責任があります」と言った。また『にも』すか。ファインディング・にも。いやいやいや。あんた現場のトップでしょ。そうやってこんだあ営業部に責任を押し付けて、踏み台にするつもりなのか。やらせはせん。僕が「私に責任があります。熱意なんてありません」と言うと、傍らに立つ彼がすげえイヤな顔をするのがわかった。ボスが彼に「確認する時間は本当になかったのですか?」と尋ねると彼は「申し訳ありません。時間はありませんでした」と答えた。ボスが発言をうながすように目線を僕に寄こすので「先月1ヵ月間、時間はありました」とありのままに答えておいた。それからボスが「1ヵ月も時間があって計画を確認しないのは責任者としてダメでしょう」と〆て話は終わった。

社長室を出て彼から「営業サンは勝手に仕事を持ってきて気楽でいいねえ」と言われたので「それが営業ですから。部長『にも』ご理解いただけて良かったです」と「にも」で返しておいた。営業は孤独だ。(所要時間26分)

会社員による会社員のための会社員の生き方本を書きました→ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。