Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

自己都合で退職した元同僚が養育費を求めてストーカーまがいの行為をしてきたので秘奥義を繰り出した。

 僕は小さな食品会社の営業課長。ここのところ「自分探し」を理由に自己都合退職したゆとり世代の元同僚(必要悪君)から、縁を切ったはずなのに、トモダチ以上ストーカー未満の行為をされ続けていて甚だ迷惑している。先月のことである。必要悪君から連絡があった。一連の騒動でケータイは着信拒否。なので一身上の都合で現在妻と別居中の僕が一人暮らしをしているマンションの固定電話に連絡があった。「なぜこの番号を?」疑問をぶつけると「人脈を大切にしますからね、俺は」と必要悪君は言う。初っぱなから噛み合わず、きっつー、って唖然としていると、畳み掛けるように、元課長はやっぱ独身だったんすねー結婚できるタイプには見えなかったもんな〜と聞き捨てならないことを言うのを、ぐっ、とこらえて聞き捨てていると、驚くべきことを彼は言った。「元課長、養育費をください」


 元課長、養育費をください。彼は、まるで大事なことのように正確な日本語で意味不明なことを二度繰り返した。不思議ね。元教師。元自衛官。職業等に元の一文字を乗せるだけで犯罪スメルがするのだから。そもそもなんで元・課長なんだ。突っ込んだら負けなのだろうな。そんなどうでもいいことを沈思しながら口をぽかん、開けたままにしていると、「使えないハロワが金をくれない」と彼は苛立った様子。「求職手当もらってんじゃないの?」「起業セミナーに申し込んだだけでは求職活動とは言えないらしいっすよ元課長。ハロワ的に」ああ…。話をまとめると理想の仕事がないので就職活動をやる気分にならないらしい。自分に嘘をつきたくない→仕事が見つからない→金が尽き妻と子供は貧窮する。そういうことらしい。


 「金がないから携帯ワンセグでテレビみてますよ」強気の姿勢を崩さない必要悪君に「君の養育費をなんで僕が払わなきゃいけないんだ?親じゃないし関係ないじゃん。役所に聞いてごらんよ」と言い返した。「役所にですか…」「うん、でも恥をかくからやめたほうがいいよ」「聞きましたよ」聞きました。過去形?じゃあ、なんでこうなるの。「確かに元課長に養育費を払う義務はないのかもしれないっす」「かも、じゃなくてさ…」「でもそういう役所仕事の話をしてるんじゃないっすよ」「何が言いたい?」


 すると彼は、ため息混じりに、元課長〜、と呟いてから「ひとつ、すべての児童は、心身ともに健やかにうまれ、育てられ、その生活を保証される。ふたつ、すべての児童は、家庭に恵まれない児童には、これにかわる環境が与えられる。みっつ、すべての児童は、個性と…」と語りだした。たまらず「なにそれ」遮ると「児童憲章です(キリッ)」。「そうなの?知らないけど…」「つまり子供は日本中の大人で育てなきゃダメってことっすよ、元課長」 「なるほど…」。


 って納得いくわけない。「でも僕が君に養育費を払うのはおかしいだろ」「元課長も子供持ったらわかりますよ」話そらされてないか。「だから僕は」「またEDですか。なんでもそこに帰結させて生きていけたら楽っすよねー大丈夫ですよ」ムカつく、声が荒くなる「何、が!」「ドリチンな俺でも子供持てましたから」「ドリチン?」と訊いてしまってから光の速さで後悔しているうちに「ドリ…」と彼の声の先端は僕の鼓膜に襲いかかっていた。「ドリルなチンコです」。苦労が偲ばれた。だけれども。


 「いや、子供は大事、子供を持ったら気持ちがわかる、わかる。わかるよ。でも僕が君に養育費を払う理由にはならんだろー」「ありますよ。フミコ元課長」必要悪君の声がドリチンのくせに落ち着きはらっていて僕は焦る。「今、ご自宅ですよね?」「固定電話だからね」「今、元課長のアパートの前の駐輪場にいるっすよ」「僕の、マンションの?」「そうです、元課長のアパートの。前にアパート専用の駐輪場があるっすよね」「確かにマンションの裏にマンション専用の駐車場があるけれど」マンションなのかアパートなのか、駐車場なのか駐輪場なのか、そんな紛争の中心で僕は居所を特定されたという事実に愕然としていた。この人危ない。


 僕のマンションの駐車場にやってきた必要悪君。「元課長は道徳上養育費を払わなければならないっすよ」「だからなんで?君が生活に困ったのは君の…」「またお得意の自己責任すか?元課長」「だって自分の都合で辞めたんじゃん」「元課長、俺が辞めるとき。止めましたか?」「止めてないよ」「それ法律では【未必の故意】っていって罪に問われるんですよ?」こいつ…。僕は平穏を取り戻すおまじないを心で唱えた。スキトキメキトキス、スキトキメキトキッス、故意の呪文はスキトキメキトキス。「で、なにが望みだよ」「二階ですよね、部屋。とりあえず三十秒以内に顔を出してくださいよ」部屋まで特定されているのか。「わかった」僕はなぜか脅迫された気分で窓際にいき眼下いっぱいに広がる駐車場を見た。


 いなかった。必要悪君はいなかった。「早くしてくださいよ元課長」「つーか、いないんだけど」「困るなあ。時間とめますよ」。事態を和ませるために「時間を止めるってまるでザ・ワールドのスタンド能力だね」と言うと「またジョジョですか。あれ流行ってるのステマですよ?」なんて腹がたつことを言うが、いないものはいない。必要悪君の声が耳元で響く。「いいんすか?俺を蔑ろにして」こいつなんで諦めないんだ。ふと名案が浮かぶ僕天才。「僕が妻と別居してる理由知ってる?」「知らないっす」「僕、実はゲイなんだ。上がって来いよ。密室の恋だ」「えっ?」動揺が窺える。大勝利だ。「さあ、ぼうけんにでかけよう」「俺、そっちもちょっと興味ありっす」「ゴメン。嘘。無理」速攻で取り消した。ならぬことはならぬのです。


 結局、住民票の写しを請求する金と履歴書を買う金だけ貸してやった。いずれマンションはバレる。安全が確認されるまで妻との同居は難しいだろう。この文章は件の金の返済が為されないことによる怒りによって書かれた。最後に、必要悪君が僕にパラダイムシフトを迫った際の言葉をここに記して戒めの言葉としたい。


「お節介かもしれませんが、課長もそろそろ時代にあわせて最適化したほうがいいっすよ?」


関連エントリ


(「自己都合で退職した元同僚が半年間のプー経験を売りに在籍時以上の待遇を求めて復帰を希望してきて驚いた。」
http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20120612#1339503482

「自己都合で退職した元同僚が想定外の助けを求めてきて驚いた。」
http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20120902#1346588487

「自己都合で退職した元同僚の自分都合のワンダーな悩みを聞かされた。」
http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20121113#1352757680

「自己都合で退職した元同僚が上司にガチで復職を直訴してきて驚いた。」
http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20121126#1353912450
のエピローグです。)



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