Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

来々軒でつかまえて


 もしも君がほんとにこの話を聞きたいなら、僕がどこで生まれたとか、子供の頃はどうだったのかとか、仕事とか性癖とか、そういうお見合い相手みたいなくだらないことは聞かないで欲しい。話題がないからお見合い相手みたいにそういう差し支えないことから聞きたがるのかもしれないけどさ、実をいうと僕は、そんなことはしゃべりたくはないんだな。この話だってどうせ嘘だと思うんだろう?だけどある種の真実は嘘をもってしか語れないのさ。頭のかたくなった大人にはわからないと思うけど。今朝、鏡を見たらひどい赤ら顔だったんだ。目もいつもと見え方が違ったんだ。地獄のバッタになった気分。これは眠っているあいだに、梅干の種か、使わなくなったダッチワイフの○○○を、目とまぶたのあいだに入れられたのかもしれない、と手でこすってみようとしたのさ。すると、その手も赤く、ごつごつとしていてまるで怪物のよう。不審に思った僕がさっきより目を凝らして鏡をみてみると、鏡のなかに赤いロボットが浮かんでいた。オタクの好きなアレさ。エヴァンゲリオン弐号機。右手でぴしゃりと右の頬をはたくと鏡のエヴァンゲリオンも向って右の頬を叩く、左手で棚にあるシェーバーに手を伸ばすと鏡のエヴァンゲリオンも向かって左の手を振り上げて肩に内臓されているナイフを取り出す。視覚の違和感は複眼のせいみたい。上下、左右に視野が分かれていてやりづらい。あれ。頭のなかで声が響いている。女の人の声だ。それも大人の。「アスカ、返事をして!」「ありえないわ!」。アスカ?疲れているといつもこんなふうに頭のなかで小人の声さ。まあいい。せっかくエヴァンゲリオンになったなら兵器らしく股間を立ててみるよ。実をいうと、最近の僕はまるでダメだったからさ、人間から汎用人型決戦兵器になった勢いに乗って立ててみる。 ふんぬ!ふぬふぬ!あれオカシイなあ。オナペットののりピーがよくないのかもね。ピクリともこないんだ。「エントリープラグ強制射出!」「ダメです。信号受け付けません」「アスカ!」。また声がする。参ったなあ。こういうときは出勤しよう。エヴァは出勤じゃなくて出動かな。使徒の相手をするのは気が引けるけど。カヲル君とも戦わなきゃいけないのかな。僕はずっと言い続けている、カヲル君は使徒なんかじゃないって。僕は、千ドル賭けてもいいけど、ゼーレは絶対に使徒をネルフになんか寄こさない。今でも僕は、千ドル賭けるね。もしも千ドルあったら。何でも賭けるけど、ゼーレは絶対にそんなことはしない。それにしてもお盆なのに不景気なのになんで働いているのさサラリーマンは。清涼スーツだって蒸し暑いのに、今の僕はエヴァンゲリオンで、こちとらには1万2千枚の特殊装甲と、ATフィールドがあるもんだから、暑いったらありゃしない。エヴァンゲリオン弐号機、赤くてやけに目立つけれどそれほど市民権がないのもはじめて知ったんだ。シャア専用ゲルググと間違う馬鹿が多いこと多いこと。参ってしまうよ。お腹が減ったのでラーメンでも食べよう。ラーメン店来々軒。「ニンニクラーメン、チャーシュー抜き」が売り物だけれどそんなメニューを売っているところ僕は見たことがないんだ。席に座って壁に貼ってあるメニューを眺める。どうしてここの手書きメニューはこんなに汚い字なんだろう。それに店長はラの字を知らないのかもしれない。ラーメンが全部ザーメンになっているもの。でもおかしいな。ザーサイはラ”ーライになっているし、大人が何考えているかよくわかんないや。味噌ザーメンを注文した僕がザーメンだらけの壁を四つの目で眺めていくとアサヒビールキャンペーンガールのポスターが貼ってあった。ビキニはいいよね。人がつくった文化の極みだよ。驚いたよ。ビキニ鑑賞しているうちに足と足の間がムズムズしてきたのさ。また小人の声がする。「エントリープラグ強制射出。LCL強制排出!」。気がつくと僕の股間は逞しくおっ立ち、先端からはパトスが濁流となって轟々と流れていた。パトカーから降りてきた警官が僕の肩を叩いた。僕の身体からはATフィールドが消滅していた。僕は警官の手を逃れてザーメン屋から走り出していた。激しく前後する両足の間で、股間のエントリープラグは海で踊る海草のようになっていた。ふにゃふにゃとただ、やわらかく。それを見て、僕は走りを忘れた亀のように速度を失ってしまったんだ。雑踏のなかに僕を中心とした円環が出来ていた。ATフィールドがなくなったのに誰も僕に近づいてこようとしなかった。警官だけが僕のそばへやって来た。「どうだ露出は?」。僕はなんとも答えなかった。ただ口の中でチンクロ率ゼロ、チンクロ率ゼロと繰り返していた。警官に促されパトカーへ向かう途中、僕の両目から大粒の涙がぽたぽたと落ちていって、アスファルトに小人の足跡を描いたんだ。


これが200日目の日記です。いままでありがとう。これからもよろしく。