Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

はじめてのピンサロ


 ガレージロックの似合いそうな安っぽい色彩に切り取られたボックスのなかに僕はいた。古いアメリカ映画に出てくるモーテルにでも出てきそうな、チープな、オレンジとピンクが互いにでしゃばって譲らないライト。主張フィフティーフィフティー。二畳ほどのスペース、天井からは「いかにも」モハ系通勤電車にありそうな吊り革がぶら下がっていて足元ではビニール製ソファがショッキングピンクの耀きを放っている。スーツ姿の僕は、吊り革に両手でぶらさがり帰宅途中の会社員を演じていた。背後の蛇腹が開いて人の気配と甘い香りが侵入してくる。「失礼しまーす」


 ここはピンサロ、「電車でGO!!」。初めてのピンサロ訪問で挙動不審気味の僕に男が訊ねる。「どのコースにしますか?」男の指先に三択。「痴漢コース」「逆痴漢コース」「恋人コース」。正月の手痛い失恋からインポに陥っている僕は、躊躇なく「逆痴漢コース」をセレクトしてエレクトの可能性を賭け(ていうか「逆痴漢コース」以外の意義がわからない)、パーセンテージとボルテージを上げる。「女の子を指名してください」と男。僕は壁に並ぶ写真を見る。ソフトフォーカスのギャル・ギャル・コギャル・ギャル・コギャル。写真に赤い造花が刺さっているコがご出勤。僕は牧瀬里穂に見えなくもないギャルを選ぶ。無数の組み合わせから導き出した「牧瀬里穂×逆痴漢コース」、これで駄目ならもう後がない気がした。崖っぷち@土曜ワイド劇場。覚醒せよ我が海綿体。チンコ根本のスターゲートさーん!ひらけボッキッキー!こうして僕は場末感と卑猥さの溢れる個室で、吊り革にぶら下がり痴漢される会社員という難役を自ら進んでこなすことになったのだ。出発チンコー!


 吊り革に身を預ける僕の背中にギャルが身体を押し付けてきた。オッパイぼにゃーん。着衣の薄さが感触でわかる。それからすっと僕の背後でギャルがしゃがみこむ。今日日の痴女さんはこんな大胆スタイルなんだと感銘を受ける。肩幅に開いた足のあいだにございます僕のチンコが激しくズボンのうえから触られた。ていうかダイナミックに「握られた」。腿の内側に腕の暖かみ。サイドではなく真下からアンダースローでぐわしっ!と効果音でも付きそうな勢いで握られる僕のチンコ&キンタマ。擦りも揉みもワイルド。アップダウン。アップダウン。バイブレーション。シンコペーション。すべての動きが激しい。もっとエンジェルタッチで。もっとシャクティパッドで。それが僕の好みなのだけれど。僕は両手で吊り革にぶら下がりながらその情景を見ない。股間と心眼で牧瀬里穂を感じる。目の前にある下手クソな車窓を見る。壁を。僕は痴漢されて戸惑いつつも快楽の蟻地獄へ墜ちてしまう会社員を演じている。まだ墜落には早い。まだだ。まだ終わらんよ。


 荒々しく揉み揉みされる僕のチンコ。こんなにチンコを揉まれたのは初めてだ。エレクチンチンには到底至らなくても気持ちは良くなる。溢れそうになる。「らめぇえええええええええ!!!そんなふうに揉まれたら変な声れちゃううぅー!!!」僕は吊革に両手でぶら下がりながら身体を捩ることにエナジーを費やすことによって声が出るのをこらえた。すると腕がもぞもぞと僕の股間が這い上がってファスナーの引き手を捜索し始めた。「いよいよダイレクトにシェイクされたりチュッパチャップスされる…」その昂りに僕の右手レスキュー隊はサンダーバードのテーマを奏でながら吊革から出発し、ファスナーを分かりやすいように出してやる。ヘイ!ワイケーケーの刻印入り引き手はここだぜ、ガール!早くマイサンを、ジュニアを、逸物を、ディックを、コックを、ペニスをどうにかしてくれよ、めちゃくちゃにしてくれよベイビー!


 僕の盛り上がりとは裏腹になかなかファスナーは下ろされなかった。ハリアップ!ハリアーップ!むずず。ぎこちない動作。なんだかファスナーを掴むのに苦労しているみたい。僕が見下ろすと股間のあたり、薄暗い宙にずんぐりむっくりした白いクリームパンが浮かんでいた。指というか全体がなんていうのかもっさりと太い。それは右手ですか左手ですか?お茶碗を持つほうですか?僕わかんない。んーそれになんだかビームライフル持てそう。なんて僕の沈思を無視して眼下ではクリームパンがファスナーを捜しながらも時折僕のチンコをズボンの上から撫でたり揉んだりしている。クリームパンは鉄人28号やマシュマロマンの手にも変身した。クリームパン→鉄人28号→クリームパン→マシュマロマン、絶望モーフィングSFX。僕はこれが地獄絵図或いはナイトメアなのだと目の前の光景を客観的にクールに眺めながら思った。


 振り返ると牧瀬里穂がいるはずの空間に朝青龍がいた。本名ドルゴルスレン・ダグワドルジ。愛称ドルジ。この決まり手はなんですか?「お客さん立たないですねー」立たないんじゃない。立ててないんだ。ゲラゲラゲラ。笑う朝青龍。笑うな。「もういいです」「えーいいんですかー?」とドルジ君。「いいんだ…」僕の頭上では吊革が音もなくゆっくりとしたビートで揺れていた。「もういいんだ」こうして僕のピンサロデビューはほろ苦い終幕を迎えた。只今の取組。決まり手は「里穂騙し」。ま、キャバクラでこのキズを癒したら今度は「痴漢車トーマス」でリベンジを果たそう。インポのコンティニューボタンを押された僕に必要なのは愛なんだけどさ。それくらい僕だってわかってる。愛だろ?愛。